やりたいことを見つけなさい、
と諭す人が子供の頃から私の周りにはいませんでした。
就職活動をしていた時でさえ、皆無でした。
恵まれています。
もし、やりたいことを見つけてから仕事を探していたら、
心が漂流を続け、私は今でも仕事に就いていなかったでしょう。
☆☆☆ ◆
仕事のやりがいと愉しみは別物、ってありふれた生き方です。
いい事でも、悪いことでもなく。
好きで趣味にしていたことを仕事にしたら、
それは楽しみとは異なる位置に立つことになります。
この小説の主人公橋本巧(コオ)は、
好きなことを仕事にしています。
☆☆☆ ◆
- 彼のオートバイ、彼女の島 / 片岡 義男 (角川文庫)
¥492 Amazon.co.jp / ¥250 Kindle版
巧はバイクで原稿などをを運ぶ仕事をしています。
仕事で使うのは自前のKAWASAKI 650RS/W3。
☆☆作曲を学ぶために大学に入りましたが、
☆☆学校に通っている様子はありません。
独りで信州の高原をツーリング中に休んでいると、
見知らぬ美しい女性が巧に言葉をかけてきました。
そこでは互いに名前も明かさないまま別れたのに、
思わぬところで再会するとなると、偶然で片付けられません。
偶然の再会後、巧と美代子は
徐々にバイクに乗って時間を過ごすようになります。
☆☆☆ ◆
先輩後輩の人間関係に気を使い、人手不足の巧みの職場でも、
バイクを駆っている間、巧の心は解放されています。
事故に遭えばすぐ死につがなるバイクの運転には、
場所に潜むリスク、バイクの性能、自らの技術などを考え、
冷静な判断が欠かせません。
バイクを運転している間、
日常の煩わしいことなど頭に浮かべる余地がないのです。
☆☆☆ ◆
この小説が刊行されたのは1977年。
1973年の石油ショック、翌年のマイナス経済成長を経験し、
それ以前より低めの経済成長率で離陸しはじめた時期です。
ピンクレディーの曲とEaglesの Hotel Calfornilaが溢れ、
☆ホンダ・アコードが初めて道路に登場し、
☆☆キャンディーズが「普通の女の子」に戻り、
☆☆☆スクリーンではロッキーが”Adrian!!"と叫んでいました。
世の中が明るさを取り戻しています。
石油ショック後の窮屈さにいや気がさし、解き放たれています。
☆☆☆ ◆
年を重ねた世代からみれば、刹那的と眉をひそめそうな暮らしを、
片岡義男は、生き方というほど確固としたものに昇華させずに、
読み手に受け入れやすくしています。
バイクの型、服装といったハードを具体的に描写しています。
時代の空気とこうした小道具の組み合わせれば、
登場人物の気持ちも表面的になぞる程度でも、
心の在りようは、理屈っぽい心理描写抜きでも想像できます。
こうして時代感を読み手の心に湧きださせる文章は、
この作者の持ち味です。
[end]
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