前回はインピーダンスマッチングの必要性その二つ目ということで、場の境界面で起こる反射と歪みの関係について考えてみた。これらが本当にオーディオの世界で起きるのであれば、音質の劣化があっても不思議ではない。そこで数値を確認してみたい。
ケーブルの中を通る電気信号の速度は下の記事で書いたように、電子の移動速度で決まるのではなく電磁場の移動速度で決まるということだが、これにケーブルのどのパラメータが支配的なのかはちょっと見明言している記事は見つからなかった。予想としてはケーブル内の絶縁材の誘電率だが、どなたかご存知の方はご教示願いたい。
インピーダンスマッチングとは?(さらに続き)
ちなみにミリ波レーダの場合は電磁波が樹脂の中を通過していくので、真空中の光速を比誘電率の平方根で割った値になる。その際波長も短くなる、というわけだ。ケーブルの場合も同様だとすれば、絶縁材の比誘電率が関係すると思われるわけだが、そうはいってもありがちなプラスチック系なら大きくても 10 ぐらいだ。なのでその平方根と云うことで大きく見積もっても 3 ぐらい。よってケーブル内を移動する電流の速さは光速の三分の一ぐらい、遅く見ても 1 x 10 ^ 8 m / s である。
波長は(伝達速度)/(周波数)なので、20 Hz ~ 20KHz のオーディオ帯域のケーブル上の波長は 5000 Km ~5 Km となる。なのでよほどケーブルを伸ばさない限り、共振現象などは起きない。またインピーダンス不整合による反射が起きたとしても、3 m ぐらいのケーブルで往復 60 ns の遅延が送り出し側の出力端に重畳されることになるが、これは果たして影響があるのか、ということだ。まして、下のサイトで語られているようなスピーカケーブルの数センチの違いで「音の焦点」なるものが変わって、印象が変わるのかということだ。
伝送歪みが発生するのは、せいぜい 10MHz 以上での出来事で可聴帯域からみて、軽く 3桁は高い周波数での話である。
http://www.procable.jp/setting/28.html
これに対する私の見解は「あっても不思議ではない」としか云いようがない。
実際に試された方が多くいて、「変わった」という事実は否定しようがないのだ。よく言われる「音質は心理的なもの」といってしまえばそれまでだが、単なるものの交換ではなく(高級品にしたんだから悪いわけない)ケーブルの長さをカットアンドトライで追い込んで「良くなった」というのだから少なくとも当事者にとっては真実なのだろう。
上記のサイトでは「変わる!」ということは書いてあってもそれ以上の技術的な背景はほとんど語られていない。なので妄想になるがここで多少なりとも理由付けを考えてみる。
別のサイトでケーブルの長さについて考察していたが、どこだったか見当たらなくなったので記憶で書くと、そこではダンピングファクタが関係している、という主張だった。
前にも書いたようにメインアンプの出力インピーダンスは限りなくゼロに近い。だが実際にはそこからケーブルでスピーカにつなぐのだからケーブルのインピーダンスがダンピングファクタに影響している、よって数センチ、数ミリ単位で調整すると上述の「音の焦点」が合って劇的に音が良くなると書いてあった。確かに(スピーカのインピーダンス)/(駆動側のインピーダンス)がダンピングファクタだから、ただでさえ小さい分母側がちょっと大きくなるとダンピングファクタ自体の値は大きく変わる。またダンピングファクタでスピーカの制動が変わるのは事実であり、制動が少ないとスピーカの共振点での響きが大きくなるし、小さいと締まりすぎてつまらない音になるらしい。
大枠は賛同出来るが数値的にはどうだろう、というのが正直なところだ。ミリ単位でスピーカケーブルの抵抗値が変わったって知れているような気がするが。
ではさんざん説明してきた伝送歪みという観点ではどうだろうか。とりあえずアンプとケーブルとスピーカはインピーダンスマッチングはとっていない。よって何らかの歪みは発生するだろう、だがしかし周波数の桁が違う。確かにセンチ、ミリのオーダーで変化するなら高い周波数の話だ。言い換えると高い周波数ならセンチ、ミリのオーダーで反射の状態が変わり、上手く歪みが消失するポイントがあっても不思議ではない。
その高い周波数が可聴帯域に降臨してくる可能性はあるか?これまたあっても不思議ではない。私の推論は次の機会にするとして、体験を書いてみようと思う。
宣伝になってしまうがこれである。
http://www.combak.co.jp/enacom/ENACOM.html
ここに出てくるスピーカ用の部品を実は使っている。効果と云えばこれが絶大で、取り付けたら「え!」てなぐらいである。言葉にするのが難しいが、今まではスピーカのところから音が出てきているだけだったのが、空気が動いている、音が漂ってくる、というような印象に変わった。オーケストラものだったが。
