ストケシア(轍鮒・エピソード4) | anemone-baronのブログ

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落書き小説根底にあるもの!
私の人生は、「存在しなければ、何を言っても正しい」という数学の存在問題の定義みたいなもの。小説なんか、存在しないキャラクターが何を言っても、それはその世界での真実なのだ。

ブルームエージェンシー オフィス

 夕方4時30分、ブルームエージェンシーのオフィスは緊迫した雰囲気に包まれていた。窓の外は徐々に夕闇に包まれつつあり、オフィス内の蛍光灯の光が緊張した空気を冷たく全体を包みこんでいるようだ。

パソコンのモニターが明るく照らすデスクの上には、書類やメモが散乱しオフィス全体に仕事の忙しさが充満しているようだ。カフェコーナーから漂うコーヒーの香りだけが、疲れた頭を少し和らげる。

  僕はキョッコ(住田)達が話し合っているグループに入って行った。


「自分もなにか手伝えないか?」とキョッコ(住田)にたずねると、彼女は笑顔で「ありがとう。でも、これは私達の問題だから、山本さんはお帰りになってください」と丁寧に事務的な口調で言った。

岡さんも「心配おかけしてすみません。代理店としてはよくあることなんですよ」と少しおどけて言ってくれたが、それは僕に対する気遣いだとは分かっていた。

僕は笑顔で二人の言葉を無視して「このポスター、どんな風に変更するんですか?」と尋ねると、岡さんは少し間をおいて

 

「メインの画は変更せず、周りに主要選手達の顔写真とプロフィールを囲む予定です。少しゴチャゴチャするけど、山本さんの画は絶対に変更しません」と答えた。

キョッコ(住田)も「広報用のポスターみたくなるけど、今は仕方がないですね」と続けた。

僕は考え込んでから提案した。

 

「写真の代わりに似顔絵のイラストを使うというのはどうでしょうか?」

その場にいた面々は互いに顔を見合わせて、「……たしかに面白いですね。その方がバランス、合いますね。しかし……」と言いかけた時、僕は「僕が描きます。」と強く言った。

するとキョッコ(住田)が慌てて「待って、だい!…山本さん。この変更プランは明日五稜商事に持っていかなければならないの、時間的に……」と言いかけると、僕は「ここで描けばいいでしょ」と答えた。

辻本さんがはっきりした声で「名案だと思います!」と賛成した。

 

山田も何か案があるようで「画は描けないけど協力できることがあると思います」と言った。

キョッコ(住田)は「どんなことが?」と尋ねた。

山田さんは「山本さんの描いた選手イラストを、以前から用意していた大会用のTシャツにプリントして、明日五稜商事とジャスティスにプレゼン材料にすれば……」と提案した。

岡さんが少し厳しく「うちには紙以外のプリンターはないぞ。朝までに完成できたとしてTシャツプリントはどこでする?」と指摘した。

山田さんはハッとして「そっそれは、和洋の出力センターにお願いして……」と答えたが、岡さんはさらに「その予算は誰が出す!」と問い詰めた。

キョッコ(住田)が山田さんの案を支援するように「データ・マーケティング部で持ちます。和洋にも私からお願いします。」と答えた。

 岡さんは最初から僕の案に賛成していたようで、決断後の指示が的確だった。

「山本さん、今回は全部で12人のイラストが必要になります。デザイン部に資料の写真や動画もあります。山本さんはイラストのデッサンをお願いします。背景や色つけは私も含めデザイン部の面々で行います」と説明した。

方向性が決まると一気に、動き出すスピード感と的確な指示と無駄なく作業に取り掛かる社員たちの動きが流れるように始まった。

僕はそれを見て(優れた人たとのグループって凄いな)と関心してた。


休憩スペース

キョッコ(住田)が僕の袖を引っ張って、自販機の休憩スペースに連れて行かれた。
温かいコーヒーを買ってくれて僕に渡すと、「ありがとう、だい(大樹)」と言った。

僕は「まだ、これから始まるから。上手く描けるように頑張るさ。それにキョッコ(住田)たちのチームの一員になったようで少し嬉しいし。」と答えた。少し照れくさいかったが本心だった。

彼女は「そうね。まだ始まったばかりだもんね……」と他に何か言いたそうな表情をしていた。

彼女は少女に戻ったような口調で「そういえば~、一緒に”一つの事”したことなかったよね。子供の頃は何時も一緒だったのにね」と微笑んだ。

僕は、その言葉に一瞬過去の記憶に引き戻され、心の奥底から懐かしさが溢れてきた。キョッコ(住田)と過ごした日々、楽しかった思い出、そして一緒に笑った時間。

彼女の言葉は、僕達二人にとって特別な意味を持っていた。

僕はコーヒーを一口飲んでから、からかうように「そうかな~。一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たりさ、押入れの中に秘密基地作ったりさ。」と返した。

