私のハウス・キーパー君② | cocktail-lover

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ベルばらが好きで、好きで、色んな絵を描いています。pixivというサイトで鳩サブレの名前で絵を描いています。。遊びにきてください。

  彼との出会いは、決して格好の良いものではなかった。

 

私だって、好きで部屋を散らかしていたわけでもなければ洗濯物を溜めていたわけじゃない。ただ、翻訳コンペの〆切は1週間後なんだからしかたがない。本業の翻訳依頼の件も片づけながらだから大目にみてほしい。

 

私からのLINEの返信が無いからって、わざわざ心配して訪ねてきた姉さんが勝手にハウス・キーパーを頼んでしまった。専業主婦で家事もきちんとこなす5人の姉さんたちに比べたら、そりゃあ私はだらしないけれど、最低限の事はやっているつもりだ。今週が特別なんだってば・・・・。

 

 まあ…そうは言っても‥・部屋を片付けてくれて、洗濯もしてくれるならありがたい、かな。

 

明日の朝から1週間、来てくれるっていうハウス・キーパー。どんな人かな?昔、実家に通いで来てくれていたマロンさんみたいなおばさんならいいな。家事の他に、色々なお話もしてくれたっけ。

 

 翌日の9時頃、チャイムと共に聞こえたのはよくとおるバリトンボイス。え?ハウスキーパー?

あ、ああそうか。この人がマネージャーで女性のハウス・キーパーを連れてきてくれたのね、きっと。

 

 ドアを開けると、女にしては長身の私よりも頭一つ背が高い黒髪の男性がなんとも親し気な笑みで

私を見ている。一瞬キュン、としてしまった。それにしても・・・・あの。

 

 「えっと、グランデイエさん。ハウス・キーパーの方はどちらですか?」

するとアンドレって名乗った彼は大きく目を見開いた。

 「え?だから僕です。僕がハウスキーパー。1週間お世話になります。」

 

 嘘でしょ?だってハウスキーパーって女性が来るものだと思ってたから。

 

「あの…あなたがハウスキーパー・・・・ですか?」すると彼は、ふんわりと微笑んだ。

「そうですよね。ハウスキーパーって言うと、女性の活躍が大だから。でも家事って肉体労働の部分が多いでしょ。男性も少しずつ増えてきているんです。お仕事忙しいんですよね。なんでもやりますよ。

まずは細かい打ち合わせをしましょうか。」

 

とんでもない!いやよ!って最初は思った。だって男の人(イケメンだからなおさら)に散らかった部屋や洗濯物触られるなんて・・・・そう思ったけど彼の不思議な雰囲気が私の警戒心をトロトロと溶かしてしまった。言われるがまま、私は彼と打ち合わせに入った。

 

 本や資料を山積みにしてるテーブルに、僅かA4判位のスペースをひねり出した。折り畳みの椅子を彼に勧めて、私は仕事用の椅子に腰かけた。

 

「改めまして。ライジングサン派出所のアンドレ・グランデイエです。1週間よろしくお願いいたします。」

「あの、私オスカル・フランソワといいます。恥ずかしいんですけどコンペを控えていて、部屋がこんなで。よろしくお願いいたします。」

「わかりました。それでは契約内容を確認しましょうか。僕のこちらでの仕事は今日から1週間。朝は9時から4時まで。フランソワ様の方で今日はやめてほしい、逆に延長という場合は前日までにおっしゃってください。1時間○○フランの計算になります。」

「わかりました。あの、それで洗濯ですが・・・下着は触らないでいただけると・・・。」

「もちろん、お客様のご要望を細かくお聞きするための打ち合わせですから。それでは洗濯は明日にしますから分別だけしておいてください。今日は部屋の掃除と買い物。」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」

「それともう一つ、いいかな?」アンドレは私の顔を見た。

「な、なんでしょうか?」

「食べてないでしょう、この数日。とても顔色が悪い。何か消化がよくて暖かいものと、甘い物を作っていきたいのだけど、いいですか?」

私は真っ赤になった。た、確かにこの数日ウイダーインゼリーと、カフェが主食になってる。まるでカブトムシ。

「あの、ハウスキーパーさんってそんな事までなさるの?」

「だから言ったでしょ?家事全般やりますって。さ、そうと決まったらあなたは温かいカフェでも飲んでリラックスしてから仕事に取り掛かってください。僕は仕事を始めます。」

「あのグランデイエさん!私からもお願い!ため口でいい?私はオスカル。アンドレ、でいい?」

黒い瞳をまん丸にした彼だったけど、次の瞬間フッと微笑んだ。「了解!ではオスカル。僕は最初の仕事として、カフェを淹れましょう。」

 

魔法使いみたいな彼だ。どうやったらいつものインスタント・コーヒーがこんなに馥郁とした香りになるんだろうか。それに、いるだけで昨日まで張りつめていた空気や私の心がぽわぽわと春の空気みたいに柔らかくなったみたいだ。

 

大きめのマグカップに入った暖かなカフェオレを飲みながら、オスカルはつぶやいた。

 

続く。

 

ハウスキーパーのお仕事について調べながら書いていますが、何かおかしいところがあったらごめんなさい。少しずつ、男性の家事力が上がり、需要もあるという事を知りました。実際には一人暮らしの女性は女性ハウスキーパーをリクエストすることが多いようですが、そこはお話の流れで、おいおい明らかにしていきたいと思います。