数日後。


九条はいつも通り部活に来ていた。もちろん、ほかのメンバーもいつも通り部活に来ている。今では、部活は九条たちにとってなくてはならない存在だった。家で嫌なことがあっても、誰かと喧嘩したときも、部活に行けばいつも笑顔になった。

その日もたくさん練習した九条は羽渡と一緒に帰ってた。


羽渡はいつも野球部の練習を見ていた。いつもなら、だらしない部活を見ていたのだが、最近妙に九条たちが練習しているので、何かあったかなと羽渡は思った。羽渡は、いっそのこと九条に聞いてみることにした。


「なぁ、九条。最近さ、お前らおかしくないか?」

「何が?」

「部活だよ。最近時間ギリギリまで練習してるじゃないか。何かあったのか?」

「何もないぞ」

即答されてしまった。

「それより、今度の大会楽しみにしといてくれ」

「あ、ああ・・・」


そして、羽渡は九条と別れ、自分の家についた。

布団に横になった羽渡は野球部について考えてみた。

(この所の野球部の異変・・・何かあったのか?・・・そういえばこの前古井が・・・)

羽渡はふと、この前古井(正確には無田なのだが。)に会った時のことを思いだしていた。


「ねぇ・・・じゃなくて、なぁ、羽渡」

「なんだ?」

「羽渡はさぁ、ドッペルゲンガーって居ると思う?」

「さぁな。そんな非現実的なものはないと思うけどな」

「それはどうかな?ドッペルゲンガーは至るところで目撃されているんだよ」


(・・・・・・・・・・・・なんて言ってたな)

その時、羽渡はふと思いだした。

「まてよ・・・みんなが変わったのって・・・」


そう言うと、羽渡は布団から起き上がり、机の上にあったデスクパソコンの前に座った。

今どき中2でデスクパソコンというのも恥ずかしいが、羽渡の家は貧乏なので、ノートパソコンすら買える余裕がない。

羽渡は、インターネットでドッペルゲンガーのことを調べてみた。こんなのを調べるなんて、バカバカしいにも程があるが。


「・・・結構あるな・・・ん?」

羽渡は一つの項目に目がいった。

「ドッペルゲンガー研究所?・・・古井の言ってたことが、書いてある!」


羽渡はそのページを読んでいった。・・・すると、管理人の名前の所に、見覚えがある名前が載っていた。


「あれ?この名前って・・・」

羽渡は、全学年の名前が載っている冊子を取り出した。


「・・・・・・いた。1年2組、三宅耕助!」

九条と堂波は古井たちがいないか、教室を見ることにした。


「よーし、じゃぁ、開けるぞ」


ただ教室に入るだけなのに学芸会の本番前みたいな、なんとも言えぬ緊張感がそこにはあった。

堂波が勢いよくドアを開け放った。

しかし、教室には誰もいなかった。人の気配すらうかがえない。


「あれ・・・おかしいな」

一瞬沈黙になった。

2、3秒たったとき堂波が今日はここまでにしようと切り上げた。

そのとき


「あ!」


無田が立っていた。

きっと、詳しい後輩にドッペルゲンガーのことについて教えてもらったに違いない。

九条はホッとした。無田が無事だったからだ。早速、そのことを聞かせてもらおうと思った。


「よく戻ってきたな、それで・・・・・・・」

そのとき、無田に勢いよく肩をつかまれた。

「・・・!?無田・・・まさか」

そして、戻っていたはずの堂波さえも

「飛斗・・・」

やはり、こちらも肩をつかまれた。

「おこる・・・」


2人とも、ドッペルゲンガーだったのだ。


そのとき、何かが近づいてきたような足音が聞こえてきた。

間違いなく大山だった。


「どうも、九条先輩。無田先輩には簡単に仲間になってもらっちゃいました。堂波先輩もご苦労様です」


九条は、後ろと前で肩をつかまれてる状態だった。意外と力が強く、振り払おうにも力が強すぎて振り払う気力さえない。


「さて・・・もう思い残すことはないですか?」


大山の顔がだんだん漆黒の闇へと染まっていく。

もう終わりだ。九条は心の底からそう思った。そして同時に後悔もした。

今まで散々遊んできた部活。成績もあやふや。そして何より、最初にドッペルゲンガーになってしまった古井に謝らなければ気が済まなかった。

しかしもう遅い。目の前には大山、近くに無田、後ろに堂波。もう叫ぶことさえも今の時点ではそれをすることなど頭になかった。

そして


「それでは・・・さよなら。九条先輩」


九条は、目の前が真っ暗になった。

無田と別れた後、九条もどうしようか考えてたが、ココに居ても仕方ないのでどっか探索してみることにした。

だが、その時堂波がすでに九条の前に立っていたのである。


「堂波・・・」


いかにも普通の堂波とは違う。堂波が、薄く笑みを浮かべた。


「飛斗、一緒に行こう」

「いやだ!」

「どうしてだ?」

「お前はおこるじゃないからだ」

「何言ってんだ?俺はおこるだよ」

「うるさい!お前はおこるなんかじゃない!」

「俺はおこるだよ。俺はおこるだよ。俺はおこるだよ」


堂波が九条の前へでる。堂波は友達だ・・・でも、こうなってしまったら、堂波じゃない。ほかの誰かだ。


「うるさい!お前はおこるじゃない!!!」


「何言ってんだ?俺たち仲間だろ?」

仲間。そう聞いたとき、胸が苦しくなった。その時


「くく・・・」

堂波が笑った。

「・・・?」

なんかさっきまでと雰囲気が違う。

「俺はおこるだよ本当だ」

なんと、そこに居たのは紛れもなく本物の堂波だった。


「堂波・・・・・・」

九条は目からあついものが混みあげてきた。

「しかしまぁ・・・ココまで来たのは覚えてないし、飛斗が居たから、ついつい・・・」

九条は少し安心した。

「ところで、何がおこってるんだ?俺にはさっぱりだ」

「実は・・・・・・・・・・」


九条はこれまであったことを全部話した。

「なるほど・・・じゃぁ、大山をとめなきゃな!自分だけの部活にするなんて、許さん!」

「ああ・・・でも、大山がこんなことするのは、俺たちのせいだよな、俺たちがちゃんとしてれば、こんなことには・・・」

「いいや、それは違うぜアイツには、もっと大事なことを教えなきゃいけねぇだろ?・・・いや、まぁとにかく、無田が来る前にいくか!」

「お、おう」


そう言うと、九条と堂波は教室に向かった。