聖書と質屋.3 | あなぐまの下町質屋ブログ

あなぐまの下町質屋ブログ

横浜の下町、弘明寺で創業65年の質屋を継いでいる
「あなぐま」です。
『質屋ってどんな人がやってるの?』という疑問にお答えするため、日々の業務や日常、趣味、質屋の裏側、クルマやバイクの話題を書き綴ります。
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質屋の歴史については、このブログの別ページにも書いてありますが、遣唐使により伝わり、鎌倉、室町時代を通して貨幣経済の浸透とともに一般的になった感じでしょうか?

 

 

 

江戸時代でも特に経済が発展した元禄の時勢に、

『近頃江戸で流行るもの、伊勢屋、稲荷に犬のクソ』という川柳がありました。

 

犬のク●については、徳川綱吉の生類憐みの令によって、犬や猫等が保護されたため、江戸の町中に野良犬が跋扈し、糞の始末に苦労をしたのでしょう。

稲荷については、この頃、神社の御霊を分霊する勧請が比較的容易に行えるようになったために、本来五穀豊穣の神社である稲荷神社が、商売繁盛のお宮として、江戸の各地に私的に作られるようになったとのこと。

伊勢屋については、江戸の町が賑わってくると、三河屋や近江屋のように関西の商人が進出してくるのですが、伊勢屋の看板を掲げた質屋が多かったようです。

 

戦国時代が終わって、江戸幕府による幕藩体制も整い、地震や富士山噴火などの天変地異はあったものの、それにもめげずに経済は回り、平和で賑やかな時代だったのでしょう、だけど、そんな平和な時勢にも皮肉を言ってみたくなる、これも自由が生み出す文化の一つなのでしょう。もちろん自由になんかモノを言えませんが。

 

この皮肉の川柳に込められた、犬のク●と並べて称される質屋の存在は、庶民の生活に必要な商売だったにもかかわらず、やはり忌み嫌われる存在でもあったわけでしょう。

ちょうど、キリストの時代、ユダヤの地における、取税人のザアカイやサマリヤ人みたいなものですね。

 

樋口一葉が通ったという伊勢屋質店、東京都文京区の指定文化財です。

 

私の店は昭和32年創業、私は33年にこの質屋の息子として生まれました。

質屋と言っても、小学生にどんな商売か分かるわけありませんから、質屋の息子としてイジメられたことは殆どありませんでした。もともと背は低かったのですが個性と我が強く、成績とスポーツも上の方でしたので、イジメの対象になることはありませんでした。

 

ただ一度、小学3年生ぐらいだったか、あまり親しくない女生徒に、

 「岩田くんち、質屋なんでしょ?わたし質屋なんか大嫌い!」

と唐突に言われたことがありました。その子はちょっと変わった苗字だったので覚えているのですが、

本当に唐突に、前後の脈絡もなくその言葉だけ言って、その女生徒プィっとは向こうに行ってしまい、私はそんな性格だったので、その場では「なんだそりゃ?変な女」と思いましたが、

その夜、父に『なんでうちは質屋なの?』と聞いてみました。

 

父も私の気持ちを察してか

「質屋は、人の助けになるんだぞ。お客さんにはみんな感謝されるんだから、」

と、苦しそうに話してくれましたが、父も言い難そうにしていたので、私も父の気持ちを察して、

「そうだね、ありがとう」とだけ言って寝床につきましたが、もっと聞いておけばよかったと思っています。

 

で、このことは何年も私の心の片隅に残っていて、私が質屋を継いだ後、昭和40年代の人名簿を探してみると、その変わった苗字と同じのお客さんがうちにきていたことがわかりました。

『あぁ、それで・・・』

確かに、その子のお父さんだか、お母さんが質屋を利用していたとして、それで生活が助かったとしても、娘としては親が某国の王様だったと知って受けるショックよりも辛いかもしれませんね。

 

だけど、親父が言うように、ご利用するお客さまが助かるのなら、やはり質屋は続けるべきだとは思うのです。一時的にでも金銭的に困った時に、同情してくれる友達はいても、お金は貸してくれないでしょうし。

それでも、質屋が忌み嫌われるのなら、勝手に忌み嫌っていればいい、質屋はご利用いただく人が助かるのなら、どう思われてもいいっていう強い意志が必要なんだ!ってことなのでしょうね。

 

この点、中学・高校に入学したら、親の職業で差別したりイジメをする生徒は一人もいませんでした。

やはり昨日、一昨日に書いたようなバブテスト派キリスト教の教えが響いているのか?横浜市内の大きな店のオーナーさんの、子息達が通う学校でしたから、「金持ち喧嘩しない」という原則と、「職業に貴賎なし」という倫理観を誰しもが持っていたからだと思います。

 

上に書いたように、経済が回れば質屋も必要とされ、忙しい日々が続きます。

今はどうかと言えば、昼間にこんな長文を書けるほど質屋は暇です。

新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言の中、国民の全てが旅行にも飲みにも行けない状態で、お金を使う事も少ないので、質屋は社会から必要とされていないのではないかと思うほどです。

 

この緊急事態は9月いっぱいで終了するとのことが今日ニュースで言われていました。

その際には、またご利用いただくお客様に対応できるよう、日々準備している最中です。