第6章 予期せぬ転校2 | 穴吹 圭のブログ

穴吹 圭のブログ

日常の話、コミュニケーション、外国語習得法などを



中心に、小学生から大学生まで幅広く教育のあり方を



考えます。



教育についてはこれまでの経験を活かし、実際に役に



立つ内容を読者と一緒に掘り下げていきたいと思います。

 少しは励ましてくれればいいのに、ほとんど可能性

はないという返事だった。伸介は無性に腹が立ち、

怒りさえ覚えて職員室を出た。


校門の所にきたとき、珍しく健太に出会った。相変わ

らず生意気そうに学帽をハスに被っている。


 「伸介、お前東京に引っ越すがけ?」
 「だれから聞いたがけ?」
 「だれだって知っとるちゃ、小さい町やさかいに」
 「学校は、どうするがけ?」
 「まだどうするか決まってないちゃ」
 「あんただったら、試験を受ければ大丈夫じゃない

がけ」
 「へえ?珍しいちゃ。励ましてくれるがけ」
 「別に、あんたとはとはよく喧嘩した仲やから、なん

なく寂しくなるちゃ」
 「なんだ、そういうわけか。おれはちっとも寂しく
なん

かないがや」
 「何、生(なま)言ってんじゃないよ」
 「何だって、お前も相変わらず悪ボスぶってんだ」
 「うるさいちゃ」
 「じゃなあ、あばよ」


と別れの言葉を言い放って、伸介は健太の前から

去って行った。


 これが健太と当分の別れとなった。もちろん小学生

のときのような喧嘩はしない、しかし健太の口の悪さ

は相変わらずだった。


 こんな別れ方をしていたので、数週前に健太から

の電話で、穏やかな紳士ぶった声を何度か聞いた

とき、伸介は不思議な感覚に襲われるのだった。


 伸介は担任の青野先生にも、健太にも怒りを覚え

ていた。それはどうにも止められない怒墳のような

感情だった。


 (ようし、どんなことしてでも都立高校に受かって、

奴を見返してやるぞ)


 伸介は心の中で固く誓った。東京のことは何も知

らない。でもオヤジの言う通りにもなりたくなかったし、

担任の青野の奴にどうしても鼻をあかしてやりたかっ

た。


 伸介は体内の底から強い怒りに駆られた。自分の

運命にこのまま負けたくない。何とかしなければと

いう思いが人生の歯車を動かすことになった。
  
 すると、東京の叔母さんの家で居候している勇一

から連絡があった。都立高校を受験するならすぐ来

るようにという電話がかかってきたのだ。


 彼は東大を目指して浪人中で、今文京区の叔母

さん(親父の妹)の家で居候していた。


 まだ6月下旬だったが、伸介はクラスの友だちに

別れを告げることもなく、学校を休学にしてすぐ上京

することになった。


 この夜逃げ同然で故郷を離れたことが、伸介の

精神的な苦しみとして、長く後遺症となった。


 なぜなら、人生の岐路に突然立たされた一高校

生が、精神の拠り所である故郷を失った経験が、

社会人なった今も、夢にまで見るようになったから

だ。


 当時は北陸本線の汽車で十二時間以上もかかる

長旅で、上野駅に着いたときにはすっかり疲労困憊

していた。


 上野駅で山手線に乗り換え駒込駅で降りて、そこ

からタクシーで行った。


 こんな一人旅は初めてだったので、叔母の家の

玄関に立ったときは、気が抜けて倒れそうになった。


 後でわかったことだが、叔母は上野で出迎えよう

と思っていて出迎えの準備をしていたらしい。


 ただ、兄ちゃんはオレを甘やかしてはダメだという

ので、結局一人で来させるように決めたということ

だった。


 東京に一人でやってくるほど心細いことはない。

それはまるで漱石先生の『三四郎』にあるように、

九州から単身上京した三四郎が御殿場に放り出さ

れた野うさぎのようだった。


 彼はそれとよく似たような感覚をに襲われた。そし

て、大都会でこれが地獄の生活の始まりとなった。


→「予期せぬ転校3」に続く


ペタしてね