「飛斗!お前は飛斗じゃない!」

堂波が叫んだ。

(.......................これは一体・・・?)

堂波はもうすでに戻っていたのだ。

九条が堂波に襲われそうになったとき、九条はあの場で3回堂波のことを否定してた。

そして、戻っていた。

もちろん九条はその方法で助けることができるというのは知らない。九条はあの時がむしゃらに叫んでいただけだ。


「堂波先輩・・・戻っていたのか」

「へへっ、気づくのが遅すぎだな」

大山は絶句した。今まで近くにいたのに、戻っていたことすら気づかなかった。

大山は震えていた。

怒りや悲しみなどではない。心のどこかで、大山は自分自身を傷つけていた。

大山の顔が青ざめる。


「無田、お前はなしたじゃない!」

堂波がそう言って大山はハッとした。

まだ全てが戻ったわけじゃない。

堂波がもう一回言う。

「お前は無田じゃない!」

ここであきらめてたら、後はない。

「やめろぉ!!」

大山が堂波に飛びついた。

後ろによろめく。そのとき、


「お前は無田じゃない」

羽渡が言った。これで無田は戻った。

「くそ・・・」

大山は、柳田と古井のほうを振り返る。

「戻しておいたぜ」

九条が二人を元に戻していたのだ。


もうドッペルゲンガーはいない。大山の味方はいない。

大山は、負けた。

「俺・・・俺・・・」

大山の口が震える。今にも泣き出しそうなくらいに。

「大山」

堂波が口を開いた。

「お前のやってきたことは、全部許されるとじゃねぇんだよ」

「すいません・・・すいません・・・」

「でもな、俺たちも悪い!大山に大事なことを教えてなかったからな!」

堂波は、自分で言った台詞が恥ずかしかったのか、顔を赤らめた。


「よし・・・じゃあ、練習やるか!」

「そうだな」

みんなは支度を始めた。

「え・・・何を」

「ほら、大山も始めるぞ」

九条は大山の背中を叩いた。


無田と羽渡はその光景を見ていた。

「終わったな・・・・」


みんなの顔は輝いてた。



      



              次回、最終回!


__野球部部室前。


「ふう、いい汗かいたな」

練習を終えた九条たちは休憩していた。

ユニフォームを脱ごうとする者やバットを磨く者までいた。

大山は一人、不気味な笑みを浮かべていた。


(これこそ俺が目指していた部活・・・・・・もう、この時間は誰にも邪魔はさせない!)

大山は一人、そう誓った。

たとえ、誰かが邪魔をしようとしても、自分にはドッペルゲンガーがいるのだから。

ジャリ、と。何者かが砂利を踏むような音。誰かがくる。


「そこまでだ」


聞き覚えのある声・・・それは、羽渡だった。

「!」

堂波は後ずさりした。


「どうしたんだ羽渡」

九条が言う。

しかし

「だまれ、お前は、九条じゃないだろ!」


九条は心臓に矢が突き刺さるような感覚がした。


「まさか・・・・・・・三宅!」

すぐ三宅の仕業だと思った。それしか思えなかった。

「うるさい、これを3回言えば元に戻る!お前は九条じゃない!」

「!・・・」

「あと1回・・・」


あと1回言えば九条は、元に戻る。

「お前は、九条じゃ・・・・・・・・・・」

「なーんてね」

と、いきなり口を封じられた。後ろからだ。

「だめだぞ、邪魔をしちゃな」

「無田・・・」

「残念でしたね。あと少しなのに」

羽渡は大山を思いっきり睨みつける。


「怖いから、そんなに睨まないでくださいよ。」

笑いながら言う。まるで、立場が逆転したみたいに。大山が先輩、羽渡は後輩、のように。

「多分来るだろうなとは思ってました」

しまった、読まれてたか、と羽渡は思った。

「さて、堂波先輩、羽渡先輩も仲間にしちゃいましょう」


(堂波っ・・・・・・・・・・!)

もうだめだ、そう思ったとき

「ありがとよ、羽渡」

「・・・?」

一瞬、羽渡はそれがどういう意味なのか分からなかった。

堂波が叫ぶ。

「お前は九条じゃない!」

すると、九条はどうやら元に戻ったみたいだ。辺りを見渡して状況を整理している。


(これは一体・・・?)

羽渡は、目の前におこったことを整理するのに時間がかかった。ような気がした。




ホームページ ドッペルゲンガー研究所を見た羽渡は管理人の名前に見覚えがあった。

その名も三宅耕助。



翌日。

羽渡は屋上に三宅を呼び出した。


「悪いな、急に呼び出したりして」

「いえいえ、こっちも暇ですから」

そう言いながら三宅は頭をかいた。


「じゃぁ急いでるから手短にいくぞ。ドッペルゲンガーを元に戻すにはどうすればいい?」

「・・・・・・・なるほど、あのサイト見たんですね」

「ああ、それでどうすれば元に戻る?」

「それを知ってどうするんです?」

「あいつらを元に戻す。野球部を」

「それは誰の意思なんです?」

「俺だ。文句あるか」


三宅はやれやれ、という風に少し困った表情を見せたがすぐに口を開いた。


「大山はえらいですよ。頑張って理想の部活にしようとしているんですから。そういう使い方なら俺は喜んで協力しますよ。そしたらドッペルゲンガーだって喜ぶ・・・」

「だまれ」


いきなり言葉をさえぎられた。

「何が理想だ。そんなのただのわがままじゃねーか」

「・・・・・・・・・・」

「アイツらは確かにろくに練習しない。・・・アイツらは、野球が好きで好きでたまらない連中なんだよ。けどな、今の野球部を見てても全然楽しそうじゃねぇ。たしかに練習も大事だがな、あんな風に操ってさせるのは間違ってる!」


一瞬風が二人を取り巻いた。数秒の沈黙が続く。

羽渡はこれでいいんだ、と確信していた。野球部のためにも、大山のためにも。


「・・・素晴らしいです」

三宅が口を切った。

「分かりました。元に戻す方法教えます。・・・ドッペルゲンガーに向かって3回、『おまえは○○じゃない』と、言うんです。」

「そいつを否定するって訳だな。」

「はい。所詮はドッペルゲンガー・・・そうやって否定されれば、たちまち本人から出ていきますよ。」


「・・・そうか、分かった。ありがとうな」

羽渡が手をふって去ろうとしたとき、

「気をつけてください。大山は隙あらばドッペルゲンガーを使ってきますよ」

「忠告どうも」


そう言うと羽渡はその場を去った。