BOOKWORM 野ざらし荘~前夜祭~ | 作家 坂井あおのブログ

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小説・シナリオ(ドラマ、映画、CM)・写真詩集作家、坂井あおの日々浮かんでは記憶の海に消えゆく思いを気ままに綴るブログです。




その町は潮風が吹き荒れていた。
国際色豊かな駅前を進み、
階段を登る。そして、また階段。

その先に野ざらし荘はある。

風が音階を鳴らす。



仲間が声をあげ、改築したその空間は、
人々が集まるための開かれた隠れ家だ。

家の中までのびる蔦もそのままに、自然と生活は混じりあい、ともにあった。

土間で靴を脱いで畳にあがる。
おじゃまします。

たくさんの手作りに囲まれる。



キッチンで料理を用意して、腹ペコたちのもとへ。

春のもの。春菊、いちご。ホタルイカ。しらす。
手作りのみそ。







アジのなめろう。

ちゃぶ台を囲んだカンパイから、夜の宴が始まった。


ブックワーム、横須賀汐入、野ざらし荘。
ギターの音に合わせて話せ。
この夜にさ迷う言葉を見つけるために!










宴は夜更けまで続いて、
笑い、話、歌い、
そろそろ終わりかと思いきや、
地元の仲間がかけつけ、
ブックワームトークは深まる。

先に部屋に引き上げた私は、
隣から聞こえてくる人々のはしゃぎ声や音楽をBGMに眠る。

さらにさらに夜が更けて、
とうとう宴が終わると、
オレンジの暖かな明かりは消え、窓から空の圧倒的な白が入ってくる。
音楽は跡形もなく消え、風が主役にかわって、家を鳴らし、空を唸らせる。

人間の営みなど、あっという間に吹き飛ばした風は、夜通し鳴り止まなかった。

とても不思議な夜だった。

風音に眠れなくなった私は、詩を書いた。
その日、そこにあった言葉と風を。



「野ざらしに吹く唄」



風が吹いたら風に吹かれ

風がやんだら花を見る


それがライフ


音楽が鳴ったら体を揺らし

音がやんだら風に耳を済ます


それがライフ


語り出したら夜をあかし

言葉が止んだら風が奏でる


それではオフ


明かりをオフしたら音が力を増し

野ざらしの唄が家を揺らす


それはリライフ


風は世界を満たし

夜は力を取り戻し

空は白くより強く


誰の寝息も敵わない

人は借り住まいにすぎない

魂は風にすぎない

実体はかりそめにすぎない

時間はあとにも先にもない

明日は死んでるかもしれない


それかライフ



夜があけたら鳥がさえずり

風は桜花を連れ去りぬ


君の頭蓋骨の中にはまだ

酒が残っているかい?

言葉は残っていたかい?

ブルーズとは暮らせても結婚できないって知ってるかい?


さあ、歯磨きをして

自分にはなれない

昨日とは違うようで明日と同じ顔をして

散歩に出よう

川を越えて

今日こそ、川を越えて