大人の雰囲気の黒い服装で踊る彼女の名は、謝偽蓉(Xie Weirong)。
上海の大学で学ぶ妹を訪ねて、常州から来ているのだという。
我々の会話は、英語と中国語のちゃんぽんで進行した。
何回かの試行錯誤により、外見が地元の兄ちゃんと変わらない僕は、英語で
Would you like to dance with me?
とやる方がより強いファースト・インパクトを女性に与えるということも学んだし、第一中国語をしゃべるといったところで、当時の僕には挨拶と買い物、そして毎日絵本で勉強している間抜けなアヒルの話しかできないのだった。
彼女も、そして他の女性たちも、カタコトの英語を使う事に全く抵抗がないようで、実に堂々と僕と踊り、他愛もない会話を楽しんでくれた。
私にはセイラというイングリッシュ・ネームがあるのよ と彼女は言った。
これは後に知ったのだが、学校でイギリス人などから英語を学んだ場合、教師である彼らは生徒の名前を複雑な発音の中国語で憶える代わりに、適当な英語の名前を付けてしまうのだそうだ。
あまり感心できる由来の名前ではないが、まあ彼女の本名の発音と似ていなくもない。
向かい合って耳元で怒鳴るように会話しながら適当に踊り、カウンターでビールを飲みながら紙ナプキンを使って筆談をした。
常州での彼女の仕事は、chemical anarystらしい。
化学分析官?とでも訳すのだろうか。
明日、別のディスコ 『New York』 で会わないか? という僕の誘いに、彼女は紙ナプキンにポケベルの番号を書いてよこした。