これまた「自分で買ったのだから納得したいだけだろう!」と云われるかも知れないが、事実なので仕方がない。ちなみにオーディオには無頓着な家内がそんなことも知らずに部屋に来たら「あれ、音が変わった?何かした?」と云ったのだから、サンプル数 2 は間違いなくある。
ただし、ライン用の部品は効果が分からなかった。完売となっているから評判がイマイチだったのかも知れない。
ここでの宣伝文句は 0.5 Hz から 100MHz の広帯域で特性を改善する、ということだから先ほどのような桁の違う周波数でもその影響が除去されると音質が改善されるであろう、という妄想は当たらずといえども遠からず、だろうか。
もう一つの体験は、引っ越しをしてオーディオセットを引っ越し先にセッティングしたとき、開梱の都合でちょっと古いスピーカケーブル(一応それなりの値段)をとりあえず付けたらある楽曲でのエレピの音が特定の箇所(音域)で歪むという現象に出くわした。てっきり CD に傷が付いたか、と思いきやいつものスピーカケーブルに付け直したら直ったのでやはりケーブルやその周辺で何か可聴帯域に影響を及ぼす要素があるというのは実感している。
桁違いの周波数での出来事すらいつも「あっても不思議ではない」と片付けているが、実はちょっと気になることがないわけではない。
まずアンプの出力インピーダンスとそれによるダンピングファクタだが、通常はスピーカの共振点付近の周波数で見ている。だいたい 100 Hz 前後だろう。だが、アンプの出力インピーダンスはフラットではない。超低域と高域の方では高くなるはずである。これの度合いはアンプによっても異なるので、ダンピングファクタのフラットさ加減も変化するはずである。なのでアンプとスピーカの組み合わせの相性があってもおかしくはない。さらにマルチウェイのスピーカだと、ウーファー、スコーカー、ツイータのそれぞれに共振点があるのでアンプの出力インピーダンスの周波数特性によっては、低域ではダンピングファクタは大きいが高域では小さい、ということもありそうである。
もうひとつ付け加えると、ケーブルの比誘電率だがこれもものによっては実は周波数特性がある。なのでさずがに低域では違いが出ないだろうが、周波数によって伝達特性に差が出る可能性はある。
数値的な考察はしておかないとオカルト思考になってしまうが、カタログスペックを鵜呑みにすると、実態が見えなくなる恐れがあるので注意が必要なのである。
何か実験や測定が出来ればと思っているが、さすがに個人レベルでの環境では差を見つけるのは難しそうである。
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ケーブルの中を通る電気信号の速度は下の記事で書いたように、電子の移動速度で決まるのではなく電磁場の移動速度で決まるということだが、これにケーブルのどのパラメータが支配的なのかはちょっと見明言している記事は見つからなかった。予想としてはケーブル内の絶縁材の誘電率だが、どなたかご存知の方はご教示願いたい。
インピーダンスマッチングとは?(さらに続き)
ちなみにミリ波レーダの場合は電磁波が樹脂の中を通過していくので、真空中の光速を比誘電率の平方根で割った値になる。その際波長も短くなる、というわけだ。ケーブルの場合も同様だとすれば、絶縁材の比誘電率が関係すると思われるわけだが、そうはいってもありがちなプラスチック系なら大きくても 10 ぐらいだ。なのでその平方根と云うことで大きく見積もっても 3 ぐらい。よってケーブル内を移動する電流の速さは光速の三分の一ぐらい、遅く見ても 1 x 10 ^ 8 m / s である。
波長は(伝達速度)/(周波数)なので、20 Hz ~ 20KHz のオーディオ帯域のケーブル上の波長は 5000 Km ~5 Km となる。なのでよほどケーブルを伸ばさない限り、共振現象などは起きない。またインピーダンス不整合による反射が起きたとしても、3 m ぐらいのケーブルで往復 60 ns の遅延が送り出し側の出力端に重畳されることになるが、これは果たして影響があるのか、ということだ。まして、下のサイトで語られているようなスピーカケーブルの数センチの違いで「音の焦点」なるものが変わって、印象が変わるのかということだ。
伝送歪みが発生するのは、せいぜい 10MHz 以上での出来事で可聴帯域からみて、軽く 3桁は高い周波数での話である。
http://www.procable.jp/setting/28.html
これに対する私の見解は「あっても不思議ではない」としか云いようがない。
実際に試された方が多くいて、「変わった」という事実は否定しようがないのだ。よく言われる「音質は心理的なもの」といってしまえばそれまでだが、単なるものの交換ではなく(高級品にしたんだから悪いわけない)ケーブルの長さをカットアンドトライで追い込んで「良くなった」というのだから少なくとも当事者にとっては真実なのだろう。
