質流れの判断.1 | あなぐまの下町質屋ブログ

あなぐまの下町質屋ブログ

横浜の下町、弘明寺で創業65年の質屋を継いでいる
「あなぐま」です。
『質屋ってどんな人がやってるの?』という疑問にお答えするため、日々の業務や日常、趣味、質屋の裏側、クルマやバイクの話題を書き綴ります。
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令和元年の台風15号は、横浜では9月8日夜からバケツをひっくり返したような大雨が断続的に降り始め、夜半過ぎには防風雨圏に入り、午前3時ごろには鉄骨造りの3階建ての我が家も揺れるほどの強い風が吹き荒れました。

 

それでも近所の川が氾濫することもなく、ホッとして月曜日のゴミ出しに行ったら、大岡川沿いの桜並木があちらこちらで折れて、道を塞いでいるところもあるくらいでした。

六ッ川から降りてきた知人に聞くと、あちらの山の上はずっと停電だったとの事で、京急弘明寺駅そばの食品スーパーも停電のために営業停止になっていたとのこと。

テレビのニュースを見ると被害は広範囲にわたり、この日は朝から首都圏のJR及び私鉄各線が始発から運休したために、各地のターミナル駅は駅に入れない通勤通学客で溢れていたとの事。

 

ちょうど、この日は古物市場だったのです。

 

毎月、質でお預かりした品物の中で、流質期限が過ぎてしまった品物について、これはお客様がご不要になったものと推測して、流質の処理にし、品物はセリにかけて売却処分をする日でした。

 

当店でも前日に流質期限が過ぎた品物をピックアップして、書類上の流質処理をしなければいけないのですが、それがなんともする気がしなかったのでした。

 

質屋の仕組みについてもう一度説明すると。

  お客様が質屋に品物をお持ちになって、質屋はその品物を幾らで売れるかを査定して、

  査定した金額を、お客様にお貸しします。

  お客様は、その品物が必要な場合は、お借りした金額と共に、1ヶ月単位で決められた質料

  (質利息)をお持ちになれば、お品物をお返しいたします。

  お客様が、その品物をいらない場合は、何もしなくても入質した日から3ヶ月経てば、

  取り戻すことは出来なくなりますが、初めにお貸しした金額を返す必要はございません。

  質屋はお預りした品物を売却することで、返していただけなかった金額を補填するので良いのです。

 

お客様が入質された日から3ヶ月目が、お客様が受け戻すことができる期限なのですが、

その日が都合悪い場合もあります。中には忘れてしまった人もいらっしゃるでしょう。

ですから、当店では流質期限が過ぎたからと言ってすぐには流すことはしないのですが、

その兼ね合いが難しいのです。

 

金融ではないので、こちらから連絡することは原則としてできません。

連絡をしたら、それは催促となってしまいますから。

 

そう考えたら、全然流せなくて、現在は金の値段が高いので、

売却すれば利益が出そうなものの、やはりお客様の大切な品物かと思うと簡単には流せませんでした。

 

というわけで、市場当日になったのですが、台風の爪痕は時が過ぎ情報が入ってくるごとに酷くなります。私はこんも古物市場の役員をやっていますが、県央部から通ってきてくれるスタッフが小田急線が動かない、相鉄線が不通、唯一動いている市営地下鉄は大混雑で、各駅で入場規制をしているという状況で、その日来るはずだった訪問看護の看護師さんも道が大渋滞で1時間以上遅れてくる始末。

 

これでは市場どころではない、市場にいらっしゃる買い手の業者さんは殆どが東京都内からおいでになるので、この状況ではまともなセリが出来ないだろう、品物を流さなくて正解だったかとも思っていました。

 

私も地下鉄がそういう状況だったので、バイクで市場に向かいましたが、裏道までクルマが数珠繋ぎをして、これなら渋滞中とはいえ広い国道のクルマの列の脇をすり抜けた方が速いと思ってそうしました。

市場についてみると、案の定、買い手の業者さんは誰も来ていなく、

 

ところが、ここが横質会市場の凄いところで、こんな状況なのに、開始時間を1時間遅らせたところ、かいても売り手もやってくるのですよね。

杉並から4時間かけて車で来た買手さんや、小田原からすし詰め状態の電車でやってきた売り手の質屋さん、午後二時にはいつものメンバーで、いつも通りセリを開始することが出来たのです。

皆さん、この日の混雑状況を笑って話しながら、せっかく来たのだからといつも以上の高値で落札してくれていました。

 

あ~~、あ、うちも持ってくればよかったな。と反省したことはもちろんですが、

何より、流質処分をためらってしまったことに問題があります。

 

大●屋のような大きな質屋なら、流質期限がきた品物は機械的に流質処分をして、売却してしまうのでしょうけど、品物の裏にお客様の顔が見える私の店のような小さな質屋は悩むばかりです。