彼女は顔を赤らめて「バカ!それは大昔のことでしょっ!」と言って二人で大笑いした。

その表情に彼女の本心が少し垣間見えたような気がした。僕たちは大人になり、それぞれの道を歩んできたけれど、その絆をもう一度取り戻そうとしている。

「とにかく時間が無いけど頑張りましょう」と彼女が言うと、僕は頷いて笑顔を作った。

オフィスの窓の外には、夕闇が広がり始めていた。街の明かりが少しずつ灯り始め、夜の訪れを告げている。
 コーヒーを飲み終えた後、オフィスに戻る途中、僕はその光景を見ながら、キョッコとの再会がもたらした新たな希望を胸に、彼女が隣にいるだけで、不思議と心が落ち着き気力が湧いてくる。

この感情を大切にしながら、今回の仕事に全力を尽くせそうに感じていた。


bar.GaGuRr

 都内の静かな一角に佇むオーセンティックな「bar.GaGuRr」。バーの静かな空気の中で、バーテンダーが静かにグラスを磨いている。

 

重厚な木製のカウンターと柔らかな照明、バーテンダーの後ろの棚にはウイスキーのボトルがずらりと並び、その光景がこのバーの豊富な品揃えを物語っている。

藤岡は何時ものグレンリベットの水割りを、森本はアードベッグのオンザロックを前に置き、二人は深い談笑にふけっていた。

 

森本が葉巻をふかしながら、カウンター越しのバーテンダーに微笑を投げかける。

グレンリベットは、滑らかでバランスの取れたフルーティーな味わいが特徴で、藤岡の思考を研ぎ澄ませる一助となっていた。

藤岡は森本のアードベッグに目を向けて、「いい歳なのにそんなドライな物飲んで、大丈夫か?」とからかうように言った。

森本は葉巻の煙をゆっくりと吐き出しながら、「年だからこそ刺激が必要なんだよ」と反撃した。アードベッグのスモーキーでピート感の強い風味が口の中に広がり、強い刺激が森本の疲れを癒やしていく。

藤岡は住田達からの報告を受け作業の受理をした後、和洋の森本と「bar.GaGuRr」で合っていた。

 バーの静かな空気の中で、今日の出来事を二人で話し合っていた。

藤岡は軽くグラスを回しながら

 

「今晩、山本さんが選手たちのイラストを描くそうだよ。12人分だから彼も大変だろうな。」

森本はバーテンダーの方を見て

 

「彼なら、似顔絵描きなんかも、時々やってるから大丈夫だろ。うちは、何時でもデータを飛ばしてくれたら、印刷できるように指示してあるから、確認用でも遠慮なく使ってくれ。」

藤岡は感謝の意を込めて、「ありがとう。長い夜になりそうだな」と言い、グラスを傾けた。

森本は笑いながら「部下が徹夜してるのに、こんなとこで飲んでて良いのか。」

藤岡は微笑を浮かべつつ、「それはお互い様だろ。俺には俺の仕事があるし、第一、俺が現場にいても役に立たないどころか、皆んな緊張して仕事がはかどらんだろ。」と返した。

バーテンダーも二人の会話を微笑みながら流し聞きつつ、他のお客さんの注文したカクテルを作っていた。

森本は、笑いながら「ま~たしかにそうだな。で、五稜とは話ししたのか?」

藤岡は一瞬をおいてから、「まだだよ、情報を整理してから話さなと、ただの聞き手になるだけだからな。色々分析してるところさ。」と慎重な姿勢を見せた。

森本は葉巻きの煙を見上げながら、「流石だな。しかし五稜にとって大したイベント(仕事)じゃないだろ。オリンピック級なら分かるが、目的がさっぱり分からん。」

藤岡はグラスの縁を指でなぞりながら、「そうだな……」と気持ちを入れる。


「大きい目的か、小さい目的か、又はその両方か……」と藤岡は何かを考えながら、ぼんやりとした表情で呟いた。

森本は眉をひそめ興味津々に「何か分ってそうだな。おい!教えろよ。」

森本の方を向いて「そうだな……五稜商事、三崎晴彦は東大の後、プリンストン大学院出てる。」

森本は少し考えた様子で「プリンストン?……住田くんと同じか……」


閃いたように「あっ!ヘッドハントか?」と森本が言うと、藤岡は静かにグラスを口にした。

「あそこの会社の社風はよく知ってるだろ。派閥が出身大学で固まってることを、彼は東大法学部も出てるし、東大派閥の今はドン的な存在だろ。奨学金制度も要してあるし、若手人材育成に力を入れてることは確かだ。」と藤岡は続けた。

