政府は、2019年10月に予定される消費税率10%への引上げによる増収分を、人づくり革命と財政再建とに概ね半分ずつ充当、人づくり革命に使われる1.7兆円程度を、幼児教育の無償化、高等教育の無償化、保育の受け皿前倒し整備、保育士・介護職員の処遇改善に充てるとしています。

本稿では、保育の受け皿の前倒し整備による待機児童の解消について見てみます(別稿で幼児教育無償化について考察する予定です)。政府は2013年度から待機児童解消加速化プランを実施、2017年度までの5年間で53.5万人分の保育の受け皿を拡大させてきました。この結果、待機児童数は、2013年4月の22,741人から2018年4月には19,895人と10年ぶりに2万人を下回りました。待機児童の状況を地域別にみると、全国1,741の市区町村のうち約8割の市区町村(1,306)においてゼロとなる一方、待機児童は都市部に多く見られ、首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)、近畿圏(京都・大阪・兵庫)の7都府県とその他指定都市・中核市で全体の70%(待機児童数13,930人)を占めています。厚生労働省では待機児童数が100人以上減少した自治体の傾向を分析していますが、自治体による保育の受け皿整備の取組みが待機児童の改善に表れているとしています。

さらに政府は平成29年6月2日に子育て安心プランを発表、これによると、待機児童解消に必要な受け皿約22万人分の予算を平成30年度から平成31年度末までの2年間で確保するとともに、いわゆるMカーブを解消するため平成30年度から平成34年度末までの5年間で女性就業率80%に対応できる約32万人分の受け皿を整備するとしています。

保育の受け皿を拡大させていく上での課題は何と言っても保育士の確保です。この点、保育士の処遇改善として、2012年度対比で最大146,000円の加算を実施してきており、保育士数も増加傾向にあります。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、保育士(94%を占める女性)の賃金月額は28.3万円と全産業(女性:31.5万円)に比べ依然3.2万円低くなっており、さらなる処遇改善策を講じていくことが予定されています。同様の処遇改善は介護職員や障害福祉職員に対しても行われています。介護施設や障害者施設、保育所を複数経営する法人からは、それぞれの処遇改善がバラバラで、しかもコロコロ改定されるため、法人内の人事評価や人事異動が困難になってきている、との声をよく聞きます。保育士は各市区町村で獲得競争になってため自治体が独自の補助を実施していて、複数の市区町村にまたがって保育所を経営する場合にも職員間の待遇差という問題が生じています。処遇改善のような全体的な政策を実施する際には、国や行政も縦割りではなく横軸で議論して整合性を確保するように努めることが肝要であり、国に対して意見を述べていきたいと思います。