4月の織田記念、5月の関西実業団では10秒6台に終わり、どん底の屋外シーズン序盤を過ごしていた多田修平選手。

 

6月の布勢スプリントで復活ののろしを上げると、今回のアスリートナイトゲームズ福井では+0.8mで10秒10をマークして完全復活を宣言しました。

 

今シーズンの多田選手の軌跡を振り返ってみたいと思います。

 

 

欧州遠征2戦目のチェコで予選6秒63、決勝6秒59と上々のタイムを記録して、今シーズンの多田選手の仕上がりに期待感が高まりました。

 

この6秒59は10秒20ペースで、この時期に無風10秒20、終盤少し失速したとしても10秒2台で走れるスピードを見せたのは今年の多田選手はやるぞと印象付けるに十分でした(坂井選手の室内が6秒62で室内のタイムは多田選手が上でした)。

 

多田選手の不調の始まりは欧州遠征3~4戦目でした。

 

3戦目は2戦目より0.10秒も落とし、4戦目はさらに0.04秒落としてしまいました。

 

無風10秒2台で走れそうなパフォーマンスから10秒4~5台へと落ちてしまい色々原因を考えたと思われます。

 

欧州遠征ではロストバゲージにあった初戦を除き、マックスフライを着用していました。

 

昨年からマックスフライの感触がどうもしっくりいっていない様子の多田選手は、ここでマックスフライで試合に臨むのを止めました。

 

関西実業団、布勢スプリント、ANG福井の3戦の走りの変遷を追ってみます

 

関西実業団決勝10秒63(-0.2)

1~16歩2秒99

歩数49.7歩

中盤以降のピッチ-0.19

 

布勢スプリント決勝10秒21(+1.7)

1~16歩2秒96

歩数48.9歩

中盤以降のピッチ-0.11

 

ANG福井10秒10(+0.8)

1~16歩2秒98

歩数48.5歩

中盤以降のピッチ-0.06

 

1~16歩のピッチは3レースで大きな違いはないです。

 

大きな違いは歩数と中盤以降のピッチです。

 

両方とも調子が上がるにつれて大幅に改善していて、関西実業団とANG福井では全くの別人のようです。

 

布勢スプリント時点では、ここからさらにタイムアップするにはもう少し歩数を減らす方向が必要と思っていましたが、見事に中盤以降のピッチを上げながら歩数の短縮に成功しています。

 

室内の6秒59を考えれば、このくらいのタイムが出ても不思議ではないですが、春先の不調を考えると凄まじい復調具合です。

 

多田選手は他の多くの選手と違う点があります。

 

前日練習と本番との違いです。

 

レースでは競るので、どうしても練習よりも1~16歩のピッチが速くなりがちですが、多田選手の場合は、練習の方がピッチがほんの少し速く、決勝で明らかにストライドが伸びてきます。

前日練習ではリレーのバトンゾーンの線に爪先が丁度乗る感じなのに対して、本番では1足長ラインより前に来ています。

 

8歩目までのタイムの違いは0.01秒ほどなので、明らかに本番の方がタイムが良いです。

 

実際、前日練習の動画は10秒30程度が予想される走りでしたが、試合では10秒10と大きくタイムを上げています。

 

不調の時に練習のパフォーマンスが試合で出ないと嘆いていましたが、実際には試合で練習よりも上がってこないがより正確だったのではないでしょうか(不調時は前日練習と試合が同じようなパフォーマンス)。

 

心技体を完全に取り戻した多田選手が来年のパリ五輪に向けて、代表争いに堂々と名乗りを挙げたのは間違いないと思います。

 

ここからさらにパフォーマンスを上げる事がパリに繋がるので、どこを改善していくのか注目していきたいと思います。