「釜わらし」などという存在は、聞いたことがなかった
ので、どう理解すればいいのか戸惑った。
確か東北地方にいる「わらし」は、実際の子どもと
等身大の大きさだったと記憶している。
しかし、今、目の前にいるのは15センチぐらいしか
ないため、どう接すればいいのか困った。
小さな顔に長いまつ毛の目がくるっとしており、赤み
を帯びた口が可愛い。体つがほっそりしていて、カモ
シカのような足はすばしこそうだ。
「だけど、いままで一度も見たことないよ」
「そりゃそうです。わたしたちの姿は、普通の人間に
は見えないのですから」
「どうして?」
「わたしたちは精霊の塊ですから、純粋な心の持ち
主以外の人には見えないのです」
「ええ?じゃぼくは純粋なわけ?」
「そうですよ」
「そんなこと言われたことないなあ」
「いいえ、わたしはずっと伸介さんを見てきました。
とても純粋で正義感が強いと思います」
「えへへ、照れるなあ」
この釜わらしとの出会いが伸介の心を大いに慰めて
くれた。なぜなら、この日以来伸介は釜焚きを一人で
やらなくてもよかったからだ。
薄暗いところで、釜焚きをしながら釜わらしを待って
いると、周囲にだれもいないのをを見計らって、必ず
かわいい姿を見せてくれた。
伸介は、釜わらしといろんなお話をするのが楽しかっ
た。その仕草があまりにもいかわいいため、スケッチ
することにした。
彼は小さいときから絵が得意だったので、釜わらし
と話しながら、彼のはやい動きに負けないように素描
をやってみた。。
夢中になって色々ななポーズを描いたので、気が
ついてみると、スケッチブックはたちまち釜わらしの
姿が踊っているようだった。
釜わらしはピエロのように体を動かし、表情豊かに
伸介に話しかけてくれて楽しかった。
「うーん、君って男の子?それとも女の子なの?」
「さあ、どっちでしょう」
「どっちかなあ」
「当ててみて」
「女の子かな」
「外れ!」
「じゃ、男の子」
「外れ」
「ええ。それじゃ変だよ」
「そう?それじゃ、どちらも正解です!」
「ええ?ますますわかんないや」
「実は中性なんです。人間からは見る人によって、女
にも男にも見えるんです」
「ああ、それで精霊というわけ」
「そうなんです」
女でも男でもないとすれば、どうなるんだろう。伸介は
いったいどう考えればいいのか、よくわからなかった。
→「第8章 釜わらし7」につづく