森本は藤岡を少しからかうように「教育熱心な事だな。学閥か……お前も、東大出てるだろ、同期だっけ?」

藤岡は手を横に降って「俺のほうが学年は3っ上だ。在学中は合ったこと無いが、もちろん今は、お互い知っているがな。」

「すると、住田くんと三崎は接点が何処かであるのか?」

藤岡も手のひらを上に向けるような仕草で、「それは分からん。ただ、彼女の在学中の情報は三崎に行っていたと思う。まぁ~他にも留学生は沢山いただろうから。その中の1人ぐらいじゃないかな。」

その瞬間、バーテンダーが二人の間に新しいナッツの皿を置き、「何かお困りのようですが、こちらをどうぞ」と笑顔で勧めてくた。

二人は一瞬の緊張感をもって笑い合い、藤岡はバーテンダーに「ありがとう。」と感謝を伝えた。

 「bar.GaGuRr」の落ち着いた雰囲気の中で、藤岡と森本の会話は続いていた。

 

彼らの頭の中には、明日の仕事と対策が渦巻いている。静かに流れる時間の中で、二人はそれぞれの役割を果たすために、心の準備をしていた。


ブルームエージェンシー デザイン室


私は、今晩のスケジュール内容を和洋画材の西岡課長と電話で打ち合わせしていた。

西岡課長は温かい声で、「住田さん、分かりました。こちらの準備は出来ていますので、何時でもデータを送ってください。」

「ありがとうございます。ご迷惑かけて申し訳ございません。」電話をしながら私は、デザイン室の一角にいる”だい”(大樹)を見ていた。

「我々も他人事では無いので、森本も心配しておりましたから、住田さん達も、頑張りましょう。」温かい言葉をいただき感謝して電話を切ると、 ”だい”(大樹)はデスクに腰掛け、スケッチやデザイン案を無造作に広げていた。

その集中した様子に、私は彼の熱意と才能を感じる。ノートパソコンの画面には、選手たちの動画や写真が映し出されており、彼はその映像を凝視しながら鉛筆を動かしている。

彼がペンを握りしめ、選手たちの特徴を捉えた似顔絵を描いていく様子を後方から見守る。

動画の一時停止ボタンを押して、選手の表情や筋肉の動きをじっくり観察しながら、その手の動きは滑らかで紙の上に鮮明な線が次々と浮かび上がっていく。

「岡さん、これお願いします。」と彼の声が聞こえ、画面が切り替わる。

 

新たな選手の顔に集中する彼の姿は、まさに真剣そのものだ。手元には各選手の特徴を書き留めたメモが並び、彼の脇には複数の鉛筆が置かれている。その光景を見ながら、私は彼の才能と努力に改めて感心していた。

デザインリーダーの岡さんが部下のスタッフに指示を出す。

 

「ここの色合いをもう少し明るくしてください」と、スタッフも迅速に応じ、モニターの前でデザインを調整していく。

岡さんは他のスタッフと協力しながら新しいアイデアを出し合い、スケッチブックにアイデアを書き込んでいる。

 

「このレイアウト、もう少しダイナミックにした方が良いかも」と意見を述べ、周囲のスタッフから賛同の声が上がる。

私はデザインのことは詳しくないが、このデザイン室のチームワークには本当に感心している。

 

彼らの情熱と連携は、私にとっても励みになる。”だい”(大樹)の集中した後ろ姿を見て、今夜の作業を絶対に無駄にさせないと強い気持ちが湧き上がってきた。

 大樹は静かに集中しながらも、周囲の賑わいを感じ取っていた。彼はこの環境に身を置きながら、クリエイティブな刺激を受け、自身の作品にさらに力を注ぎ込んでいた。


 僕は、キョッコ(住田)の指示や岡さんのアドバイスが、まるで背中を押してくれるように感じる。

 

「このプロジェクトが成功すれば、キョッコ達の努力が報われるんだ」と心の中で決意を新たにする。

 

ペンを握る手に自然と力が入り、ますます力強く紙の上を走らせる。選手たちの躍動感を見事に表現していくのが、自分でも分かる。

ここにいる全員の期待に応えるために、僕は一層集中力を高める。時々視線が交差するキョッコ(住田)の温かい眼差しが、僕にとって大きな励みになっている。

 22時を回ったが、まだ半分も出来上がっていない。かれこれ5時間ぐらいは皆んなぶっとうしで作業をしていた。そこに、辻本さんが「みなさ~ん。ご飯買ってきましたよ~」と元気な声とともに、両手に袋一派の差し入れを持ってきた。

カレーライスにカップ豚汁とコールスローサラダ、僕は「いい組み合わせだね。」と辻本さんに笑顔で声をかけた。

その時、岡さんが大きく両手を上げて「ヨッシャ!45分間休憩だ。皆んな食べて少しリフレッシュしよう。」と。

 ブルームエージェンシーのデザイン室は、創造性と情熱が交錯する場所だ。ここで生まれる作品は、多くの人々に影響を与え、イベントの成功を支える重要な要素となる。今回、僕もその一員として全力でプロジェクトに取り組んでいる。