電気エネルギーが電磁場の移動によって伝達されるという話から始まって、前回は電磁波が媒質内での伝わり方次第では反射、透過という現象が起きるというところまで来た。今回は大気中で狂喜乱舞する電磁波をアンテナで捉えて信号に変えていくということを考えてみる。

空間中には様様な周波数の電磁波=電波が飛び交っている。それぞれの電波は周波数が違うだけではなく、情報を伝達するために変調という行為が成されていて、それぞれが一つの周波数を持つのではなくある程度のバンド幅を持った信号になっている。

変調関連についてはブログの書き始めのころの粗い内容だが、ちょっと触れてある。読みづらいだろうが見てくれるとうれしい。

scilab でAM 変調をやってみる

デジタル伝送に挑戦!(scilab)

などなど。なおそんなに重要な前振りではないのであしからず。

さて、空間から特定の電波を捉えて電気信号に変える手段としてアンテナがある。これは詳しく説明し出すとボロが出るので、共振器という一言で片付けさせてもらう。前回のミリ波レーダでは樹脂媒体をミリ波が通過する際に厚みが適切だと 100% 透過になることがある、これは樹脂内で共振現象が起きるからである、という主旨のことを書いたがアンテナもこれと同じようなものである。ただアンテナを通過するのではなく電気信号に変換されるというところが違う。え?全然違うって...。
これまたバッサリと話をつけてしまうと、樹脂板の場合は共振させた後通過成分が最大になるようにしたが、アンテナの場合は樹脂板の表面に導体を貼って、共振した電波がその導体に電気エネルギーを励起させたようなもの、ということになる。もちろん樹脂板の表面を埋め尽くすと電波がそれ以降通過出来なくなって、共振用に貼り付けた後ろ側の導体に到達出来なくなってしまうから、網目状にしたり平面上に広げたりして、できるだけ効率よく電気エネルギーに変換したいということを行う。
ちなみに大気を分布定数線路と見なした場合の特性インピーダンスは約 377Ωである。これを迎え撃つアンテナは普通は分布定数線路と見なさないが違う特性インピーダンスを持つものにあたると考え、そこではインピーダンスアンマッチが起きて共振器を構成しアンテナに起電力が生じると云うことになる。
こんな解釈をしなくてもアンテナの話が理解出来る人は、スルーして構わないです。

アンテナ自体も特性インピーダンスを持っているようで、アンテナの種類にもよるが数十Ωぐらいになるようだ。アンテナで電気エネルギーに変換された信号はケーブルを伝わって送受信器に接続されるが、このケーブルは紛れもなく分布定数線路ということになる。
ここでお待ちかねのインピーダンスマッチングの必要性が登場する。
ケーブルの材質にもよるが、ケーブル内での信号の波長は(300 / f(MHz))m で実際はおそらくそれより短いと予想される(ケーブルの外皮の誘電率の影響を受けると想像している)ので、実設置条件におけるケーブルの長さの違いと波長が近くなってきているのである。たとえば地デジ放送は 300MHz より高い UHF 帯を使用しているので、波長は 1m 以下である。もしケーブル内で反射~共振の現象を起こさせようとすると、1m 以下の単位で現象が変わることになる。これは前回のミリ波レーダ 76GHz の話だと空間の波長は約 4mm で誘電率 2 ~ 3 ぐらいの樹脂の場合は 3mm ぐらいが 1 波長になるからその辺りを狙って、ボディの厚みを考慮すればよいということで管理出来る範囲に収まる。ところがアンテナから受信器までのケーブルの長さはそれぞれの家屋によっても違うし、集合住宅の場合はそれぞれの住居によって異なってしまうので「お宅の場合はケーブルの長さはこうです(キリ!」などといっても「アホか?」である。よって伝達経路に因らない伝達方法を使わなければならない。これがインピーダンスマッチングの必要性の二つ目である伝送歪みを抑える、となる。
アンテナの出力インピーダンスは数十Ωとしたが、なんとか上手く設計して 50Ωとなったなら(アンテナ自体の出力にインピーダンス変換器を入れたりする)ケーブルもそれに合わせて 50Ωの特性インピーダンスを持つものにする。さらに受信器の入力インピーダンスも 50Ωにする。受信器の入力インピーダンスはそれを受ける増幅器の入力インピーダンスの影響を受けるが、それを考慮して適当な受動素子(一般にはコイル、トランスなど)を入れることで設定出来る。こうすることでアンテナから受信器の入力までの伝達特性をほとんどの環境で同じようにできる。
で、そうすることで何が変わったのかというと受信端での反射が起きなくなる。アンテナや樹脂板の例ではインピーダンスアンマッチングを利用して特定の周波数の透過、変換効率を稼いだが、導体内での電気エネルギーの伝達がインピーダンスマッチングを行うことで反射~共振などの現象を避けることができて、歪みが少なくなり S / N が改善されるというわけだ。

理想伝達線路を使ってシミュレーションしてみる。
特性インピーダンス 50Ωで30m (伝播遅延 100ns)の線路があったとする。
これに対して、アンテナやその線路に信号を供給する回路の出力インピーダンスが 10Ω と 50Ω とあり、それぞれのケーブルの出力端でのインピーダンスが 100Ωと 50Ωとする。いうまでもなく後者の組み合わせがインピーダンスマッチングをとった状態である。
イメージ 1
これに 1MHz のパルスを入れて見た結果が以下のようになる。
イメージ 2
見ての通りインピーダンスマッチングをとっていない Vout1 にはその端で信号を反射しているため、ケーブルの入り口である Vt1 にその信号が現れている(オレンジ色の○と→)。さらにここでも反射が起きて終端に向かい、Vout1 をさらに歪ませているという現象が起きている。
これに対してインピーダンスマッチングをとった Vt2、Vout2 では振幅こそ半分になっているものの、そういった現象は出ていない。いわゆる無歪み伝送となる。

ここでは 3つの場がある。一つは入力信号を作っている電圧源である。これ自身の出力インピーダンスはゼロで、特性インピーダンスもゼロと云っていいのか分からないが、とにかく出したい出力電圧を無条件に出すことが出来、反射してきた信号があったってそれを吸収して出したい電圧を出せる。二つ目はケーブルでここでは特性インピーダンスは 50Ωである。三つ目は出力 Vout のさらに外にあってここでは無限大の入力インピーダンスを持っている。
前にも書いたように異なる特性インピーダンスを持つ場の境界では反射が起きる。従って上述の三つの場をそのままつなぐとまともな信号伝達は望めない。よって R3、R4 のような整合を取るための素子を追加して場同士の境界をなくしている。アンテナの例では出力インピーダンスが 50Ωになるようにアンテナを設計するし、受信側ではトランスなどを用いて当該周波数に対して 50Ωのインピーダンスになるようにしている。

前回、今回と電磁場のマッチ、ミスマッチによって起きる現象について、説明してみたがいかがだろうか。

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