静けさのなかの波紋 ~ 「いつも彼らはどこかに」 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。




ひっそりと暮らす人々が動物/生物との接点をもつ8篇です。

☆☆☆       

 

いつも彼らはどこかに (新潮文庫) いつも彼らはどこかに / 小川 洋子 (新潮文庫)
529円 Amazon, 400円 Kindle版
2013年刊、2016年文庫化

 


三冠馬の外国往きに付き添うのが役割の帯同馬と
遠くへ乗り物で行けない実演調理販売する女

亡き翻訳者の遺族を訪れた小説家と
森で見つけたビーバーの頭蓋骨

兎の人形にオリンピック開催までの日数を表示する食堂の主人と
その人形のモデルとなった絶滅種の兎

子どもを手放し動物園の売店で働く女と、
子どもの名「h」を発音されずに名前含むチータ(Cheetah)


☆☆☆       

何かしら喪失や制約を抱きながらひっそりと暮らす主人公たち。
いくらか非現実的な空気が漂う日常で一条の光となる、
彼らが見出す注目の対象はささやかな楽しみとなります。
期待通り、小川洋子の織りなす静謐な短篇たちです。

そんな世界に、コップの水に落とされた一滴のインクのような、
疑念、嫉妬、嘘、嘲笑、蔑視といったネガティブな要素。

見知らぬオリンピック種目の町での開催を危ぶむ不安、
☆☆老女が繰り返す意地汚いほどスーパーでの試食や嘘
☆☆☆☆反応の薄い下働きの女を蔑む視線 etc.

登場人物の心を、小説そのものを波立たせる
こうしたある種の悪意でさえ、ささやかです。


☆☆☆       

今回、これらの悪意に惹かれました。
ひんやりとした各篇の根底に流れる静かな非現実感に、
ささやかな悪意が小説に生々しく体温を与えています。

柔らかな善意が漂う作品のなかで、
悪意の方に鼓動と血の流れを強く感じてしまいます。

悪意に胸が高鳴る体質なのかもしれません。
小川洋子は腕利きの悪意の書き手です。



[end]


*** 読書満腹メーター ***
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読みごたえレベル E■■■□□F


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