より良いアンプのために1~設計の基礎編~ | Analog of Magic もみじとクラフトマンのblog

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アンプの設計はどのようにすれば良いのか興味をお持ちの方がいるようですので、少し解説してみます。

 

 

1.目標値を決めて回路を考える

 

部品を選ぶ前に、回路を設計する前に、まず目標とする性能を決めます。

ここでは例として

・入力インピーダンス100kΩ以上(1kHz)

・出力インピーダンス600Ω以下(1kHz)

・利得約+10倍、DC~300kHz(フルパワー帯域幅とは言っていません)

・出力のオフセット電圧20mV以下

・最大で16Vp-pまで振れる

・信号源インピーダンスは大きくなる時もある

という条件の増幅器を制作することにします。

 

今回はわかりやすくするため極力部品を減らしたいので、回路はICのオペアンプを使った非反転増幅回路の一発とします。DCから増幅する必要があるため、入出力ともカップリングコンデンサはありません。

 

入力インピーダンスが1kHzで100kΩ以上なので、入力バイアス抵抗は100kΩ以上の適当な値にします。フィードバックは利得が任意の値になれば何でもいい…と思われがちですが、あまり大きな値にすると雑音特性が悪化します。また、各所の容量とフィルタを形成するため値によっては不安定になることもあります。適切な値を選びます。

 

 

2.部品を選ぶ

 

前述した仕様を満たすためには、

・GB積は3MHz以上

・入力インピーダンスは1kHzで100kΩ以上ならかなり自由に選べる

・出力インピーダンスは1kHzで600Ω以下なら何を選んでもあまり問題なし

・入力のオフセットが2mV以下になるように

・電源電圧は最低でも16Vp-p(正負8V)以上必要

のものが必要です。

 

たとえば

・GB積が8MHz

・入力抵抗が十分に大きい

・出力インピーダンスがクローズドループで十分に小さい

・入力オフセット電圧が±2mV

・入力バイアス電流と入力オフセット電流は十分に小さい

・電源電圧が±18V(max)

・FET入力で電流雑音も小さい

という品種ならば問題ないです。ちなみにこの値はOPA134のものです。

 

3.細かい値を決めていく

電源電圧は出力を16Vp-pまで振るため、これは最低でも16Vp-p(正負8V)以上に設定しなければなりません。OPA134の出力は負荷600Ωで(V-)+2.2V・(V+)-2.5Vなので、少し余裕を見て±12Vくらいあれば良いでしょう。

雑音が指定されていないので、フィードバック抵抗などは自分が狙った特性になるように選びます。

デカップリングコンデンサは高い周波数の特性が良いものと、容量があるものを並列に入れるのが定石です。ただし、最近は大容量なMLCCも登場しているので、1つに置き換えることも場合によっては可能です。

今回は負荷が指定されていませんが、負荷が純抵抗ではなく容量成分がある場合などは、出力に直列に抵抗を挿入したほうが良い場合もあります。その場合は、出力が負荷とその抵抗で分圧されますので、負荷にかけられる振幅は小さくなってしまいます。

 

4.部品配置や配線を決めて組み立てる、もしくはPCBを発注する

知識と技術と経験を駆使して設計してください。PCBの設計もとても奥が深いのです。

 

5.動作確認と測定をする

まずはDMMを使って想定した動作しているかを確認していきます。回路の各部分の理論値と測定値をそれと比較します。動作していそうでしたら各種測定器を使い、特性の理論値と測定値を比較していきます。

 

 

 

簡単に書くとこのような順で設計することが多いと思います。本当はもっといろいろなことを考えていますが、多すぎますし言葉にするのは難しいので書けません。

 

5.で書いているように、目標を定めて設計している場合は必ずそれが達成できているか測定しているはずですので、測定結果が示されていないアンプは何かおかしい気がします。データを公表していても、行き当たりばったりな設計をした結果を公開しているだけであったり、クリアできていそうな値を適当に表示している場合や、ICなどの性能限界値を示すアンプもあります。

 

ただし、研究・実験および本や雑誌用に改めてデータを取る場合などは、ある程度行き当たりばったりになることもあります。限界を探るために必要なことですからこれは良いのです。それに、こういうアンプが商品として出回ることはあまりありませんしね。

 

 

その2は部品の配置や配線の長さについて少し触れたいと思います。

 

もみじさん