前回紹介した本に続き旅の本です。
でもタイトルからすると、旅に出る前の話のようです。
満を持して初めて旅に出ようというのか、それとも旅の途中で一度落ち着いて再び発とうとしているのか、どちらでしょう。
主人公は十返舎一九。「東海道中膝栗毛」という江戸時代のベストセラーを書いた作家です。
ほら、弥次さん喜多さんの珍道中、といえば思い出した気になれる人もいるでしょう。
その十返舎一九、元はお侍さんだったんだとか。
それがどうしてエンタテインメント作家になったんでしょうね。
なにやら訳ありの匂いがします。
◆ ◆ ◆
そろそろ旅に / 松井今朝子 (講談社文庫)
2008年刊、2011年文庫化
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十返舎一九の本名は重田与七郎。駿府(現在の静岡県)の奉行所に勤める役人の子でした。
家が面白くなく、大阪に転勤している駿府の武士の家来にしてもらおうと大阪へ。
この男、目立った仕事ぶりは見られませんが、人に可愛がられます。
気どらない態度は玄人筋の女性にも人気があります。
江戸時代も半ば過ぎともなると平和が続き、侍もこれといって特殊技能がないけどモテるとなれば、道から外れがちです。
武士を辞めました。
さらに大阪にいづらくなって次は江戸へ。
◆ ◆ ◆
江戸の武士と町人の暮らし、さらに、蔦屋重三郎、山東京伝、滝沢馬琴、式亭三馬といった江戸の文学界の作家やら版元(出版社)たちの胸算用も目の前で繰り広げられているかのうようです。
エンタメ小説といっても、江戸時代は字を読める人は限られています。たいへんです。
与七郎/一九の人に頼まれると断れない性質、どこか煮え切らない態度、物書きになってからもなかなか見えない自分の作品の道筋・・・・。
ストーリーもややダレて感じられるのも一九のキャラの表現のひとつような気がします。
このうじうじした態度がピークを迎えるのが最後の章「道は惑わず」。そして、その訳も明かされます。
ダメ男にも切ない背景がありました。この手の小説は最後の章に惹かれなきゃね。
◆ ◆ ◆
この小説の中で聞香にかんする件があります。
あれこれ遠回りして、人の目により見出される人もいるんですね。
香木の前半生がここにあります。
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