CD や DVD、MO などの光ディスクは、製造上記録面に欠陥があったり取り扱いの中で表面に結構キズが出来たりと決して安心して使えるようなものでは実はなかったりする。もちろんこれらの影響を軽減してデータの保全性を高めるために、規格上ディスクの厚みが検討されたりエラー訂正能力を考慮したりしているし、設計的にも色々な工夫を入れたりする。前回は大ざっぱに触れてみたが今回はもう少し詳しく説明してみたい。
欠陥対応力(小さいもの)
これは信号 S / N に重畳されて、エラーになるようなものと考えていただきたい。再生信号はディスクの中の凹凸を検出していて、このサイズはミクロン単位のものだが、ディスク表面上では光ビームスポットは結構大きい。よって小さい傷や程度の軽い指紋はさほど大きなエラーにはならず、訂正出来ないなどということはない。ところが、前述のジッターとの関係でエラーになる二歩手前のものがこれらの欠陥でエラーに化けてしまうことが確率的に発生し、信号処理の都合上これが伝播して訂正出来ないエラーに発展することがある。よって S / N との抱き合わせで高倍速が相対的に不利になる。
欠陥対応力(大きいもの)
これは円周方向についたひっかき傷のようなものだと思っていただきたい。たとえば 1mm ぐらいのひっかき傷があったとして、これがトレースに影響を与えるのは実は低倍速の場合なのである。ひっかき傷などは傷の深さなどによっては妙な乱反射を起こし、トレース情報信号(トラッキング誤差信号)のように見えてしまうことがある。これがトラッキングサーボに対して応答可能な外乱として入ってきてしまい、トラックジャンプを引き起こして音飛びになることがある。
これを防ぐにはサーボの応答を遅くしていくというのがあるが、これをやってしまうと今度は追従しなくてはいけない振動や衝撃のような外乱に対する対応力が落ちるのである。
倍速が大きい場合は、ひっかき傷の周波数成分が上がるので、サーボ帯域外になりスルーしてくれるので何事もなかったようにトレースするのである。
ディスク歪み対応力
前述の大きい欠陥の対応力をそれなりに確保しようとすると、低倍速でもサーボ利得が不足したりすることがある。かといってサーボ帯域をむやみに広げることも出来ないので、高倍速だと本当にサーボ利得が不足することもある。一方ある程度高速回転していると、面ブレなどが浮力で抑えられるなどの現象があり、一概に高倍速不利とも云えない面があったりする。
この図はトラックサーボの伝達特性の一例だが、これを参考に以上の事情を説明してみる。

まず偏芯による外乱成分があり、通常はこれが一番大きい。成分としては 1 倍速内周で 550rpm だから、約 10Hz である。外周なら 4Hz ぐらいということになる。偏芯が仮に 0.1mm あったとしてデータが正常に読めるトラックデセンターの範囲が 0.01um(CD のトラックピッチは 1.5um から 1.6um)ならば、1000倍 = 60dB のサーボゲインが必要となる。倍速を上げるとこの周波数が上がる。
次に右側に行って、1mm ぐらいのキズがディスクにあったとする。そうすると線速 1.2m / s なので、キズの周波数は 1.2KHz ぐらいになる。サーボとしてはこのキズ成分に応答してしまったら逆にトラックが外れてしまうのである。よってここは華麗にスルーしたいのでサーボ帯域は 1 倍速ならば 1.2 KHz より狭くなくてはいけない。
こういった事情を鑑みて CD の規格書では確かサーボ帯域は 500Hz を推奨(あるいは標準サーボ帯域と書いてあったかも知れない)している。そうするとレンズアクチュエータの性能やらなにやらで、それ以外の外乱性能が決まってくる。たとえば外部振動が与えられたときにトラックハズレを起こさないためには、図の左側の三角形の領域が広くないといけない。
これらの関係を見ると倍速が低い場合はサーボ帯域を狭くしないといけないが、その分外部振動に対する三角形の領域が小さくなるというのが分かるだろうか。外部振動は倍速が上がったからといって変化するものではないので、倍速が低い方が不利になってしまうのである。
CD の出始めはもちろん 1 倍速で製品は出ていたから、サーボ帯域は狭めでその分振動耐力が小さかった。よってインシュレータを強力なものにしたり、がっちりとしたボディを持たせたりと機構部分に頼る設計になっていたのではないかと思う。
倍速が上がると偏芯成分の周波数は上がってしまうが、キズの周波数も上がるのでサーボ帯域を広く取ることが出来、そして振動周波数成分の三角形も左方向に伸びるので安定になるというわけだ。CD-ROM の構造なんかチャチなもんである。でも初代 CD プレーヤーよりもキズや外乱振動には強かったりする。もちろん上限というものもあって、アクチュエータの二次共振などは倍速とは無関係に部品で決まるから、その辺りの性能に左右される。倍速を上げれば今度は回転音(風切り音)が気になるので密閉対策も必要だろう。こういった要素技術のバランスを取って経済性と性能を同時に満たすようにするのが設計者の腕の見せ所、というわけだ。
もっとも 1 倍速再生信者もいるだろうから、それはそれで別に否定するものではない。
1 倍速 → サーボ帯域が狭い → 振動吸収性能が必要 → シャーシを重くする → インシュレータの性能を上げる → 全体的に大きくなる → 見た目に高級感が出る → 評論家が褒めてくれる → 音が良さそうに感じる → マニアが買ってくれる → そして都市伝説へ
(こんなこと書いていいのか?)
