話が「リッピングで音が変わる」でちょっと盛り上がってしまったため脱線してしまったが、そもそも私が問題視したのは、P 社のようなリッピング中にデータエラーが出ても転送してしまうことだった。これ自体は自分的には許しがたいことであるが、時代背景を考えるともしかしたらこういう開発選択をしてしまうかもしれない、ということもありえそうだ。さらに脱線するが少し P 社の言い分を忖度してみたい。あくまでも妄想なので話半分で読んでいただきたい。
Windows 95 が登場する前後、PC には CD-ROM ドライブが標準搭載になりつつあった。当時はまだ倍速と云っても 2 倍速程度で、ちょっと先進的なもので 4 倍速ぐらいであった。そもそも Windows 95 をインストールするのに CD-ROM が必要で(FD だと 30枚以上必要だった)、その倍速次第でインストール時間が短縮出来るので、何かと再インストールが必要だった Windows を扱う以上 CD-ROM の倍速アップはユーザにとっても大きなメリットだった。
また Sound Blaster なるものも登場していて、そこにはアナログオーディオ信号の入力端子があり、CD-ROM からも CD 再生時のオーディオ信号を受けて PC 接続のスピーカを鳴らすといった機能も標準仕様になっていた。
一方 Work Station などに搭載された CD-ROM は操作者が仕事の合間に音楽を聴いたりしていたらしく、ヘッドフォンも CD-ROM ドライブとしては必須で、ものによっては CDP のようなプレイボタン、送り戻しボタンが付いているのもあったりした。
PC の CPU は Pentium の登場からどんどん高性能化していったが、と同時に PC のメイン性能だけでは差別化が難しい時期にほどなく突入する。PC メーカの中にはカスタマサポートの充実に走る会社もあれば、プレインストールアプリで差別化しようとかいうのもあった。この中でハード的に分かりやすいのが HDD の容量、メモリのサイズと CD-ROMドライブの倍速だったのである。
CD-ROM の倍速競争は 6x → 10x → 12x → 24x CAV → 32x CAV と激化していくのだが、同じような時期に粗悪ディスクが世の中に出回り出す。特にアジア系で作られる Video CD やマイナーブランドの CD-DA などは「ドライブ設計者に挑戦状を突きつけているのか!」と云いたくなるような想像を絶するような粗悪っぷりであった。一方ディズニーブランドからはミッキーマウスの形をした(円盤に耳が付いている)ディスクも登場、また CD-Rなどが出始めたこともあって名刺サイズの小型ディスク(長方形である)も参入してきた。さらにご丁寧なことに PC メーカが PC にバンドルする FD と CD-ROM と取扱説明書をラップでぐるぐる巻きにして同梱するものだから、CD-ROM ディスクは反ってしまう(スーパーポテチディスクと呼ばれていた)という背中から打つようなものも現れた。
これらの粗悪ディスクと倍速競争が同時期に存在したものだから、PC メーカは折角採用した CD-ROM ドライブが一時期クレームだらけになっていたようだ。そこで PC メーカの品質保証、受け入れ担当者は自己防衛のために、「仕様に書いてある最高倍速ですべてのディスクが再生出来ること」などという鬼畜きわまりない要求をドライブメーカに突きつけることになる。悲惨なのはドライブ設計者で泣きながら上述のような粗悪ディスクと戦うことになった。といったって勝ち目など有るわけない。何しろ何が出てくるのか分からないのだから。設計者は評価期間中客先に貼り付いて、来るディスク来るディスクちぎっては投げ(比喩ではなく本当にそうしたい気持ちだったろう)ちぎっては投げと問題を片付けていったのである。
結局のところ当時のトレンドとして、PC メーカが持っている曰く付きディスクを評価時に貸してもらい、そのディスクに対して最高倍速で再生出来れば、それ以上に粗悪なものに関しては倍速を落としてでも再生出来ればよし、という辺りに落としどころを見いだすようになる。それでも「だが別のメーカはこれでもかかるぞ」と云われるとまた一汗かかなくてはならなかったようである。
背景説明が長くなってしまったが、PC に OEM 搭載されれば規模はでかい。よってなんとしても評価担当者に OK をもらわなくてはいけない。評価担当者もそれぞれ自分の持っているこのディスクがかかればたいてい大丈夫、といったノウハウも持っており、そのディスクを攻略するのがビジネスにつながるというわけだ。
