今回は少し変わったテーマで、前向きな議論を進める為に役立つ空手の戦略というお話をしたいなと思います。 

 

 前回の記事を書いていてふと気付きがあったんですが、一見無関係に見えるこの二つ、抽象化して纏められる要素があるんです。 

 

 

 簡単に纏める相手のやりたいことを遮らないというポイントになります。 

 

 まず私が所属している空手における戦略の考え方から説明していきましょう。 

 

 私が習っている空手の教えの中には、「相手の勝負したいところでは勝負をしない」「相手にはずっと自分のターンだと思ってもらう」と言った物があります。 

 

 「相手の勝負したいところでは勝負をしない」これは実際の場面でいうと、相手がストレートを打ってきた時に、一番威力がある(相手が勝てるから勝負したいと思う)場所で迎え撃つのではなく、距離を詰めたり角度をつけて逸らしたりして、自分の有利な位置等の状況を作り出すという考え方です。 

 

 「相手にはずっと自分のターンだと思ってもらう」こちらも相手がストレートを打ってきた所で例えましょう。 

 

 相手が打ってきたストレートを弾くと、相手は自分の攻撃のターンが終わったと思い、拳を引いて構えを作り仕切り直そうとします。 

 

 この間に相手がイニシアチブを取っているかというと必ずしもそうではありませんが、簡単に言うと攻防が途切れるのです。 

 

 これに対して、相手の打ってきたストレートに対して触れる、または触れそうな位置に手を出してターゲットを変えさせてから透かす事で、相手には「自分のターンが続いている」ように感じさせるという技術が高度な事ではありますが存在します。 

 

 これらを総合すると相手のやりたいことはやりたいようにやってもらう事が肝要になります。 

 

 ストレートの間合いに居たなら気持ちよくストレートを打ってもらって、そこでストレートの打ち合いをするのではなく、入り身をしてフック等で倒せばよいという事ですね。 

 

 これが議論でどう生かされるのか。 

 

 まず最初に議論における勝利を定義しておかないといけないですね。 

 

 この辺りは何をテーマにするかで多少変わってくるのですが、基本事項としてお互いが納得できる結論を見出す事として良いかなと思います。 

 

 絡める話が空手なので特に誤解を生みそうですが、テレビのバラエティ番組やネット上のエンタメとしてよく見かける論破とは全く違うという認識は持って頂きたいですね。 

 

 論破というのは視点を変えて見ると大体の場合、相手の主張を潰す事を目的としているんですよね。 

 

 先程の空手の例で言えば、相手の勝負したいところで勝負してそれに勝つ事と同義です。 

 

 お互いにストレートが打ち合える距離で殴りあって、勿論上手く打つテクニックは使いますが、結局それは強い方が生き残る構図であり、非常に劇的でエンタメ性があるので人の心を惹いてしまうんですよね。 

 

 しかし、ここで生まれた論破の敗者は、基本的に言い返せなくなっただけで、勝者の論に納得がいかない場合も多いのです。 

 

 結果として、勝者の正しい部分すら心情的に受け入れられなくなるでしょう。 

 

 それでは結果として断絶が生まれただけで議論としては成立していないんですよね。 

 

 先に挙げた空手の戦略を正しく採用するなら、相手の主張を受け入れた上で相手にもこちらの主張に理解を示させるという立ち回りをするべきです。 

 

 大事なのは相互に言いたいことを言い合うだけではなく、相互が納得できる新しい概念を見つける事です。 

 

 一つ例を挙げましょう。 

 

 Wikipediaにあるエジソンのエピソードで彼は「1個の粘土と1個の粘土を合わせたら、大きな1個の粘土なのになぜ2個なの?」という疑問を述べたと言います。 

 

 この前知識が無い状態で相手が「1+1=1」という主張をしてきたとすると、普通に考えたら「何を言っているんだ1+1=2だろ」と返したくなります。

 

 しかしこの状況でこちらの主張をただぶつけても相手は納得しないでしょう。 

 

 感情的になればなるほどお互いに「相手は頭がおかしい」という認識で断絶を生むだけです。 

 

 結果として強い物言いをした方か、周囲の賛同を得やすい主張が勝った様に見えるだけで議論としては成立していません。 

 

 もし、ここで最初に挙げたお互いの納得いく結論を出す場合は、まず相手が思う事を一度全て出してもらう事が大事になります。 

 

 1+1=1という主張をしてきた相手に、何故そう思ったのかを聞いてみてください。 

 

 そこで上記の少年エジソンの観点が持ち出されたとします。 

 

 そうすると、「相手は粘土の個数の概念で話をしている」という事が分かります。 

 

 ではこちらは?仮に粘土という実例に則した話にするのなら、重量は二つの粘土の和になっているので相手の視点から見ても納得のいく説明が出来るのではないでしょうか。 

 

 逆に粘土に関して言えば、体積も中の空気の含み度合いで変わってしまうので、意外と単純な和の話で出来ない事が多い事に気付くでしょう。 

 

 ここまで理解できたなら、ゴールは目前です。 

 

 少なくとも相手の主張の「粘土が二つ集まると大きな一つになる」という部分には理解を示しましょう。 

 

 その上で重量を例に挙げたり、纏めて一つにならない物質を例に挙げてから、「今回はこちらで考えて欲しい」という様に提案すれば、こちらの主張も通るはずです。 

 

 こういった議論の展開が出来れば、「1+1=1」VS「1+1=2」のどちらかだけが正しいという勝敗ではなく、「概念を統一しよう」という前提条件の確認の大切さや「この場合はこちらが正しく、その場合はそちらが正しい」という、それぞれの主張が正しくなる条件探しという双方の主張が通る結論を得られるのです。 

 

 

 今回はかなり極端な例の挙げ方をしたので分かり易いと思いますが、現実にはより細かなポイントですれ違いが起きやすくはあります。 

 

 しかし、基本的には突き詰めれば例に挙げた様な着地点を見つける事が出来ます。 

 

 相手が勝ちたいところで勝たせてあげて自分が勝ちたいところで勝つ 

 

 これが組手で実践出来れば達人級ですが、議論の場でも実践出来ればそれもまた議論の達人ですね。 

 

 文武両道を目指しましょう。