以前の記事で紹介したamazarashiが去る6/9〜6/16の期間限定で2018年に武道館で行われたライブの配信を行いました。にわかファンの私としてはこれ幸いとばかりに鑑賞させて頂いたのですが、凄まじかったです。ライブ全てを通して一つの作品として感動と共に考えさせられるものでした。

 

 今回はライブの感想を熱が冷めないかつ、ちょっとほとぼりが冷めたタイミングでお伝えします。

 

 ※1途中まで書いてボリュームが凄いことになったので今回はあらすじで次回感想をお伝えします。

※2ネタバレを多分に含みます。嫌な方は見ないようにお願い致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このライブの正式タイトルは『朗読演奏実験空間 新言語秩序』その名の通り歌だけでなくフロントマンの秋田ひろむ氏の書き下ろしによる物語を中心に朗読パートと幾つかの楽曲で1章に纏められた全4章の構成となっています。

 当時は公演に先駆けスマホ向けアプリが配信され、物語の内容や世界観を事前に味わえるようになっていたそうです。またそのアプリはライブに連動して画面の表示が変わったり、ライトが光ったりと、参加者も世界観に入り込めるようになっています。

 

 ライブのモチーフとなる物語は現代か近未来におけるディストピア化した社会が舞台です。

 言葉によって人が傷つくのを防ぐため定められた何億通りという状況に合わせた会話のテンプレートのアーカイブ「テンプレート言語」それを逸脱する者を取り締まる自警組織『新言語秩序』

 彼らは過激な発言に対しての注意喚起を促す草の根運動がインターネット上の炎上を発端とした暴動を契機として力を持ち、テンプレートに従わない者には洗脳めいた再教育を施すといった超法規的措置すら行います。

 

 テンプレート言語の使用を自由への侵犯とみなし、そこから逸脱した表現、活動を行う者は『言葉ゾンビ』と呼ばれ、ゲリラライブや地下出版、果ては路上の落書きなどのオフラインでの行動で新言語秩序へ抵抗しています。

 

 このライブは『新言語秩序』への対抗を目的とする集会という位置付けで開催され、観客は『言葉ゾンビ』の理念に共感した参加者として迎えられています。

 

 開幕から始まる楽曲はまさに言葉の可能性を示しているかのようです。喜び、悲しみの豊かな表現、そして弾圧に対する静かだが力強い反抗の意志が伝わってきます。

 

 そして最初の朗読パート。新言語秩序を熱心に信仰する女性実多(みた)の視点で物語は始まります。醜い言葉の羅列、そしてそれらの上から塗りつぶすように強い意志で書かれた『言葉を取り戻せ』という落書きに憎しみを募らせ元凶を探し求めます。

 彼女は言葉の力を蔑している訳ではありません。むしろその大きな力に大いに傷つけられた過去があります。親から、かつてのクラスメイトから、教師から罵倒され貶められ心を蹂躙され、そして自らをそれらの言葉に相応しい存在だと認識してしまったが故に言葉の力を畏れ、同じ様な存在を生み出さない為に新言語秩序の理念の達成に殉じるのです。

 

 第2章で実多言葉ゾンビの象徴低存在である希明(きあ)を捕らえます。彼の言葉は強い影響力を持ちシンパを増やしています。拘束されなお怒りに打ち震える希明はに実多対しても言葉を投げかけます。「おいあばずれ、お前も言葉殺し」その後に続く心理描写からするとこの言葉も実多に突き刺さってはいたのでしょう。しかし、冷淡に彼女は希明再教育の執行を伝えます。その後言葉ゾンビの反抗にあい暴力にさらされながらも彼女は自らの決意をより強固にしていきました。

 

 私は言葉を殺さなくてはならない

 

 第3章は希明の捕縛劇から一ヶ月後、凄惨な再教育によって弱りつつも心折れぬ彼と実多とのやり取りが展開されます。幼い頃から罵られ侮辱され育ってきた結果形作られた今の自分をさして彼女はこう言います。 

 

 言葉を憎む人間を作ったのは言葉だ

 

 対して彼は言葉の自由を奪うことは変わる機会を殺すことだと説きます。そして実多の中にある彼女の殺したのはず言葉を、感情を揺さぶるのです。

 

 言葉で君という人間が出来上がったのなら、これからの君を変えるのも言葉のはずだ。その証明を君は既に持っている

 

 心を揺さぶられ、苛立ち紛れに実多再教育の延長を伝えその場を後にします。

 しかし投げかけられた言葉は彼女の心に食い込み、離れないのでした。

 

 最終章。象徴を奪われたことで火のついた言葉ゾンビが蜂起し大規模なデモが起こります。あらゆる主義主張がごった煮になった集団にも関わらず、叫ぶ言葉は一致しています。

 

 言葉を取り戻せ!

 

 実多は群衆に紛れ自分が新言語秩序だとばれれば殺されるかもしれないという恐怖を抱きながらも、後に反撃するためにデモ参加者の顔を動画に残していきます。

 デモの中心、救出された希明が言葉の自由を叫ぶステージに近づいた時、ついに彼女は存在を見つけられてしまいます。立場を変えて2章で起こったことの焼き直しが起きたかのようです。

 希明は彼女に語りかけ、言葉を求めます。

 実多は己の信念を盾にそれを拒否します。

 

 言いたいことを全て言うのが正しいとは思えない

 

 周囲からは憎しみを込めた罵詈雑言が飛び交います。彼女と同じ様に群衆に紛れ込んだ新言語秩序のメンバーは自らも吊るし上げられる事を怖れてか傍観するばかりです。罵倒かそれを見て見ぬ振りかのどちらかしかいなかった過去の暗い情景が実多の心を過ります。明確な敵意を向けられ、過去のトラウマを抉られた彼女の目からは条件反射のように涙が溢れます。

 

 今にも私刑に走りそうな取り巻きを希明は制し言います。

 

 言葉殺しだって自由に話す権利はある

 

 そして彼は実多にマイクを差し出します。周囲は静まり返り、しかし無数の怒りの眼差しは彼女に向いたまま。過去の映像を俯瞰で見ているかのように感覚が麻痺しながら、嗚咽を漏らしながら実多はステージに上ります。

 そして自らに渦巻く、過去に殺したはずの言葉が逆流してくることに戸惑いながらマイクを受け取るのです。

 

 物語はそこで終わり、実多の言葉の吐露と重なる様に最後の曲『独白』が流れライブは終演を迎えます。

 

 いかがだったでしょうか、以上が公演のストーリーラインになります。

 物語を自分なりに要約したのですがそれでもかなりの分量になってしまいました。

 かなりかいつまんでしまっていますが、考えさせられるテーマの片鱗は理解していただけたらなと思います。

 次回の記事ではこのテーマについて私なりの思いと考えをお伝えします。もし可能ならライブを実際に見てから読んでいただければより分かりやすいかと思います。

是非アプリとご一緒に見てみてください。