L. M. モンゴメリ『銀の森のパット』・『パットお嬢さん』 | ・・・夕方日記・・・

L. M. モンゴメリ『銀の森のパット』・『パットお嬢さん』


・・・夕方日記・・・-1


 銀の森のパット 上巻銀の森のパット 下巻パットお嬢さん

「銀の森屋敷」と呼ばれる家で暮らすパット・ガーディナーが成長していく様子が、

プリンスエドワード島の豊かな自然を背景に描かれています。

家の後ろに白樺林があるので Silver Woods→銀の森屋敷。

『銀の森~』では7歳から18歳まで、『~お嬢さん』では20歳から31歳まで


銀の森屋敷は、カナダの昔ながらの古い農家で、パットは五人きょうだいの四番目。

長兄ジョー・四つ上の姉ウイニー・ひとつ上の次兄シドに、

物語の冒頭で妹のレイ(七つ下)が生まれます。


家にはのっぽのアレック(父)と優しい母、使用人のジュディ・プラムと(家事担当)、

途中からチリタック(農作業担当)も加わり、たくさんの猫(とときどき犬)も。

モンゴメリの物語には珍しく、両親が揃っており、きょうだいがいる温かい家庭で

周囲の愛情につつまれてパットは大きくなっていきます。


パットは「人でも、ものでも、なみはずれて好きになる(上・p.3)」性質で、

銀の森とその周りの自然に深い愛情を抱いています。

パットの願いは、「何年もにわたりいつくしまれてきた家のみが持つ表情をたたえ」、

「中へ一歩踏み込んだとたんに歓迎の気分につつまれる家(p.9)」である「銀の森屋敷を切り廻し、

病弱の母の世話をし、現在の生活をできるだけ変化させないようにすることだけで(p.8)」した。


体が弱い母に代わって、子どもたちを見守ってくれているジュディは

アイルランド出身で、すばらしい記憶力を持ち、お語の名人で

銀の森の子どもたちは、様々な物話を聞かせてもらいながら大きくなります。

働き者でユーモアがあって、銀の森とガーディナー一家を心から大切に思っているジュディの存在が

家と並んでひとつの柱になっているように思います。

日本語訳では、「おばちゃん」と呼ばれているのですが、原文はJudyと名前で呼ばれています


・・・夕方日記・・・-2


物語の舞台は、最初から最後まで銀の森屋敷から離れません。

教師の免状を取るため、クイーン学院に通う一年間は下宿生活を送りますが

週末ごとに帰ってきて、そのときの描写の方にページが割かれています


家の仕事をし、夕方には家の裏の白樺林やお気に入りの場所を散歩し、

夜には「光と陽気な気分のみなぎる、ジュディの白塗りの台所(p.34)」で、

チリタックやレイと笑って過ごしながら、ジュディが作ってくれる「ちょっと一口」(夜食)を食べる…というような、

何気ないけれど、穏やかな時間が重なっていく様子が描かれています。


作者のモンゴメリは、『銀の森のパット』を書き上げた1932年12月3日の日記に

  "Pat" is more myself than any of my heroines. (①p.211)

「パット」は今までに書いたどんなヒロインよりも、私に似ている と記しており、

文通相手のマクミランに宛てた、1933年1月1日付の手紙でも

  パットの中には、わたしが書いた他のいかなる女主人公にもまして、

  わたし自身をたっぷりと注入しました。(②p.205)

と書き送っています。


アンがゆたかな想像力を持っていたり、エミリーが作家になりたいと熱望していたりするのに対して

パットにはこの二人ほどの特徴やバイタリティは見られないのですが、

むしろそこが穏やかで、読んでいてとても落ち着きます。

木々やお気に入りの場所を大切に思う気持ちはより深く書かれており、

自然や家への愛情や、料理好きなところ(参考: )が反映されているように思いました。


日々の仕事をきちんとこなし、楽しいことばかりではないけれど

静かに朗らかに過ごしていくには、たぶん一種の強さが必要なのだろうと思います。

「物事がうまくいかないとき笑っていられる(p.247)」パットたちの生活には

静かに力づけられるような、日常の底力のようなものを感じるのでした。


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『銀の森のパット』上下巻は、人生初、自分で本屋さんに頼んだ本です。


新潮文庫から出ているのは『パットお嬢さん』だけで、高一の秋に読みました。

あとがきで、訳者の村岡花子さんが

本当は『銀の森~』が先だけれど絶版で手に入らないため

こちらを先に出しますと書いてらしたので、それ以来

本屋さんに行くたび『銀の森~』の翻訳を捜索しておりました(苦笑

今ならネットで検索すれば、出版社から何から一瞬でわかるんですよね…すごい世の中になったなぁ


一年弱かかって、地味なローラー作戦と偶然で

篠崎書林から出ているモンゴメリのシリーズの中にあると判明!

思い切って取り寄せを頼みました。


薄い短冊のような控えを大事に財布にしまい、電話を待つこと数週間、ついに入荷しましたと連絡が。

八月の終わりで、午前中は補習授業→お昼を挟んで六時まで運動会の準備という

ものすごい時間割だったため、本当はいけないのですが、翌日の昼休みに自転車で脱走しました。

家→学校→市街地という立地だったので、学校から行く方が近かった


本当に嬉しくて、カウンターで控えを渡して待っている間と

本屋さんを出て自転車のかごに包みを入れた瞬間は今でも覚えています。

たぶん私の「買ったときに嬉しかった度」は、この先どんな本を買っても

このときを越えることはないような気がします


二学期になって、日毎に秋らしくなっていく中、何度も読みました。


作品中では四季を通じてのできごとが書かれているのですが、

秋の描写が多いように感じます。

とりわけ、『パットお嬢さん』は1年ごとに章立てされており

向こうでは年度始めだからなのか、秋から始まっているものが多く

買った時期とも一緒になって、何となく秋のイメージの本なのでした。


絶版になってしまったのが、本当に残念です。


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数年前に友達がお土産で買ってきてくれた絵はがき、

モンゴメリの著作の初版本の表紙なのだそうです。

左端の、袋に入っているのが『赤毛のアン』です



<参考文献>

①L. M. Montgomery, The Selected Journals of L.M. Montgomery: Volume IV: 1929-1935 ,

  Oxford Univercity Press, 1998.

②L. M. モンゴメリ『モンゴメリ書簡集〈1〉G.B.マクミランへの手紙 』 (1992年、篠崎書林)

  ジョージ・ボイド・マクミランは、スコットランド在住で、新聞社に勤めていました。

  モンゴメリとは1903年から1941年まで文通を続けました。

  『可愛いエミリー 』の献辞は以下のようになっており、彼に捧げられています。

   

  To Mr. George Boyd Macmillan

  Alloa, Scotland

  in recognition of a long and stimulating friendship


  長きにわたる、励まし合える友情に感謝して
  スコットランド、アロウアのジョージ・ボイド・マクミランへ