で、P 社ドライブの立場で考えると、例えば 40x とか 50x ドライブです、と売り込んでも、担当者のディスクをその倍速で再生しなくてはいけないということになるわけだが、これが CD-DA だったのではないかと想像する。CD-ROM ディスクは C1、C2 のエラー訂正機能の後工程に C3 エラー訂正機能を持っており、CD-DA で云うところの C2 エラー~補間操作が行われるようなデータに対しても一応の訂正能力を持っているので、なんとか倍速を落とさずに再生出来る可能性はあるが、CD-DA だとまともな仕様ならデータエラーまたは倍速を落としてしまうので、これでは評価が NG になる。そこで CD-DA で C2 エラーが発生してもスルーしてデータを転送するという仕様にした可能性がある。というのが私の想像である。転送速度テストはデータの検証なんかしていないだろう。
少々細かい話になるが、倍速の増大に伴って信号の S / N は劣化する。評価担当者のディスクがきちっと管理されていれば良いが、実際に使っている間に細かい傷も入ってくる。これを高倍速再生すると S / N の劣化プラス傷による信号歪みでエラーが多発する恐れは十分にある(さらに細かい話をしないと正確には説明出来ない)。
倍速を下げればリスクはぐっと低下する。
倍速競争と粗悪ディスクそして PC メーカや世間の無理解。この凶悪コンボにより光ディスクドライブのあり方が強烈に歪められて今に至っているのではないか、奇妙な都市伝説が生まれているのではないかと思う。
だいたい CD-ROM / DVD-ROM からの読み出しを速くしたいんだったら、読み取りシーケンスを改善する方が圧倒的に有効である。インストール、データ転送を経験している人なら知っていると思うが、とにかく「キュッキュッ」と凄いアクセス頻度である。ディスクのファイルシステムにあったデータ読み取り方を工夫すれば、無茶な倍速にしなくても十分速くデータ転送出来るはずなのだ。そういったツールもあるようだが、自分は試したことがないので効果は分からない。
自分が知っている業界だから腹立たしい思いで振り返っているが、多くの業界でも同じような歪められた理解と誤った方向性を持ってしまい、いらぬ苦労が技術者を悩ませているのではないかと思う。まあいらぬ苦労なのかどうかの判断もその場では難しいだろうが。
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Windows 95 が登場する前後、PC には CD-ROM ドライブが標準搭載になりつつあった。当時はまだ倍速と云っても 2 倍速程度で、ちょっと先進的なもので 4 倍速ぐらいであった。そもそも Windows 95 をインストールするのに CD-ROM が必要で(FD だと 30枚以上必要だった)、その倍速次第でインストール時間が短縮出来るので、何かと再インストールが必要だった Windows を扱う以上 CD-ROM の倍速アップはユーザにとっても大きなメリットだった。
また Sound Blaster なるものも登場していて、そこにはアナログオーディオ信号の入力端子があり、CD-ROM からも CD 再生時のオーディオ信号を受けて PC 接続のスピーカを鳴らすといった機能も標準仕様になっていた。
一方 Work Station などに搭載された CD-ROM は操作者が仕事の合間に音楽を聴いたりしていたらしく、ヘッドフォンも CD-ROM ドライブとしては必須で、ものによっては CDP のようなプレイボタン、送り戻しボタンが付いているのもあったりした。
PC の CPU は Pentium の登場からどんどん高性能化していったが、と同時に PC のメイン性能だけでは差別化が難しい時期にほどなく突入する。PC メーカの中にはカスタマサポートの充実に走る会社もあれば、プレインストールアプリで差別化しようとかいうのもあった。この中でハード的に分かりやすいのが HDD の容量、メモリのサイズと CD-ROMドライブの倍速だったのである。