上記のサイトでは「変わる!」ということは書いてあってもそれ以上の技術的な背景はほとんど語られていない。なので妄想になるがここで多少なりとも理由付けを考えてみる。
別のサイトでケーブルの長さについて考察していたが、どこだったか見当たらなくなったので記憶で書くと、そこではダンピングファクタが関係している、という主張だった。
前にも書いたようにメインアンプの出力インピーダンスは限りなくゼロに近い。だが実際にはそこからケーブルでスピーカにつなぐのだからケーブルのインピーダンスがダンピングファクタに影響している、よって数センチ、数ミリ単位で調整すると上述の「音の焦点」が合って劇的に音が良くなると書いてあった。確かに(スピーカのインピーダンス)/(駆動側のインピーダンス)がダンピングファクタだから、ただでさえ小さい分母側がちょっと大きくなるとダンピングファクタ自体の値は大きく変わる。またダンピングファクタでスピーカの制動が変わるのは事実であり、制動が少ないとスピーカの共振点での響きが大きくなるし、小さいと締まりすぎてつまらない音になるらしい。
大枠は賛同出来るが数値的にはどうだろう、というのが正直なところだ。ミリ単位でスピーカケーブルの抵抗値が変わったって知れているような気がするが。
ではさんざん説明してきた伝送歪みという観点ではどうだろうか。とりあえずアンプとケーブルとスピーカはインピーダンスマッチングはとっていない。よって何らかの歪みは発生するだろう、だがしかし周波数の桁が違う。確かにセンチ、ミリのオーダーで変化するなら高い周波数の話だ。言い換えると高い周波数ならセンチ、ミリのオーダーで反射の状態が変わり、上手く歪みが消失するポイントがあっても不思議ではない。
その高い周波数が可聴帯域に降臨してくる可能性はあるか?これまたあっても不思議ではない。私の推論は次の機会にするとして、体験を書いてみようと思う。
宣伝になってしまうがこれである。
http://www.combak.co.jp/enacom/ENACOM.html
ここに出てくるスピーカ用の部品を実は使っている。効果と云えばこれが絶大で、取り付けたら「え!」てなぐらいである。言葉にするのが難しいが、今まではスピーカのところから音が出てきているだけだったのが、空気が動いている、音が漂ってくる、というような印象に変わった。オーケストラものだったが。
これまた「自分で買ったのだから納得したいだけだろう!」と云われるかも知れないが、事実なので仕方がない。ちなみにオーディオには無頓着な家内がそんなことも知らずに部屋に来たら「あれ、音が変わった?何かした?」と云ったのだから、サンプル数 2 は間違いなくある。
ただし、ライン用の部品は効果が分からなかった。完売となっているから評判がイマイチだったのかも知れない。
ここでの宣伝文句は 0.5 Hz から 100MHz の広帯域で特性を改善する、ということだから先ほどのような桁の違う周波数でもその影響が除去されると音質が改善されるであろう、という妄想は当たらずといえども遠からず、だろうか。
もう一つの体験は、引っ越しをしてオーディオセットを引っ越し先にセッティングしたとき、開梱の都合でちょっと古いスピーカケーブル(一応それなりの値段)をとりあえず付けたらある楽曲でのエレピの音が特定の箇所(音域)で歪むという現象に出くわした。てっきり CD に傷が付いたか、と思いきやいつものスピーカケーブルに付け直したら直ったのでやはりケーブルやその周辺で何か可聴帯域に影響を及ぼす要素があるというのは実感している。
桁違いの周波数での出来事すらいつも「あっても不思議ではない」と片付けているが、実はちょっと気になることがないわけではない。
まずアンプの出力インピーダンスとそれによるダンピングファクタだが、通常はスピーカの共振点付近の周波数で見ている。だいたい 100 Hz 前後だろう。だが、アンプの出力インピーダンスはフラットではない。超低域と高域の方では高くなるはずである。これの度合いはアンプによっても異なるので、ダンピングファクタのフラットさ加減も変化するはずである。なのでアンプとスピーカの組み合わせの相性があってもおかしくはない。さらにマルチウェイのスピーカだと、ウーファー、スコーカー、ツイータのそれぞれに共振点があるのでアンプの出力インピーダンスの周波数特性によっては、低域ではダンピングファクタは大きいが高域では小さい、ということもありそうである。
もうひとつ付け加えると、ケーブルの比誘電率だがこれもものによっては実は周波数特性がある。なのでさずがに低域では違いが出ないだろうが、周波数によって伝達特性に差が出る可能性はある。
数値的な考察はしておかないとオカルト思考になってしまうが、カタログスペックを鵜呑みにすると、実態が見えなくなる恐れがあるので注意が必要なのである。
何か実験や測定が出来ればと思っているが、さすがに個人レベルでの環境では差を見つけるのは難しそうである。

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