届いた手紙12 | 穴吹 圭のブログ

穴吹 圭のブログ

日常の話、コミュニケーション、外国語習得法などを



中心に、小学生から大学生まで幅広く教育のあり方を



考えます。



教育についてはこれまでの経験を活かし、実際に役に



立つ内容を読者と一緒に掘り下げていきたいと思います。

 ようやく先生が駆けつけて喧嘩は収まったが、二人と

ひどく叱られてしまった。


 今回は完全に相手が悪かったので、伸介にはそんな

罪悪感はなかったが、結局巻き添えを食って怒鳴られ

た。


 「こら、健太、どうして雪玉に石なんか入れたんだ」
 「だって、負けたくなかったんだもん」
 「負けたくないためなら、何をやってもいいのか!」
 「こいつには負けたくないから」
 「石で大きなケガをしたらどうする?」
 「知らんちゃ」
 「もし目にぶつかって一生見えなくなったらどうする」
 「……」
 「伸介も、伸介だ。本気で殴るやつがあるか!」
 「だって、頭にきたんだもん」
 「鼻が折れたらどうするんだ!」
 「……」


 伸介は不満だったが、正当防衛とはいえ、ちょっと

やり過ぎだったかもしれない。結局、喧嘩両成敗と

いうことになった。


 雪合戦は相手の本陣の旗を取ると勝つので、それ

を奪い取るために、敵に雪玉をぶつけては一人ずつ

場外に出すのだ。


 みんな雪玉を投げたがるが、それは素人考えで、

実は役割分担をするのがいちばん早道だ。


 雪玉は投げ手、作り手、運び手の三班に分かて、

一人が三役をこなすより専門化した方が絶対的に

有利だからだ。


 特に雪玉を投げやすい大きさに固めるのに、手際

よくやらなければダメで、大切な役目だとみんなが

わかっていた。


 ただ、いくら固くしたいからといっても、健太のよう

に雪玉の中に石ころを入れたり、水につけて固め

たりしてはいけないことになっている。


 女の子も参加するので、綿雪をおにぎり大のサイ

ズに丸めて投げるのが、基本的なルールになって

いて、みんなで何人にぶつけたかを競うことにして

いた。


 ところが、健太がそのルールを破ったものだから、

伸介は卑劣な行為に烈火のごとく怒ったのである。


 こんな自然児のような少年時代を過ごしていた

伸介だったが、今では会社のだれからも尊敬され

る研究者となっていた。


 しかも、そんな田舎町で、まさかこの男の実家が

元風呂屋(銭湯)だったとは、職場の人間も、彼の

友人もまだれも気づいていないのである。


 伸介は研究所で立派な業績をあげ続け、優れた

研究者としての評価を受け、45歳で部長にまで

出世したエリート中のエリートとされていた。


 だから、いまさら実家が風呂屋だったことが知れ

るのは、彼の自尊心が許さなかったのである。


 とにかくそれを極力秘密にしておきたかったので

ある。


 それが同窓会案内の手紙が届いたことによって、

伸介の胸の内に小波が立ちはじめた。


 さらにかつての喧嘩相手の稲田健太から、同窓

会出席への誘いを受けたのだ。


 それは、まるで崖の上から突き落とされそうで、

不安定な感情を抱くようになったのである。


 自分でも不安な気持ちをもてあまし気味だったが、

心の中に影を落としていたことは確かだった。


 言葉ではうまく説明できなかったが、それは暗闇

の中でに蝋燭がほのかに光るように、ボンヤリ炎が

ゆれているような心境だった。


 →「第2章 湯けむり1」に続く

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