デジタルオーディオケーブルで音に違いが出る!なんて話はよく聞く。以前にも取り上げた。

オーディオケーブルの影響の考察というよりは妄想

今回はジッターという観点で、コアキシャルケーブルと光ファイバーとを比較してみることにした。
もっともこれに関しては定説があって「光よりも同軸の方がジッターが少なくて音が良い」となっている。で、本当にそうか?と確認してみることにした。
ただ手持ちの Analog Discovery では 10ns / sample が限界で、44.1KHz のサンプリングレートの場合のシリアルクロック 5.6448 MHz = 177 ns / clock を測定するには役不足だ、ということで 1ns / sample の USB デジタルオシロスコープを手に入れた。ただこのオシロスコープさすがに安くて機能が少ないので、ジッターを直接測定は出来ない。よって一旦 csv ファイルに波形を落としてゼロクロスの間隔をピックアップすることで、タイムインターバルアナライザのまねごとをしてみた。

波形取得はマランツの CD5001 のデジタル出力をコアキシャルケーブル + 75Ω のターミネーション抵抗を付けたものと、光出力をパーツとして販売されている光デジタル通信コネクタ(受信用)を手に入れて、そのデジタル出力を観測した。詳細は省く。
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結果だが、定説の通りの結果になった。

コアキシャル:0.55%
光ケーブル :1.10%


予防線を張って申し訳ないが、今手持ちの測定器の分解能と取得データ量からこの結果が妥当であるかどうかについては保証の限りではない。そもそも販売されている受信用の部品の性能や実装方法などは実験室レベルである。
まあ、それでも 2倍の値になっているので差はあるだろうといえそうな感じである。では、これが直接音に影響を与えるかというと別の話で、DAC のクロックはこのジッターを含んだデータから生成されるわけだが、信号ののクロックジッターへの反応の仕方は機器による。ちなみにジッターマージンは±50% であり、統計的にはいずれの伝送方法であってもデータエラーになることはない。これらについては別途説明しようと思う。

さて、かようなジッターを含んだコアキシャル伝送と光伝送だが実際にオーディオ信号として差が出るのか調べてみた。
ツールとしてはフリーソフトの WaveGeneWaveSpectra を用いた。
WaveGene を使って約(FFT を前提に周波数を調整している)100Hz、440Hz、500Hz、1KHz、2KHz。4.41KHz の信号を発生させて、Wave ファイルを作り、CD-R に焼いて CD5001 で再生させて音楽作成用の機器 SC-D70 のコアキシャル入力と光入力とを切り替えてアナログ信号を発生させて、SonicCell というこれも音楽作成用の機器にアナログ入力し、USB を経由して WaveSpectra で解析する、という方法を使った。
SonicCell の ADC は 44.1KHz / 24bit なので、アナログ信号の分析には事足りていると想定している。

無音の PC 内の Wave ファイルの再生は以下のように、50Hz の高調波いるようないないようなで、何もないといってよい。24bit ダイナミックレンジ約 140dB とはいかないようだが、もはや測定限界だろう。
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オリジナルの Wave ファイルの 100Hz はこうであった。
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ここからは CD-R の再生になる。

まず無信号の場合の SonicCell からのスペクトラムはこんな感じになった。
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なんとなく 50Hz とその倍数がブカブカしているかんじであろうか。24bit なので S / N としては 100dB 以上はあると見て良いというところだろう。

コアキシャルの 100Hz は以下のようになった。
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光伝送の 100Hz は以下のようになった。
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以下、歪み率の数値だけだがこんな感じである。
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ということで SC-D70 でデジタル-アナログ変換する場合はほとんど歪み率に差が出ているようには見えない。もちろん他の機器を使えば違う結果が出ても不思議はない。

いかがだろうか。これでジッターの多少の有無は音質に影響はない、などと断じるつもりはない。これはジッターを発生させている要因と、デジタル信号を受信する側の PLL という回路の設計の仕方によって変わるからである。ここの説明はかなり大変なので今回は省略する。

蛇足だが、ジッターというのは正規のタイミングに対して、入ってきたデータのタイミングのズレ時間の集合が正規分布していると見なした場合の標準偏差時間をクロック間隔時間で割ったものである。

個人的には確かに光伝送の方がジッターは多かったという結果だが、電気的に分離されたデータ伝送というのはノイズに強いので、光伝送の方を好んでいる。前に失敗をした「グランドループトラップ!に引っかかる!」などということもないからである。
いや、それを克服してこそ高級オーディオでしょう、というなら、そこまでやって光にすればもっと良いのでは?と問いかけてみたい。
だいたい最近の家庭向けインターネット回線は電気的有線ではなく、光がほとんどだと思うが、そのことからしても光伝送の方が安心だと直感的には思うのではないだろうか。
といっても、それは送信側がレーザのようなコヒーレントの良い発光源だとか、ケーブルがシングルモードだとか家庭用の光オーディオとは比較にならないぐらいの高性能なものを使っているからであって、LED とグラスファイバにフォトトランジスタを使っているレベルではそうはいかないと思う。
どこかの高級オーディオメーカが、本気出して光オーディオデータ転送システムを作ったら、なかなかのものが出来るのではないかと思うのだがどうだろうか。

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