『中国古代の生活史』読了。 | 呉下の凡愚の住処

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読書の秋ですね。
スタートがちょっと遅いかしら……いや読書の秋です。
ずっと放置してた(読み途中でポケモンが発売してしまった)本、
『中国古代の生活史』を読み終えました。


『中国古代の生活史』 (歴史文化セレクション) / 林 巳奈夫


¥2,940

Amazon.co.jp



すごいよかった。


今まで読んだ本の中でもトップレベルの分かりやすい本でした。
写真や図がみっちり載ってます。このボリュームでこのお値段!? みたいな(笑)


扱われてる時代は紀元前13世紀~後2世紀あたりが主。
出土品や図が多く引かれてる時代がこの辺りだった。
話題だけならその前後の時代もたびたび出てきます。古くは新石器時代までも。


目次を載せてみます(Amazonに載ってなかったので)。


一.身なり
二.住居と町
三.什器、飲食
四.農・工・商業
五.乗物、道路
六.娯楽
七.武器、戦争
八.文書、書物
九.神々
一〇.祭祀


以上、驚きのボリュームです。


この本の著者である林巳奈夫先生の書でとくに有名なものが
『漢代の文物』かと思います。
中古で十数万円しますが漢代研究のためには必携の書とされます。


『中国古代の生活史』のすごいところは、
その『漢代の文物』からの写真の引用をたくさんしてくださりながら、
引用とは別に漢以前の時代の文物写真もモリモリ載せてくれてるところです。
しかも九章と一〇章はこの本を出版するにあたって
先生が完全書き下ろししてくださった章なんだそうです。


個人的にはまさにその九章と一〇章がいちばん興味深いと言うか、
その話題が出ると目の色が変わるゾーンなのですが!


今までその手の(神がみや祭祀系の)話は
「後世の書物からしか分からんのだろうなあ……」と思ってたんですが、
実際のところ、祭祀に関する出土品や建物のあとが少なくなく
具体的な研究もすごく進んでいると知ってますます興味がわきました。
神々の章なんてたまらんかったです。
鼎に彫られた獣型の神の見方(どこが耳でどこが体かなど、笑)が載ってたり。
これを読んでから中国文明展に行っていれば……とちょっと悔しかったです。



とてつもなくぶったまげたのは二章「住居と町」。

これまで想像もしていなかったことがこの章には載っていた。


河北の人々は、前二千年紀の後期には既に、
壁があり屋根がある、我々の想像できるような「家」に住んでいたそうです。
柱の跡だけでなく状態のよい「壁」も発見されているらしい。


前二千年紀!! どんだけだよって感じですよね。
いやもちろんこれは河北の例であって、竪穴式住居などに住んでいた地域も
あったでしょうが……(分からないので滅多なことは言えない)。


周時代に祭祀をおこなっていた建造物のあとも発見されており、
研究によって「その建物が何階建てで、屋根がどんな形だったのか」
ということも分かっているようです。
間取りや復元図も本書にたくさん載ってます。まじで目から鱗です。


きっと建物に対しては異論とかもいっぱいあるんだと思うんです、が、
「昔の人は柱の穴だけ掘ってそれを肴に祭祀をしていた」
なんてことはさすがにないと思うんですよね(笑)。
そこには確かに何かが建っていたのでしょう、
そして建物のそばにお墓があったことまで分かっている。
きっと想像もつかないほど立派な建物が建てていたんじゃないですかねえ。
少なくとも私には異論を唱える気は起こらないですね……



四~六章は日用品(笑)の章です。
歴史創作をする人にはありがたいのでは。
ここでも現代と変わらないような日用品の文物がたくさん出てきます。
後2世紀の画像石には近代的な機織り機の絵も確認でき(ペダルを使うやつ)、
当時の人たちの発想のすばらしさを垣間見られます。


七章には武器の変遷や戦いのようすが時代を追って載っています。
武器や戦争に関してはそれ専門の本が数多く出ていますが、
写真や出土品をもとに解説してもらえることってなかなかないからありがたい。
五人組(伍)同士の戦いの絵なんかも載ってて興味深かったですね。
船対船の戦いの絵も残ってたり。実際にそういうことがあったんでしょうね。

……呉越なんたらを激しく彷彿とさせますね(笑)


もっと具体的に図を交えて「これはこうらしいですよ」
って書いてしまいたいですが、本の主張を奪ってしまうので……
みなさんもぜひ読んでください(笑)。



しかしながら最後に興味深い話をひとつ引用させてください。


漢の時代に、「周の王が祭祀や政治を行っていた建物を復興せよ」
というご命令が出たそうです。
当時残っていた所伝には「上円下方」とあったらしいですね。
漢の学者は「円形の土台の上に四角い建物が建っていたのだろう」と解釈し、
円形の土台の上に四角い建物を建てたそうです。
……現代になって漢時代に建てられたこの建物の跡も発掘されてるらしい。
(↑しかしこの漢の話がどの書物に載ってるのかは分からんかった……)


が、現代になって実際の周の遺跡が発掘され、

研究が進んだことによって
「方形の建物の上に円形の屋根がついた建物」があったことが分かり、
「上円下方」とは文字どおり「下が方形で上は円形」の建物のことだった
ということが判明したのだそうです。
周の時代の人は既にそんな技術をお持ちだったということですね。


この話の何が興味深いって、いくら歴史書とにらめ合って
考察妄想を果てしなく繰り広げても、実物が出てきたら終わりなんだな。
ということ。



考古学ってすごいですね。
書物でしか知りえなかった大昔のものを、
発見したり復元しちゃったりできちゃうわけですからね。
歴史書を見て「これはこんな物だったんじゃないか」と考察や推測をはたらかせ、
その主張にどんなに筋が通っていたとしても
現物が出土してしまったらそれがすべてなわけです。


金文(青銅器に彫られた文)や画像石(お墓の壁など、絵の描かれた石)
の内容はあくまで「書いてあるだけ」であり、
その内容を事実と鵜呑みにするのは危険……という主張もありますが、
当時の人たちの思想に触れるには十分な史料になりえるのではないでしょうか。
私はほどよく鵜呑みにしてしまいますが……



「歴史書にはこう書いてあるけど実際こんなに文化が発展していたはずがない」
とお思いの方、ぜひ『中国古代の生活史』をご一読ください。


しかし考古学を信じてる人って周りでも限られてるんですよね……
やっぱり歴史学のほうがロマンがあるのかしら。
私は「(妄想に)利用できるものはすべて利用しようよ」という感じなんですが(笑)


これからも何度も読み返すことになるであろう本です。

本当にいい本に出会えた。すばらしい出会いに感謝!