もちろんシャーシにお金を掛ければ、副次的効果は生まれると思うので良いことではないだろうか。
エラー訂正能力
これ意外だったのだが、資料として教えていただいた「日立評論」を読んで、CD-DA の場合はエラー訂正が可能であるにも関わらず行わないことがある、ということだ。この資料を読んでみると C2 エラーは四重訂正(エラーを4つまで訂正する)できるが、時間が間に合わないと三重で終わらせることもあるというようなことが書いてある。CD-ROM ではエラーが残っては困るから C3 でさらに訂正するので大丈夫とのことだが、CD-DA に対しては三重(重という言葉を使うと何度もやるに見えるが、どうやら単に3つという意味らしい)で補間処理してしまう、ということもあるようだ。そりゃあストリーミングなら訂正が間に合わないから補間というのも止むなしだが、データ再生でエラーを残したまま先に進むなどということはペリフェラルで「データ再現命!」で仕事をしてきた人間から見ると、信じられない発想である。まあ時期が時期だけに今はこういうことはないだろう。プロセッサの速度も上がっているし、できるはずの C2 訂正を残して補間移ることはめったにないとは思う。が、さすがに高倍速になると怪しくなるだろう。ここは推量なので資料をお持ちの方は教えていただけるとありがたい。
さてかなり乱暴に私の見解を書いてしまったが、それなりに裏は取ってある。ただし古い情報もあるし、技術的な性能はオーディオの価値とは必ずしも一致するものではないので、あくまでも参考程度に考えていただきたい。妙な都市伝説に振り回されない程度の知識と思ってもらえると幸いである。
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欠陥対応力(小さいもの)
これは信号 S / N に重畳されて、エラーになるようなものと考えていただきたい。再生信号はディスクの中の凹凸を検出していて、このサイズはミクロン単位のものだが、ディスク表面上では光ビームスポットは結構大きい。よって小さい傷や程度の軽い指紋はさほど大きなエラーにはならず、訂正出来ないなどということはない。ところが、前述のジッターとの関係でエラーになる二歩手前のものがこれらの欠陥でエラーに化けてしまうことが確率的に発生し、信号処理の都合上これが伝播して訂正出来ないエラーに発展することがある。よって S / N との抱き合わせで高倍速が相対的に不利になる。
欠陥対応力(大きいもの)
これは円周方向についたひっかき傷のようなものだと思っていただきたい。たとえば 1mm ぐらいのひっかき傷があったとして、これがトレースに影響を与えるのは実は低倍速の場合なのである。ひっかき傷などは傷の深さなどによっては妙な乱反射を起こし、トレース情報信号(トラッキング誤差信号)のように見えてしまうことがある。これがトラッキングサーボに対して応答可能な外乱として入ってきてしまい、トラックジャンプを引き起こして音飛びになることがある。
これを防ぐにはサーボの応答を遅くしていくというのがあるが、これをやってしまうと今度は追従しなくてはいけない振動や衝撃のような外乱に対する対応力が落ちるのである。
倍速が大きい場合は、ひっかき傷の周波数成分が上がるので、サーボ帯域外になりスルーしてくれるので何事もなかったようにトレースするのである。
ディスク歪み対応力
前述の大きい欠陥の対応力をそれなりに確保しようとすると、低倍速でもサーボ利得が不足したりすることがある。かといってサーボ帯域をむやみに広げることも出来ないので、高倍速だと本当にサーボ利得が不足することもある。一方ある程度高速回転していると、面ブレなどが浮力で抑えられるなどの現象があり、一概に高倍速不利とも云えない面があったりする。
この図はトラックサーボの伝達特性の一例だが、これを参考に以上の事情を説明してみる。

まず偏芯による外乱成分があり、通常はこれが一番大きい。成分としては 1 倍速内周で 550rpm だから、約 10Hz である。外周なら 4Hz ぐらいということになる。偏芯が仮に 0.1mm あったとしてデータが正常に読めるトラックデセンターの範囲が 0.01um(CD のトラックピッチは 1.5um から 1.6um)ならば、1000倍 = 60dB のサーボゲインが必要となる。倍速を上げるとこの周波数が上がる。
