鷺の翼に乗って

 

 

 

 

 

日本が経済安全保障戦略で「黒字国」から「赤字国」に転落した3つの構造的理由

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  • 日本は2010年までは圧倒的な貿易黒字国でしたが、2011年以降は貿易赤字となる年の方が圧倒的に多くなっています。2011年以降で貿易黒字となった年は3回くらいしかありません。 主たる原因は原発停止に伴い電力需要の大部分を火力発電で賄うようになったことです。そのためガス燃料の輸入量が跳ね上がっており、経済安全保障的にもここがウィークポイントになっています。 ロシアとの関係が悪化しながらもガス燃料の輸入は止められないのはこういう背景があるからです。 またデジタル関連の赤字が大きい。企業が支払うAWSやAzure等クラウドサービスの使用料もそうですが、GoogleやAppleなど一般消費者が使うデジタルサービスも軒並み海外に手数料を持っていかれる環境にあるというのも大きいでしょう。 どちらもすぐに解決することは難しいですが、少なくとも民間だけで解決できる問題ではないことは確かでしょうね。

 
  • 赤字になるのは、海外に売るものが少なく、買うものが多いからである。記事にあるエネルギーの海外依存の高さは以前からのものだが、原発の停止で火力発電への依存度が上がったことで、日本の経済構造がさらに脆弱になった。となれば、赤字を黒字に変えるには、売りものを増やして買うものを減らすしかない。石油のない日本にとってエネルギー依存はある程度はやむを得ないが、原発再稼働の促進である程度は減らせる。問題は売りものである。デジタル化に乗り遅れたこと、製造業の海外流出で、日本製の売るものが減少してしまった。当面はTSMCのような外資を積極的に導入しつつも、長期的には日本国内の産業を強化すべく、国が積極的に介入するしかない。収入を増やして支出を減らす当たり前のことができなければ、今後も赤字は増え続け、富の流出による国力の衰退に伴って、世界における日本の存在感は停滞する一方だろう。

 

JBpress

写真提供:共同通信社

 近年、新聞やニュースでも多く取り上げられるようになった「経済安全保障」。グローバル化する「経済」は、国家の安全保障という文脈にどのように関連するのだろうか。本連載では『経済安全保障とは何か』(国際文化会館地経学研究所編/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。米中・日米・日中関係をはじめ、デジタル・サイバー、エネルギー、健康・医療、生産・技術基盤の領域において、これからの日本はどのような国家戦略をとるべきなのか、各分野の第一人者が分析・提言する。  第1回は、典型的な「赤字国」と言われる日本の経済安全保障上の構造的問題点や、国家安全保障に経済力をリンクさせるために求められる姿勢について考える。 ■ 日本の経済安全保障の3つの“赤字”構造  日本は、欧米諸国とともに対ロ制裁国連合に加盟している。ロシアの大手7行の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除、ロシアの中央銀行の外貨準備の海外運用分の凍結、ロシアに対する貿易面での最恵国待遇の停止、欧州へのLNG備蓄の緊急融通、ウクライナへの防弾チョッキの提供、ウクライナ避難民の受け入れ、などG7としての協調行動を実施している。  しかし、経済制裁が長期化し、それも中国を巻き込んだ米欧日ブロックと中露ブロックの対立が先鋭化すれば、世界経済はかく乱され、経済安全のリスクが大きくなることは避けられない。安全保障を米国に頼り、輸出・投資を中国に頼る日本は厳しい状況に置かれる。  一般に、一国の安全保障に関しては、“黒字国”と“赤字国”という概念が用いられることが多い――たとえば、米国は圧倒的な“黒字国”、ポーランドやウクライナは歴史的に“赤字国”というふうに――が、日本は典型的な“赤字国”、それも構造的な“赤字国”であることを忘れてはならない。  その赤字として、(1)エネルギー・資源の海外依存度が高い、(2)サイバーセキュリティが弱い、(3)経済制裁・経済封鎖に弱い、の3つを挙げることができる。

  第1に、日本は、G7の中でも1次エネルギー自給率(2020年)が11%しかない(石油0%、ガス3%、石炭0%)。自給率が100%を超える米国とカナダは別としても、英国(75%)、フランス(55%)、ドイツ(35%)、イタリア(25%)と比べても際立って低い。

  なかでも石油は、政情不安定な中東の産油国からの輸入が多い。

輸入原油がペルシャ湾のホルムズ海峡を抜けて輸送されるいわゆるホルムズ海峡依存度(2018年)で見ると、日本78%、韓国63%、インド61%、中国36%である。2019年6月、安倍晋三首相(当時)がイラン訪問中、何者かがホルムズ海峡を運航中の日本関連船籍のケミカル・タンカーを攻撃したことは記憶に新しい。  1980年代のイラン・イラク戦争の際、イランが石油タンカーを攻撃した事例もある。日本はまた、レアアース、コバルト、マンガン、リチウム、ガリウム、インジウム、セレン、プラチナ、ウランなどほとんどの戦略的鉱物資源を海外に依存している。

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