今日はパン屋の仕事に遅刻しました。
しかし、朝までに遅れを取り戻そうと必死でパン生地を仕込む間も、それを成形し、焼いている間も、朝になって揃った他の職人たちと馬鹿話をしながらも、定休日前の工房の掃除をしながらも、私の頭の中では彼女が、
…ショートプログラムの演技の前に、いつもポワンとしているその表情をキリリと引き締め、“情熱”を舞い、祈るような、愁うような悲しげな表情で“希望への道”を舞い、超高速でスピンし、不安げに得点を見上げ、そしてインタビューで目に一杯涙を溜め、…
何度も何度も繰り返しているのでした。
私は普段テレビをほとんど見ません。
旅から日本に戻ってから、日本語でしゃべっているのにでかでかとその台詞の字幕の出るバラエティなどに拒絶反応を起こすようになっているのです。
しかし、好きな番組もあります。
『 情熱大陸 』
私が村主章枝を知ったのは、もう何年も前、多分ソルトレイクよりも前のこの番組だったと思います。
それから、たまにフィギュアスケートの番組や記事が目に付くと、いつも気にしている人物ではありました。
初めはその程度だったのです。
昨年くらいから、メディアにフィギュアスケートの登場する頻度がぐんと増したように思います。
そして、競技をぼんやりと眺めている私がいつも感じるのは、
なんとなく、このヒトだけ別の事をしているように見える
という曖昧な違和感でした。
今回のトリノ五輪女子フィギュアスケート、素晴らしかったと思います。
メダリストの3人とも、とても魅力的です。
いつも硬く鋭く感じていた荒川静香は優雅でまるで観音さまのようでしたし、ちびっ子みたいなくせに目の表情だけが肉食獣のようでやたらと色っぽいコーエンも、昔から優しいオバサンみたいな顔をして素晴らしく楽しげに舞うスルツカヤも、皆メダリストにふさわしい実力者です。
そして、やっぱり村主章枝はここでもなんか違うと思いました。
なんて説明すればいいのか。
荒川静香が、得点にならないイナバウアーにこだわって演技に取り入れているのが評価されているじゃないですか。
あれをもっと極端に、演技の最初から最後までやっているんですよね。
はなっから、審査員ではなくてこちらを向いてくれているような気がするのです。
点数にはならなくとも、観客には伝わったのではないかなあ。
アスリート達が技を競い合っている中で、優しい舞を披露しているような。
でも、やっぱり競技者なんですよね。
得点も、順位も、メダルも気になって当然なのかもしれません。
インタビューの様子は何度観ても胸が締め付けられます。
・・・4年後、バンクーバーですか。
イバラの道を歩む事になるのだろうと思います。
ですが、その希望への道には必ずや喜びもまたあるのだと信じます。
…これほどまでに感情移入してしまうとは思いもしませんでした。
さて、それでは私もいつまでも過去を振り返って想いの中に沈んでいる訳にはいきませんよね。
きっと4年後もまた、私は貴方の演技をテレビの前で応援することはできないかもしれません。
けれども、4年後を誓った貴方に私もひとつ約束を…。
そのニュース、私は私のカフェ・アンチョビのカウンターで珈琲を飲みながら受け取らせてもらいますね。