CD-ROM の倍速競争は 6x → 10x → 12x → 24x CAV → 32x CAV と激化していくのだが、同じような時期に粗悪ディスクが世の中に出回り出す。特にアジア系で作られる Video CD やマイナーブランドの CD-DA などは「ドライブ設計者に挑戦状を突きつけているのか!」と云いたくなるような想像を絶するような粗悪っぷりであった。一方ディズニーブランドからはミッキーマウスの形をした(円盤に耳が付いている)ディスクも登場、また CD-Rなどが出始めたこともあって名刺サイズの小型ディスク(長方形である)も参入してきた。さらにご丁寧なことに PC メーカが PC にバンドルする FD と CD-ROM と取扱説明書をラップでぐるぐる巻きにして同梱するものだから、CD-ROM ディスクは反ってしまう(スーパーポテチディスクと呼ばれていた)という背中から打つようなものも現れた。
これらの粗悪ディスクと倍速競争が同時期に存在したものだから、PC メーカは折角採用した CD-ROM ドライブが一時期クレームだらけになっていたようだ。そこで PC メーカの品質保証、受け入れ担当者は自己防衛のために、「仕様に書いてある最高倍速ですべてのディスクが再生出来ること」などという鬼畜きわまりない要求をドライブメーカに突きつけることになる。悲惨なのはドライブ設計者で泣きながら上述のような粗悪ディスクと戦うことになった。といったって勝ち目など有るわけない。何しろ何が出てくるのか分からないのだから。設計者は評価期間中客先に貼り付いて、来るディスク来るディスクちぎっては投げ(比喩ではなく本当にそうしたい気持ちだったろう)ちぎっては投げと問題を片付けていったのである。
結局のところ当時のトレンドとして、PC メーカが持っている曰く付きディスクを評価時に貸してもらい、そのディスクに対して最高倍速で再生出来れば、それ以上に粗悪なものに関しては倍速を落としてでも再生出来ればよし、という辺りに落としどころを見いだすようになる。それでも「だが別のメーカはこれでもかかるぞ」と云われるとまた一汗かかなくてはならなかったようである。
背景説明が長くなってしまったが、PC に OEM 搭載されれば規模はでかい。よってなんとしても評価担当者に OK をもらわなくてはいけない。評価担当者もそれぞれ自分の持っているこのディスクがかかればたいてい大丈夫、といったノウハウも持っており、そのディスクを攻略するのがビジネスにつながるというわけだ。
で、P 社ドライブの立場で考えると、例えば 40x とか 50x ドライブです、と売り込んでも、担当者のディスクをその倍速で再生しなくてはいけないということになるわけだが、これが CD-DA だったのではないかと想像する。CD-ROM ディスクは C1、C2 のエラー訂正機能の後工程に C3 エラー訂正機能を持っており、CD-DA で云うところの C2 エラー~補間操作が行われるようなデータに対しても一応の訂正能力を持っているので、なんとか倍速を落とさずに再生出来る可能性はあるが、CD-DA だとまともな仕様ならデータエラーまたは倍速を落としてしまうので、これでは評価が NG になる。そこで CD-DA で C2 エラーが発生してもスルーしてデータを転送するという仕様にした可能性がある。というのが私の想像である。転送速度テストはデータの検証なんかしていないだろう。
少々細かい話になるが、倍速の増大に伴って信号の S / N は劣化する。評価担当者のディスクがきちっと管理されていれば良いが、実際に使っている間に細かい傷も入ってくる。これを高倍速再生すると S / N の劣化プラス傷による信号歪みでエラーが多発する恐れは十分にある(さらに細かい話をしないと正確には説明出来ない)。
倍速を下げればリスクはぐっと低下する。
倍速競争と粗悪ディスクそして PC メーカや世間の無理解。この凶悪コンボにより光ディスクドライブのあり方が強烈に歪められて今に至っているのではないか、奇妙な都市伝説が生まれているのではないかと思う。
だいたい CD-ROM / DVD-ROM からの読み出しを速くしたいんだったら、読み取りシーケンスを改善する方が圧倒的に有効である。インストール、データ転送を経験している人なら知っていると思うが、とにかく「キュッキュッ」と凄いアクセス頻度である。ディスクのファイルシステムにあったデータ読み取り方を工夫すれば、無茶な倍速にしなくても十分速くデータ転送出来るはずなのだ。そういったツールもあるようだが、自分は試したことがないので効果は分からない。
自分が知っている業界だから腹立たしい思いで振り返っているが、多くの業界でも同じような歪められた理解と誤った方向性を持ってしまい、いらぬ苦労が技術者を悩ませているのではないかと思う。まあいらぬ苦労なのかどうかの判断もその場では難しいだろうが。

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