Hospitalist Vol.4 No.2 2016
[ミニコラム]術前心エコー図検査は必須か?P242-47
より。
心不全は周術期心合併症のリスク因子である。
非心臓手術での30日死亡率(PMID21709059)は、
非虚血性心不全 8.5% OR2.92 2.44-3.48
虚血性心不全 8.1% OR1.98 1.70-2.31
心房細動 5.7% OR1.69 1.34-2.14
冠動脈疾患 2.3%
冠動脈疾患以上に、心不全は周術期合併症&予後のリスク因子として重要である。
心不全といえばEF低下!?
ということで、
術前の心エコー検査により測定されたEF低下は、
術後合併症の発症と関連があるという報告もある。
AAAの手術を対象とした報告(PMID8107716)では、
術後の心不全発症と有意に相関(OR2.9 1.1-8.1)。
非心臓手術を対象とした報告(PMID11230829)では、
周術期心筋梗塞(OR2.8 1.1-7.0)、
心原性肺水腫(OR3.2 1.4-7.0)の発症に関連。
周術期合併症の予測因子(特異度76%、陰性的中率94%)。
中等度〜高リスク非心臓手術を対象とした報告(PMID20412467)では、
高齢、DMとともに独立した30日以内の心有害事象の規定因子。
など。
心エコー検査でEFを確認しておくことは、
術前評価の一つとしてやっぱり大切だ。
しかし、
ACC/AHAのガイドライン(PMID25091544)によると、
無症状で、4METs以上の運動耐容能があれば、術前の精査は不要とされ、心エコー検査の実施は推奨されない。
日常生活を普通に営むことができるような人、
つまり、大抵の術前の患者には心エコー検査は過剰医療となる。
ガイドライン(PMID19713421)でも心エコー検査の実施が推奨されているのは
原因が特定されていない呼吸困難の症状がある場合や、
心不全患者で症状の悪化が疑われる場合のみである。
心エコー検査していいのは、
見るからにやばそうで、
担当したら麻酔管理に不安を感じるようなイキの悪い人だけなのか。
とはいうものの、
血管手術を対象とした報告(PMID20502115)では、
術前心エコー検査の結果、
40%の人に無症候性の左室機能障害があり、
無症候性の収縮障害(OR2.3 1.4-3.6)、
拡張障害(OR1.8 1.1-2.9)、
ともに30日以内の血管手術後の心血管イベントと相関していた。
ということは、
無症候性でも、
心エコー検査はやっぱり必要なのでは!?
無症候性であっても、
手術リスクによってはルーチンの心エコー検査を実施し、
術後合併症の発症リスクの層別化をしておくことは大切かもしれない。
しかし、
EBM全盛のこの時代、
心エコー検査で術前評価し、
リスクを層別化したとしても、
それにより予後が改善したというエビデンスはない。
エビデンスがないなら、
やっぱり心エコー検査いらないのでは?
いやいや、
エビデンスって簡単に言うけれど、
心エコー検査をルーチンで実施すると、予後が改善する!
ということを証明するのは、
非常に困難で、実現可能性はとても低い・・・と思うので、
エビデンスなんかなくて当然では。
たぶん、今後も出てくることはないだろう。
だから、
予後を改善するエビデンスがないからといって、
心エコー検査の意義が否定されるわけではない。
実際、術前の心エコー検査で、
未診断の心疾患患者の同定や、
それに伴う麻酔・周術期の血行動態管理の改善につながったという報告(PMID19549642)もある。
これはこれで、
22%で新規の内科医が介入するような心疾患が見つかったり、
5%で手術が延期になったり、
46%で麻酔方法が変更になったりしているようなので、
すこし多すぎな印象で、どうなのかなあと思ったりもする。
心エコー検査で得られる情報(各chamberの大きさ、機能、弁膜症、左心と右心の関係、EFの計測など)で、
麻酔方法をどのように変更しようと思うのだろうか?
という、あまり大きな声では言えないが、
素朴な疑問も個人的にはある。
が、
術中&術後の血行動態管理の方針決定に必要としている心エコー図検査を重要視している麻酔科医が多い現状においては、
たとえ無症候性であっても、
術中管理する麻酔科医からの要望がある場合に限り、
たとえそれが、
麻酔科医の単なる精神安定剤に過ぎないのでは!?
と思ったとしても、
術前検査として心エコー検査の実施は許容して(大目に見て)もらいたいところです。
ここらへんは、
周術期合併症の有無や、
死亡率などをエンドポイントする臨床研究では、
なかなか評価できない領域と思われ、
新たなエンドポイントの必要性が言われている。