第5章 番台の境界7 | 穴吹 圭のブログ

穴吹 圭のブログ

日常の話、コミュニケーション、外国語習得法などを



中心に、小学生から大学生まで幅広く教育のあり方を



考えます。



教育についてはこれまでの経験を活かし、実際に役に



立つ内容を読者と一緒に掘り下げていきたいと思います。

 松葉湯の裏には、ちょっとした飲み屋や旅館があった

ので、昼の客は老人や夜の商売の客がけっこういた。


 駒子もその一人である。明るく振舞う美人は、なかな

かの売れっ子のようだった。


 ただ少しもそれを鼻にかけたりせず、気さくに誰とも

付き合うせいか、芸者仲間評判がよかった


 彼女は決して気取らないし、伸介にときどきお小遣い

をくれるのは勿論だけれど、心を開いて自分を受け入れ

てくれる伸介が、駒子にとって何ものにも変えがたい

存在だった。


 毎晩のように泥酔客を相手にする駒子にとって、まだ

男の匂いを感じさせない少年は、一種の清涼剤のよう

な存在だったのかもしれない。


 彼女は伸介の前では成熟した女である必然性はな

かった。だから、少年に帯を解くように頼み、生まれた

ままの姿で鏡の中の自分と対面できたのである。


 今日もまるでビーナスのようにすくっと立ち、左足を少

し内側に傾けるポーズを取って、しばし忘我の世界に

浸っている。


 真っ白な胸元に形のいい乳房が揺れ、その中心に

あるピンクの乳首が囁き合っているようだ。細くくびれ

た腰の曲線は豊かなお尻へと繋がっている。


 窓から差し込む光に白い裸体が鏡に反射し、眩しさ

に気後れしている駒子の微妙な心情を、少年の伸介

が理解できるはずもなかった。


 彼は帯を解き終わって番台に戻ろうとしていた。


  「伸ちゃん、お姉ちゃん、きれい?」
  「うん?うーん…、まあーね!」
  「ふふふ、変な子、じゃどこがきれい?」
  「どこって、あの…、うーんと」


  伸介は思いがけない駒子の質問にすっかり動転

してしまい、何て言っていいかわからなかった。


  「恥ずかしいんでしょ」
  「……」
  「いつも、お姉ちゃんのこと、チラチラ見てるじゃ

ない?」
  「ええ?」
  「わかってるわよ」
  「なあーんだ、そうか。お姉ちゃん、ぜーんぶきれい

だ!」
  「あら、そう、うれしい」


 駒子は、いきなり伸介を背後から柔らかく羽交い絞

めにした。突然だったので、驚いてその手から逃げ

ようとしたが、意外にも駒子の力は強かった。


  「あっ、お姉ちゃん」
  「うふふ、信ちゃんちょっと目つぶってくれない?」
  「目?こう?」
  「そうそう、じゃ、信ちゃんの一番きれいだと思う

ところ、言ってみて」
  「ええ?そーんな、でも…」


 伸介がもじもじしているので、じれったくなった駒子

は何か思いつたのか、大きな瞳をさらに大きく見開い

て言った。


  「いい?じゃ、こうしない?ジャンケンしようよ」
  「ジャンケン?」
  「そうそう、伸ちゃんが負けたら、ちゃんと言ってね。

いい?じゃ、いくわよ」


 なんだか狐につままれたようにチョキを出したところ、

案の定負けてしまった。
  「やったあ!」


 と言いながら、駒子は両手手を広げ、もじもじする

伸介をギュッと包み込んでしまった。


 すると彼の顔が、ちょうど彼女の豊かな胸元に挟ま

れるようになり、すぐ呼吸が苦しくなった。


 両手で押しのけようとしたとき、駒子はスラリとした

細い腕で伸介の両手を首を掴み、そのまま彼女の腰

に巻きつけるようにした。


 すべすべした肌のせいで、伸介の右手は彼女の

お尻まで滑り落ちた。ひんやりと心地よい感触だった。


 それは、赤ちゃんのときお袋の体に触れた感触とは

異質で、まるで大理石に触っているようにヒンヤリして

いた。


 駒子は伸介を強くそして柔らかく抱きこみ、彫刻の

ように動かなかった。ただ乳房から伝わってくる心臓

の鼓動は、確かに伸介にも伝わってきた。


→「番台の境界8」に続く


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