前回の記事では言葉・文字だけでの情報の伝達が難しいと言うことについてお伝えしましたが、今回はそこから更に広げて娯楽作品の情報量の違いによる楽しみ方の違いや、油断していると起きてしまう弊害についてお伝えします。
最近は漫画や小説に関して人気のものであればあるほど単一の媒体のみで展開されるという事は少なくなってきたのではないかと思います。小説であればドラマや映画化、漫画も実写化される事ももありますしアニメ化やゲーム化はかなり多いと思います。逆にアニメ発進の作品がノベライズ化、漫画化されたり、実写の映画等が小説版を出すこともあります。
基本的には各媒体の登場時期が早い順に見るのがセオリーだとは思うのですが、私は時々「触れる順番が逆だったらより楽しめたのになあ」と思う作品にぶつかることもありました。
そういった経験の中で最も印象が強く残っているのがハリー・ポッターシリーズでした。世代的に私はちょうどそのブームの真っ只中にいました。日本での1巻の出版が1999年、映画の公開が2001年でその頃小学生だった私は、世代の近いハリー達に親近感を持ち、想像力を膨らませながら作品を楽しんでいました。映画も2作品目までは世界観をより臨場感を持って感じられるものという認識でした。
2作品目まではという事は3作品目で映画からは離れたということです。原因は先に読んでいた小説との内容の乖離に耐えられなくなったからです。
あくまでこの感想は私が個人的に思ったことです。客観的に見れば映像のクオリティは高く、レベルの高い作品であったのは間違いありません。ただ、自分が見たいシーンがカットされていたり、改変された部分がどうしても当時の自分には受け入れられなかったのです。その後小説は全て読みましたが、映画については見ることはなくなってしまいました。
この件に関しては私の面倒な性格も大きな一因ですが(笑)ここから見える事として、それぞれの媒体の情報の量と質、そして時間の感覚の違いが挙げられます。
前回の記事でも挙げた通り、文章として書き連ねられた言葉はそれ単体として見ればかなり情報が少ないと言えます。しかし、こと物語の様なジャンルにおいてはそこに読者毎の想像力が介入する余白としての効果が生まれます。登場人物の風貌やアイテムの形や雰囲気等がゼロから構築されて命を得るのです。
また、文章から1つ1つ情景を想像しながら読み進めようとすると往々にして時間がかかります。例に挙げたハリー・ポッターを一冊読むのに映画と同じ様に2時間程度で読み終わる人はあまり居ないのではないでしょうか。映画だと(インド映画などは別ですが)基本は2時間程度という縛りがあるのに対し、読書にはそれ以上に時間をかける事がある種許容されているとも言えます。
これが直接の原因かは定かでは無いですが、メディアミックスとして同じ作品が映画と小説両方あった場合、小説版の方が収録されているエピソードが多いということがよくあります。映像ではクローズアップしきれない個々の人物の心理描写があったりすることも多いです。個人的な見解としては単純に時間の縛りによって小説の情報量を網羅できないということもありますし、描写の仕方によっては短い文章で読者の想像力が強く働き、結果として言葉の情報量が大きくなるということもあるのだと思っています。
映画と小説だけでなく、漫画とアニメに関しても情報の量と質の差は多く見受けられます。最も分かりやすい例は「声」でしょうか。「アニメ化されたのは良いけど声のイメージが合わない」といった感想は数多聞きますし、私自身思ったことはよくあります。その他にも漫画ではバンと一枚絵として表現できる部分が映像では動きをつけながら表現をしなくてはならないため描写の難易度が上がってしまうということもあります。これも一種の情報量の逆転ともいえます。
ここまで小説、漫画、アニメ、映画と事例を挙げましたが何を言いたいかをまとめると以下のようになります。
具体的な情報量と受け手の想像の関係はトレードオフである
念の為断っておきますがどれが良いという事ではありません。特性の問題です。小説のように言葉だけの表現では登場人物の顔一つとっても読み手によって千差万別なイメージになるでしょう。ある意味しっかりと想像する習慣ない人にとっては読むたびに違う顔が浮かんで来て困る事もあるかも知れません。反対に映画やアニメの様にビジュアライズされていればはっきりとしたイメージを持つ事が出来るでしょう。
最初から自分の想像力を全開に働かせて自分ならではの世界観に没入することも良い事ですし、楽しむという事においては、最初に登場人物等のイメージは具体的な物を見て取っ掛かりを作り、そこから描写されない部分にまで思いを馳せるのも効果的と言えます。
情報の具体性と自分の楽しみ方のパターンを理解することが大事です。それにより、既存の作品に初めて触れる時にどの媒体から入るかの目安にもなりますし、アニメ化や実写化でイメージが違うかもという事に予め覚悟を決めて臨む事ができます。
この考えを是非役立てて、自分の最適解を見つけてください。