川端康成氏は
「別れる男に花の名前を一つ教えておきなさい。
花は毎年必ず咲きますから」と語った。
【掌の小説】の一遍、『化粧の天使達』
その中の「花」という小題の一節。
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『花』
ここへ来る汽車の窓に、曼珠沙華が一ぱい咲いていたわ。
あら曼珠沙華をごぞんじないの? あすこのあの花よ。
葉が枯れてから、花茎が生えるのよ。
別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。
花は毎年必ず咲きます。
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「トンネルを抜けれるとそこは雪国だった」
川端康成の小説「雪国」の名文句だ。
越後湯沢の名高いホテル「高半」は川端康成氏が投宿して、
芸者駒子を左手で抱きながら右手で「雪国」を執筆したことで知られている。
男のほうから切り出したか、女のほうから切り出したかは問わないが、
「別れる男に花の名前を一つ教えておきなさい」
と川畑康成氏はおっしゃる。
その花は毎年季節を忘れずに咲く。
その花を見て男は別れた女のことを思い出し、
涙を流すかもしれない。
釣り人は釣り逃がした魚を
「あの時釣り逃がした魚はこんなにも大きかった」
と手で指し示しながら自慢げに話す。
同じように別れた女を
「美しく、心優しい女だった」とことあるごとに話すだろう。
でも、次に付き合う女にそのことを言ってはならない。