【建国記念日特別編】フラットって何度以内ですか? | Analog of Magic もみじとクラフトマンのblog

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ヘッドホンアンプは可聴域外の特性は関係なくね?という話をしている人がいるとクラフトマンに聞き、思うことがありましたので特別編です。

 

 

 

まず最初に。
理論を否定したいのであれば、「関係ないです(私は関係ないと考えます)、なぜならば(理由)」と書かなければなりません。関係なくね?は無責任ですし、同意が集まれば叩いてやろうという意図が見えることもあります。
しかしこれは今回の本題に関係ないので今回はあまり気にしないことにします。
 
 
 
本題はここからです。
アナログ回路では周波数特性と位相特性は非常に密接な関係があります。どちらか一方を好き勝手にいじることはできません。
一番簡単な一次LPFの場合、カットオフ周波数である-3dBの地点で45度遅れになります。しかしいきなり-6dB/octになるわけではなく減衰し始める周波数はずっと低いところからです。そこから位相も徐々に遅れてきます。
つまり20kHzで-0.5~-1dB以内等に設定していると倍音が含まれる領域で位相が大きく遅れることになります。ここで計算をしだすと長くなりますし難しくなるので詳細な値は各自で計算してください。数値をいれれば周波数特性と位相特性のグラフを出力してくれるサイトもありますので。
 
倍音が適度に遅れることで広がりがあるように聞こえたり電源やプリント基板の設計の悪さがカバーできることもありますが、回路設計者からするとこれはごまかしに過ぎません。サスや骨格の出来が悪いスポーツカーにプアなタイヤを履かせその出来をごまかしても速くはならないのと同じです。
ただし回路設計者ではなく営業や自己顕示欲を満たしたい人目線で見た場合は、そのチューニング?を宣伝のひとつにできるので良いのかもしれません。
なおここまでは高性能な増幅器の前か後にLPFを挿入した場合の話です。オペアンプを設計するときはまた変わってきます。
 
 
 
オペアンプの中身つまりディスクリートアンプを設計するときは多くの場合で可能な限り大きなフィードバック量を確保したいです。(一般的な電圧帰還アンプの場合)
しかし1ポール補償では-6dB/octでオープンループゲインが減少してきてGB積で0dBになりますので、フィードバックを大きく確保しようと思ったらGB積は大きくなっていきます。
 
物の本(もののほん)によると、十分な知識があり最低限の測定器しか有していないビギナーはパワーアンプで2MHzあたりを狙うと安心と書いているものがあります。これは結構高い周波数です。しかし特性を追求すると必然的になってしまう値なのでしょう。缶タイプのパワートランジスタが主流であった時代のパワーアンプでこれ以上伸ばすには少し難しい技術や知識、コツが必要ですのでこのくらいの周波数になっているのだと思います。
 
なお昔の人がアンプでよく100kHzの矩形波を観測するのは周波数特性のピーク等を確認して安定性について検討するためです。これはアンプ単体での安定性ですので、前や後ろに極端にカットオフの低いLPFを入れて測った値はあまり参考になりません。
出力にインダクタを入れていれば負荷とLPFを形成しますのでそれなりの設計をしていればスピーカー負荷では発振はしにくいでしょう。しかしスピーカーケーブルが極端に長く末端でスピーカーが外れているようなほとんど純粋な容量負荷では厳しい場合もあります。
私は回路設計者ですので想定されるいかなる負荷でも問題ない回路にしたいと考えています。なので極端なダミーロードでも測定しています。ただし、容量負荷のみの波形等はそのデータの意味がわからない人が多く間違った解説が出そうなので掲載していません。
 
これらはヘッドホンアンプでも同じだと考えています。スピーカーもヘッドホンも基本的に同じような負荷ですからね。ヘッドホンのほうがまだ簡単だと思いますけれども。
 
 
 
ところで可聴域外の再現性は必要ないと言う人のなかにもGB積の大きなオペアンプで強烈なフィードバックをかけているものを多数見かけます。大きなGB積に肖っているはずなのになぜその領域を否定するのか疑問でなりません。
 
また、特性の重要性を軽視する人たちは「フィードバック量が多いから閉塞感がある」「カットオフが高すぎるからサ行がうるさい」等と言う人がいます。これをコンデンサや抵抗器で音が変わると主張する人たちが言ってしまうのは、特性が良いものに対する印象操作です。だって、特性に現れない音があるのでしょう?
でしたらこれは測定しにくい部分もある程度論理的に詰めたアンプを設計製作してから論じなければなりません。できないことやわからないことを否定するだけでは何も進歩しませんし、特定の要素をいれながら音の悪いアンプを作るのは簡単です。
 
 
 
どんなアンプを作るにしても
・何をどうしたいのか、なぜそうしたいのか
・そのためにはどんな設計をしてどのような値になるのか
・実際にはどうなってなぜその結果が得られたのか
は最低限やる必要があります。なんとなく設計してなんとなく波形を見てもその意味がわからないでしょうし、正しいかどうかもわかりません。知識がないと本当になにもわからないものです。そんな状態で何年もアンプ作りをしているのは、科学技術と回路設計者、買ってくれる人にとても失礼な行為だとさえ思います。
 
 
 
寄生成分の話や分布定数の話など書きたいことはたくさんありますが、長くなりましたので最後にひとつ有名な話を書いて終わろうと思います。
 
「パワーMOSFETは入力抵抗が大きいからこれを最終段に使ったパワーアンプはバイポーラジャンクショントランジスタより周波数特性を良くしやすく音のキレがよい」
 
パワーMOSFETはゲートが酸化膜で絶縁されている構造なのでゲート電流は極めて小さいです。しかしその構造だと容量は……。その容量と不適切な設計によってリンギングが出て鋭い音になっているものもあると思います。
※2SA1942と2SJ200の特性を比較してみてください。
 
 
妄想どおりに回路が動いてくれるなら、いまごろみんな優秀な物理学者です。