前回の記事では練習と本番について、緊張という観点から出てくるパフォーマンスの違いをお伝えしました。今回は緊張への対処法についてのお話です。
まず初めに対処法とは言いましたが前提条件として日々の練習で地力がついていることは必須となります。
練習で定着している以上のパフォーマンスが出る事は基本的にあり得ません。見た目上結果が出てるように思える場面というのはあるかもしれませんが、結局それはコントロールできない外的要因がうまくかみ合っただけの偶然に過ぎない事は分かると思います。
定着した実力が同等でもパフォーマンスに違いが出るのは、その場面ごとにかかる緊張感に対しての耐性に違いが有るからです。
前回の記事で例に挙げた大学時代の先輩は日頃の練習をしっかり行っていたため地力はありました。練習の合奏中に感じる緊張感よりも本番中の緊張感の方があっていたために良いパフォーマンスが出せたのでしょう。
場面ごとの緊張感への感度、耐性は個人差があるものです。いわば体質の様な物なので同じ緊張感が掛かった時の耐性を上げるというのはかなり至難の業です。
ではどの様に対処するのか。巷でよく言われるのは成功体験を積むという事ですね。これは100%正しいです。成功のイメージが強くあればあるほど無意識から成功に必要な物を引っ張ってきます。
よりはっきりしたイメージを持つには体験するのが最も手っ取り早いという事は、簡単に分かるかと思います。成功体験=強い成功への認識=不要な緊張を感じない事となるわけですね。
ただこの問題点は、そもそも成功体験を積めていればどうしようもないほど緊張に苛まれることは無いだろうというツッコミが入れられるところです。欲しいのはその成功体験を得るまでの道筋ではないでしょうか?ではどうするか。
成功体験と似て非なるようでやっぱり重要な対処法、それは実はシンプルで場数を踏むことです。例えば既に働いている方からすれば日々の仕事は基本的には本番であるはずですが、そこで緊張にとらわれる事はほぼ無いはずです。ありていに言ってしまうと慣れ。大きな一回限りの本番ではなく日常の物として認識してしまえれば安定したパフォーマンスを出せるでしょう。
まず、緊張感が高まる要因として挙げられるのは、完璧を目指すあまり失敗への恐怖が大きくなる事です。これはある程度は仕方のない事でもあります。
積み上げてきた物を披露するチャンスが一度しかないから、全てをそこに出し切りたいという思いが失敗への忌避感を生み出してしまうのです。
この生み出されてしまった感情への対処法が、失敗してはいけないという認識を変えるという事になります。
場数を踏むという事は、それだけチャンスが与えられるという事です。一回のチャンスで全て出し切るのではなくいくつもあるチャンスの中で全て出し切る。意外とこれくらいの認識の方がかえって一つ一つのパフォーマンスが上がったりします。心に余裕があると良いという事です。
心の余裕という観点で行くと失敗した時のリカバリー法を準備しておくというのも大事です。
失敗への恐怖に比例して緊張感が高まるのならば、「失敗してもこうすれば大丈夫」という準備があれば、緊張感はグッと下がります。
もう一つ、これはなかなか嫌がる人も居そうですが、実際失敗してみるというのも一つの手だったりします。失敗の恐怖とはさらに突き詰めれば失敗した先のダメージが計り知れない恐怖とも言えます。
失敗するまでは恐怖しかなかったが、いざ失敗してみると意外と耐えられる範囲だったという事はよくあります。現代社会においては常識の範囲内の行動なら失敗が危険に繋がるような事はほぼ無いので、失敗そのものを体験してみて免疫を付けるという手もありでしょう。
私のオーケストラの演奏会でのパフォーマンスなんかはまさしくこれです。本番を多くこなすと失敗もそれなりに積み重なりますが、もはや「これくらいは許容範囲」と割り切れるようになったあたりから過度な緊張が抜けて上手く行く事の方が多くなりました。
長々と書きましたが、一気に今回の記事の内容を抽象化すると積み重ねた物を正確に認識するという事です。
実は成功体験だけでなく、失敗の体験も上手く使えば危機回避に役立つ経験となります。練習で出来た経験もその条件を正確に抽象化出来れば本番で同じ条件を作り上げる為の道筋が見えます。
とにかく、成功も失敗も何一つ無駄が無いように経験を全て活かす事を心がけてください。それが出来れば自然と余分な緊張がとれますよ。