パリ五輪シーズン本格開幕を告げるダイヤモンドリーグ初戦厦門大会はクリスチャン・コールマンが10秒13(-0.6)で制したものの満足行く出来ではなかったと思われます。
昨年9月の同大会と比較すると10m通過で既に0.06秒遅く、スタートで浮いてしまった影響を感じさせます。
スタートを失敗した影響はその後の加速にも影響を及ぼし、トップスピードは50~60m区間の0秒87となっています。
コールマンが絶好調ならば0秒84を記録するので百分の三秒も遅いのは今シーズン初の100mという事を考えても不満が残る結果だったのではないでしょうか。
コールマンの収穫を挙げるとすれば90~100mの失速がなかったことです。80~90m区間と同じ0秒91となっており、フィニッシュを不得手としているコールマンだけに今回のようにそのまま走り抜ける方が結果的に速く走れる可能性が高そうです。
2位に入ったのはフレッド・カーリーですが、こちらはかなり厳しい状態と言わざるを得ません。
カーリーはコールマンとは対照的にこの大会までに多くの100mレースをこなしてきていて試合勘という面では問題はなかったはずです。
実際、コールマンよりも10m地点は先行し、スタートダッシュは昨年と変わらない調子は保っています。
そして、得意の後半の減速も非常に少なく、スピード低下率は昨年よりも良いくらいでした。
問題は前傾後の加速です。
コーチが変わった影響なのか、前傾後のピッチアップがないどころかピッチダウンしている状態で、コールマンにそこで大きく引き離されていました。
前傾後の加速が上手く行かなければ最高速度も望めず、今大会は0秒88が最速区間でした。
昨年はスパイクの影響で2022年のパフォーマンスが出ていないと考えていたカーリーですが、今年の状況はスパイクよりも自身の問題の方が圧倒的に大きいです(同じスパイクを履いて0.2秒くらい落ちているので当たり前ですが)。
スタートと後半の速度維持は問題ないので、前傾後の中盤加速が戻ってくれば昨年レベル近くまでは戻ってくるかもしれませんが、室内の時から一貫して前傾後のピッチアップが全く出来ていない状況なのでここから一気に改善する可能性は高くないと考えるのが自然だと思います。
今年はオリンピックイヤーで、五輪代表を決める全米選手権は無風換算でも9秒9台前半は必須だと思われます(限りなく8台に近い9台前半)。
昨年のパフォーマンスでも代表落ちの可能性が高い中で、この状況から昨年以上のパフォーマンスに上げていくのは現状の流れからするとかなり厳しいと思われます。
日本勢は、和田遼選手が10秒31(-0.6)で5位、屋外初戦となった桐生祥秀選手が10秒38(-0.6)で7位に入っています。
和田選手は急遽参戦が決まり、3週連続の試合で疲労が溜まっているであろう中で持てる力は発揮できたのではと思います。
出雲では落ちていた前傾後のピッチアップが戻ってきており、強豪と走っても自分の走りがある程度出来たのは収穫だと思います。
パリ五輪リレー日本代表に求められるのは無風換算10秒0台だと考えるので、無風で10秒0台が出るようなパフォーマンスを今後期待しています。
桐生選手は屋外初戦という事で、今回のタイムが自身の力を反映したものなのか分かりません。
昨年よりも1~16歩を大きく走る意識は室内の時と変わらず、室内と違ったのは16~21歩のピッチアップが出来たかどうかです。
桐生選手の良い時は16~21歩のピッチアップが出来て中盤以降の加速力で抜け出ます。
シーズンが進むにつれて前傾後のピッチアップがしっかり出来るようになると完全復活して五輪代表争いに絡んでくるでしょう。
1~16歩を大きく入るようになっている事は復活への正しいステップを踏んでいると思います。
ダイヤモンドリーグは来週も中国で開催されます。
ダイヤモンドリーグの優勝記録が10秒1台というのは世界最高峰の大会としては寂しいところです。
来週は五輪シーズンらしい記録を期待したいです。