「…ギリギリ」
アーリャは対戦車ロケット砲の照準を覗きこんだ。
その頭にはロケット砲と同じく、ゲリラ兵から奪ったサーマルスコープが装着されている。
スコープに映し出されたモノクロの世界、そしてロケット砲の照準。
二台の車が押し合いへし合い、決して直線とは言えない山際の一本道を砂利や泥を撒き散らしながら進んでいる。
次の急カーブを曲がればアーリャが立っている所まであっという間だ。
トリガーに掛けた指に汗がにじみ。ポタポタとオリーブ色のセーターから背中から流れる血が滴り落ちる。
「ガキの頃以来だ、こんな流血で火器構えるのは」
だんだん息が荒くなるのを感じながら、昔のあまり良いとは言えない思い出が頭をよぎった。
冷たい脂汗が頬を伝い、手が震え始める。
更にフワッとするような目眩までもが、アーリャを襲い始めた。 紛れもなく貧血の症状だ。
「あー…寒いなクソ」
もう次の急カーブ…ラストチャンスは目の前に迫っていた。
「こんにゃろー」
タイキはハンドルを切りながら悪態を付いていた。
スピードを上げても、荷物の重みで一気にゲリラの車を突き放す事は出来ない。
万が一突き放せたとしても、近くで対戦車榴弾が起爆すれば荷台のヴィスカ達がタダでは済まない。
――ガンッ
ゲリラ達の体当たり攻撃は容赦無い、タイヤに当たった石が跳ねながら山の斜面を転がり落ちる。
最悪、石のように谷底へまっしぐらだ。
「アーリャ、離れそうにない…まるで金魚の糞だ」
『…だろうね、デッカい攻撃を誘えないか?』
「無茶を仰る」
そう言いながらタイキはアクセルを踏んでいる脚を緩め、ハンドルを小刻みに動かす。
まるで魚釣りの要領だ。
そして車に乗る三人に神妙な声でこれからな行動を告げた。
「乗客の皆様にお知らせします、この車は敵の大きな攻撃を誘導させるため、はげしく左右に揺れ、車酔いも誘導させる事がありますのでご容赦下さいませー」
「もう酔ったがな」
助手席のライバーがぽつりと呟いた。
そんな助手席の窓の外では、黒いバギーは山の方へ大きく車間距離を取る。
「…来たッ」
タイキの思惑通り、車のコントロールがきかなくなったと思い込んだらしい。
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