船は海華号という名の貨客船である。
船会社はたしか中国と日本の合弁会社だったと思う。
船はブルガリアとかルーマニアとかどこか東欧のあの辺の国から中古で買い入れたものらしい。
船内の案内板などは怪しげなロシア語表記であった。
一番安いエコノミークラスのチケットで乗船したのだが、あまりの乗客の少なさ故か、四人部屋の一等B船室に入る。
日本人の乗客も、皆僕の目にはいかにもあやしげに映った。
旅行シーズンでもない5月の末に、好きこのんで船で中国に渡る人々であるから、暇があってお金がないという事には違いあるまい。
中国に行くのは通算50回以上だという70過ぎのじいさん、インド通で、いかにも旅慣れた感じの20代後半の夫婦、この春会社を辞めたという30代の元営業マン、などなど...。
とにかく皆が、「旅人」に見えた。
小雨の降るデッキでは、佐賀での研修を終えて帰るという、宋中さんという中国人とも話をした。
日本語が上手で、故郷は江蘇省の常州という町だそうだ。
常州に遊びに来たら案内しますよ。と言っていたのだが、後に僕が本当に訪ねていくと思っていたかどうかはいまだ疑問である。
まあそれはもう少し後の話だ。
どんよりとした天候の東シナ海を、貨客船海華号は一路西へと向かう。
夜の船内では、少数ながら、そして少数の気安さゆえ に、日中の乗客が入り乱れ、カラオケの怒声と青島ビールが行き交っていた。