無田と九条は大山から逃げ切り、プール近くまでやってきた。


「ここならなんとか」

「な、無田!一体何が起こってるんだよ」

「大山の話どおり、ドッペルゲンガーは人を支配する。だけど、そんなことは普通はおこるはずない。大山はドッペルゲンガーを支配することができるんだ」

「そ、そんなバカな」


大山は、いつも練習しない俺たちを見て、ドッペルゲンガーを操って思い通りにならない野球部を変えようとしていた。


「でも、なんで無田はそんなこと知ってるんだ?」

「ああ、大山と同じクラスに、俺の後輩がいてな、そいつがこのことに詳しくて、ドッペルゲンガーのことを皆に話してたらしい。大山は最近、野球部のグチをよくこぼしていたらしい。で、もしやと思って監視していたら、古井に堂波、柳田もやられてしまった」


「柳田もか?」


そう言ってハッとした。皆俺以外やられたのだということを。

無田が口を開いた。


「九条は、俺が会った時には大丈夫そうだったけど、ギリギリだったな」

「え?ああ、あの古井と居たときか」

堂波の様子がおかしいと思ったときの、翌日の朝に九条は古井、無田に会った。

しかし


「いいや、お前は羽渡と古井に会ったよな」

「あー、あの時はびびったなぁ」

いきなり古井に肩をたたかれて、思わず逃げ出しそうになった、あの時である。


「あの古井、実は俺なんだ」

「へー・・・って、マジかよ!」

どうりでネクタイ締めてなかったわけだ、と思い


「なぁ、無田ドッペルゲンガーに支配された人は元に戻せないのか?」

「そんなハズはない、けど、その方法がみつからないんだ。野球部のお前ならできるんじゃないかな」


いきなり言われても、え?という感じだった。


「今からドッペルゲンガーに詳しい後輩をあたってみる・・・だが」

「俺のことなら気にするなその方法を聞いてくれれば、俺がやられても・・・」

「九条・・・分かった、行ってくる!」

「おう」


そういうと無田は暗闇に消えてしまった。

あんな臭いセリフを言ったものの、やっぱ九条には自信がなかった。こんな怪奇なことは初めてだからだ。もし本当に自分がドッペルゲンガーになってしまったら・・・そう思うと少し不安になった。だが、無田も協力してくれてるし、ココで逃げるわけにはいかないと思った。


自分の心のなかでそう決心したとき、砂利を踏んだような音が聞こえた。・・・もしかして俺のドッペルゲンガーかと思ったが、振り返ると、そこには堂波が立っていた。


「堂波・・・」


周りの気温が1、2度下がったように感じた。

九条と大山が振り返ると、なんとそこには、もう一人の九条が居た。

九条はすぐさまこう思った。

これは自分を支配する前の、自分のドッペルゲンガーだと。


そのとき、大山が口を開いた。

「九条先輩、あなたにはがっかりしました」

「!」


あきらかに普通の大山ではない。誰かに操られているような、そんな気がした。


「大山?これは一体・・・」

「あなたもドッペルゲンガーに支配されて下さい。先輩なら分かると思ってたのに・・・」

「大山・・・もしかしてお前は・・・」


その言葉をまるで言わせないとばかりに大山は言った。


「違いますよ?俺はドッペルゲンガーなんかに支配されてないです。ただ、俺は野球部のゆるい空気が大っきらいなんです!そんなふざけた奴らをドッペルゲンガーに支配させて、俺の思い通りに動かせば・・・野球部もちゃんとした部活になります」


「ふざけたことを!」

「さぁ、お話は終わりですね、これからは俺がちゃんとしますので安心してください」

大山がなにやら手を動かした。すると九条のドッペルゲンガーが、九条のもとへと近づいてくる。大山は、ドッペルゲンガーを操れるのかもしれない。


「大山ぁ!」

ダメとは思っていても、大山の名前を叫んでみる。しかし、彼はもう別人のように顔が暗黒にそまっていた。

もうダメだと思ったとき、九条のドッペルゲンガーが、何者かによって吹っ飛ばされ、部室の壁に当たった。


「大丈夫か、九条!」

「な、無田!」

無田が竹刀でドッペルゲンガーを吹っ飛ばしたのである。


「大山」

無田が言う。

「お前のやってることは間違ってる!」

「俺は間違っていない!先輩には分からないよ」

「・・・そうか、もう話はできねぇな」


ここまできたら、さすがの無田もこれ以上問うのをやめた。


「九条、逃げるぞ!」

「あ、ああ」

そういうと、無田は竹刀をブーメランの様に思いっきり投げ、それが大山の腕に命中した。

そして、九条と無田はなんとかその場をやり過ごしたのであった。

堂波に襲われそうになった九条は、大山に助けてもらい、なんとか逃げきった。

ココは野球部の部室。さすがに見慣れているとはいえ、夜に入るとなんだか気味が悪い


「ここまでくれば大丈夫か」

「そうですね」

「でもなんで大山はそんなこと知ってるんだ?」

「そういうのに詳しいですので・・・」


ドッペルゲンガーに詳しい・・・なんだかコイツも気味悪いな、と思いながら


「でも・・・おこるだけじゃなくて古井もおかしかったよな・・・」

「そうですね、おそらく古井先輩も・・・」

「そんな・・・・・・・」


九条はあの羽渡と古井にあった時のことを思いだした。

(古井は多分、羽渡と一緒に居たときはもう・・・・・・)

そこで九条は急に頭が動きだしたような気がした。

(まてよ・・・・)


「なぁ、大山」

「なんですか?」

「まだ本人を支配していないドッペルゲンガーは他人と話したりできるの?」

「いえ、できませんね。奴らは誰とも話さずさまよい続けますから」

「そうか」

(じゃぁ羽渡といた時の古井はドッペルゲンガーに支配された古井ということか?でも、次の日の朝に会った古井はまだ支配されていなさそうだったし・・・・・・・)


そこまで考えたとたん、なんだか頭が爆発しそうだった。こんなこと考えたら体に悪いと思った。

九条の成績はごく普通で、良くも悪くもない。あきらかに堂波よりは良いが、この前のテストでは堂波に負けてしまったのですごくイライラしたのを覚えてる。


「九条先輩」

大山にいきなり呼ばれたので、びっくりしたが

「な、なに?」

すぐさま答えた。


「九条先輩は・・・最近の部活は楽しかったですか?」

いきなり変なこと聞くなと思いながらも

「いや・・・全然楽しくなかったな。まるで他人とやってるようだった」


九条は本当のことを話した。こんなところで嘘をついてもしかたがない。


「そうですか・・・・・・・・・・・・・」

大山の表情が曇った。

「どうしたんだ?いきなりそんなこと・・・」


そのとき、足音が聞こえた。

枝を踏んだような音。

九条が振り返ると、なんとそこには、もう一人の九条が居た。