次に右側に行って、1mm ぐらいのキズがディスクにあったとする。そうすると線速 1.2m / s なので、キズの周波数は 1.2KHz ぐらいになる。サーボとしてはこのキズ成分に応答してしまったら逆にトラックが外れてしまうのである。よってここは華麗にスルーしたいのでサーボ帯域は 1 倍速ならば 1.2 KHz より狭くなくてはいけない。
こういった事情を鑑みて CD の規格書では確かサーボ帯域は 500Hz を推奨(あるいは標準サーボ帯域と書いてあったかも知れない)している。そうするとレンズアクチュエータの性能やらなにやらで、それ以外の外乱性能が決まってくる。たとえば外部振動が与えられたときにトラックハズレを起こさないためには、図の左側の三角形の領域が広くないといけない。
これらの関係を見ると倍速が低い場合はサーボ帯域を狭くしないといけないが、その分外部振動に対する三角形の領域が小さくなるというのが分かるだろうか。外部振動は倍速が上がったからといって変化するものではないので、倍速が低い方が不利になってしまうのである。
CD の出始めはもちろん 1 倍速で製品は出ていたから、サーボ帯域は狭めでその分振動耐力が小さかった。よってインシュレータを強力なものにしたり、がっちりとしたボディを持たせたりと機構部分に頼る設計になっていたのではないかと思う。
倍速が上がると偏芯成分の周波数は上がってしまうが、キズの周波数も上がるのでサーボ帯域を広く取ることが出来、そして振動周波数成分の三角形も左方向に伸びるので安定になるというわけだ。CD-ROM の構造なんかチャチなもんである。でも初代 CD プレーヤーよりもキズや外乱振動には強かったりする。もちろん上限というものもあって、アクチュエータの二次共振などは倍速とは無関係に部品で決まるから、その辺りの性能に左右される。倍速を上げれば今度は回転音(風切り音)が気になるので密閉対策も必要だろう。こういった要素技術のバランスを取って経済性と性能を同時に満たすようにするのが設計者の腕の見せ所、というわけだ。
もっとも 1 倍速再生信者もいるだろうから、それはそれで別に否定するものではない。
1 倍速 → サーボ帯域が狭い → 振動吸収性能が必要 → シャーシを重くする → インシュレータの性能を上げる → 全体的に大きくなる → 見た目に高級感が出る → 評論家が褒めてくれる → 音が良さそうに感じる → マニアが買ってくれる → そして都市伝説へ
(こんなこと書いていいのか?)
もちろんシャーシにお金を掛ければ、副次的効果は生まれると思うので良いことではないだろうか。
エラー訂正能力
これ意外だったのだが、資料として教えていただいた「日立評論」を読んで、CD-DA の場合はエラー訂正が可能であるにも関わらず行わないことがある、ということだ。この資料を読んでみると C2 エラーは四重訂正(エラーを4つまで訂正する)できるが、時間が間に合わないと三重で終わらせることもあるというようなことが書いてある。CD-ROM ではエラーが残っては困るから C3 でさらに訂正するので大丈夫とのことだが、CD-DA に対しては三重(重という言葉を使うと何度もやるに見えるが、どうやら単に3つという意味らしい)で補間処理してしまう、ということもあるようだ。そりゃあストリーミングなら訂正が間に合わないから補間というのも止むなしだが、データ再生でエラーを残したまま先に進むなどということはペリフェラルで「データ再現命!」で仕事をしてきた人間から見ると、信じられない発想である。まあ時期が時期だけに今はこういうことはないだろう。プロセッサの速度も上がっているし、できるはずの C2 訂正を残して補間移ることはめったにないとは思う。が、さすがに高倍速になると怪しくなるだろう。ここは推量なので資料をお持ちの方は教えていただけるとありがたい。
さてかなり乱暴に私の見解を書いてしまったが、それなりに裏は取ってある。ただし古い情報もあるし、技術的な性能はオーディオの価値とは必ずしも一致するものではないので、あくまでも参考程度に考えていただきたい。妙な都市伝説に振り回されない程度の知識と思ってもらえると幸いである。

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