別れ、そして出会い
アンドレに心を寄せていたリザの企みでアンドレは彼女の部屋に誘われ、彼女と寝た。その夜、彼女の部屋に泊まり、安らかに寝息をたてる女の横顔をアンドレは隣で眺めていた。そのことがきっかけになって、彼は幾度となく、この部屋を訪れたり、自分の部屋に彼女を招き入れて、一緒に料理をしたり、肌を合わせた。
リザの事は好きだ。体の相性も悪くはない。二人の仲を、仕事に持ち越すことはなく、二人はうまくやっていた。
でも、心が激しく波打つことは、なかった。
そして年月が過ぎ、リザはカフェのバイトを辞める時が来た。かねてよりデザイナーの道を望んでいた彼女は、大手アパレルメーカーの採用試験に合格し、今まで住んでいた部屋を引き払い、職場にほど近いところに2DKの部屋を借りることにした。アンドレはその事を心から祝福し、彼女を夕食に誘った。ちょっとばかり奮発して、彼女が好きだという、日本料理をリーズナブルな値段で食べさせるレストランに連れて行き、色んな種類の料理を
少しずつ食べさせるプチ懐石コースを注文した。彼女は本当に喜んで、楽しみつつ食べ、良くしゃべった。でも、デザートの和菓子とフルーツが来ると、リザは突然真剣な顔になってアンドレと向き合った。 「どうしたの?」アンドレは心配そうに、彼女の顔を覗き込む。
「アンドレ、私と一緒に暮らさない?」
「え?」
「2DKなんて本当は広すぎるのよ。アンドレと暮らせたらな、と思って、この物件を選んだけれど。駄目かしら?」
アンドレは迷った。学業のこと。祖母のこと。そしてもう一つ。はっきりとはしないが、何かが自分をひきとめる。
「すまない、リザ。つまらない言い訳はしない。君のことは好きだけど、そう言う気持ちには俺はどうしてもなれないんだ。」絞り出すように言葉を紡ぎ出すアンドレ。そんな彼をじっと見ていたリザは、
フッと寂しげに微笑んだ。
「やっぱり・・・ね。そう言うと思った。」
「リザ・・・。でも俺は君のことは好きなんだ。」
「わかってる。好きでいてくれてるのは。でも愛されてはいない。
あなたは私を抱いている時、心はどこか他の人のところにいっているのよ。知っていて?」
「他の人って・・・俺は別に。」
「誤解しないでね。あなたの浮気を疑ったりしていない。でも、そうなのよ。あなたを深く愛した私だからずうっと感じていたわ。相手がわかっていれば、あなたを絶対に渡さないけど・・・仕方ないね。」
そして、リザとアンドレの関係は、終わった。
その後も、なんとなく軽いノリで付き合う女がいたりもした。保育園に勤務するようになると、園児の母親などが密かにメアドを書いたメモなどを押し付けてくることなどもあった。
それでも、アンドレの心は冷めたままだった。
ところが、ある絵本との出会いが彼の冷静な心を猛烈な高温で蕩かすきっかけとなってしまった。
オスカル・フランソワ。昨日あっただけなのに、彼女の事を想うと、激しく胸が高鳴る。今、この瞬間彼女は何をしているのだろうか。どうして自分は彼女なしで、今まで生きてこれたのだろうか。
もうすぐ仕事に出かけなくてはいけない。甘美で狂おしいこの想いを今は断ち切るために、アンドレは珍しく2杯目のコーヒーを
カップに注いだ。
ー今日も忙しい一日が始まる。リセットしなくては。ー
でも、自分というパズルに欠けていた1ピースが彼女によって満たされたという感覚は確かなものだ。この想い、自分のこの先の人生に繋げたい、アンドレはそう思った。
まずは、明日にでもデイジー、そして園長に相談して絵本の朗読会の企画をぜひ実現させよう。
そう決めたアンドレは、食器をキッチンに片付け、部屋を出た。
続く。
だらだらと続けております。いつも読んでくれて、ありがとう。
