このテーマのカテゴリは「オーディオ」にするか「アナログ回路」にするか「技術メモ」にするか悩んだが、割と身近に関係しそうなことが多い「オーディオ」ということにした。雑記レベルなのでどこでもいいといえばその通りなのだが。

「インピーダンスマッチングを取らなくてはいけない」、という言葉を聞くこともあると思う。で、私もそんなに詳しいわけではないがもしかしたら誤解をしている人もいるかも知れないので、とりあえず知っていることを書いてみたい。
インピーダンスマッチングを取る必要がある電気回路のケースとして、大きく二つある。一つは負荷への供給電力を最大にすること、二つ目は伝送経路の歪みを最小限に抑える、である。
私の知る限り通常のオーディオシステムで上記の二つの理由でインピーダンスマッチングを厳格に取る必要のある箇所はなさそうである。あくまでも可聴帯域および一般的なサイズのリスニングルームの範囲でである。

フロントエンドから順に考えてみる。
根っからのオーディオファンならアナログレコードプレーヤをお持ちかと思う。ちなみに私は CD 中心にシフトしたのでレコードは全部売ってしまった。誰も聞いてないか。さてレコードを再生するのに必要なのはまずピックアップカートリッジである。
通常は MM 型と呼ばれるムービングマグネットか MC 型と呼ばれるムービングコイルのものをお使いであろう。これらの信号検出方式はいずれも電磁誘導の原理を用いており、要は導体の中または周辺で磁束の変化が起きると導体に起電力が生じるという性質を用いている。起電力と書いたがファラデーの法則によると単位が(V)になっているので、起電圧というのが正しいのかも知れない。が、電圧というと負荷の影響を受けることの説明が難しくなるので電力といっておく方が誤解がないだろう。通常電圧源というと負荷に関係なく電圧を出力出来るものを指し、負荷の影響を受ける場合は理想電圧源に直列に内部抵抗を入れることで同等の性質を得られるようにモデル化する。この直列抵抗のことを出力インピーダンスと呼ぶ。ここの周波数特性は今は考えない。
いずれのタイプのピックアップカートリッジも針がレコードの溝をトレースすることで、電磁誘導によって電圧を発生させるがモデル的にはそれなりの直列抵抗を持っていると考えて良い。では、ピックアップカートリッジの出力を次のフォノイコライザ回路に伝えたいものは何か?これは電圧であって電力ではない。カートリッジが発電した起電力を最大限に次段に伝えたいのなら、カートリッジの出力インピーダンスに合わせてフォノイコライザの入力インピーダンスを設定する必要があるが、欲しいのは電圧である。なのでインピーダンスマッチングを取るのではなくてフォノイコライザの入力インピーダンスは無限大が望ましい。これだとロスが少なくなる。
周波数特性を無視したものをすごく大ざっぱな図で表すと以下のようになる。
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ここで左端の電圧源はカートリッジが発電する電圧 V である。R1 はカートリッジの出力インピーダンスで r としている。A1 はフォノイコライザの入力アンプを表しているが、それ自体の入力インピーダンスは無限大として、真の入力インピーダンスを R2 = R としている。見ての通りカートリッジが発電した電圧は R1 と R2 で分圧をしたものをアンプは受け取っていることになる。従って r はカートリッジによってすでに決まってしまっているのなら、R は大きければ大きいほどアンプが受け取る電圧は大きくなる。インピーダンスマッチングと取るなどといって、R = r と設定すると受け取る入力電圧が半分になってしまうことが分かるだろう。
ただし実際にはケーブル容量などの影響を受けるので、特に MM 型などは r が大きいため入力インピーダンスを大きくしすぎると、ケーブル容量と r の時定数で LPF と構成してしまうため、それを緩和するような値にしておく必要がある。上述の回路でいうと R に並列にコンデンサが入ったようなものだと思えば良い。こう考えるとフォノイコライザはレコードプレーヤのすぐ近くにおいて短いケーブルで接続し、入力インピーダンスは出来るだけ高くしておく方が、出力低下も少なく(S / N が良くなる)周波数特性の劣化も防ぐことができるという理屈になる。これは業務用ではむしろ普通の形態だったらしい。ならばそういう製品(独立したフォノイコライザアンプと短いケーブル)がマニア向けにもっとあってもおかしくはない。現在あるのは CD 普及でフォノイコライザなしのアンプが増えてきたから、プレイヤーに内蔵した、というものらしいが、その辺はよく分からない。

次はプリアンプとパワーアンプの接続や、CD プレイヤーとプリアンプとの接続などである。こちらはほとんど電圧を伝達するのが目的なのでインピーダンスマッチングは不要で、前段も電気回路で出力インピーダンスは非常に低いので、ケーブル容量の影響を本来なら受けづらい。もっとも実際にはショート~破壊防止のため、出力抵抗を 1KΩぐらい入れているようで、カタログなどをみても「プリアンプ出力インピーダンス:1KΩ」などと書いてあるものがあるくらいだ。なので、上述の r が 1KΩなのだから R は それよりも十分高ければ伝達ロスは少ない。ケーブル容量の影響は 1KΩとの関係で発生するので、よぼど長いケーブルでなければ高域の低下は起きないと原理的には云える。さらに後段の入力インピーダンスが高ければ高いほどケーブルに流れる電流は小さくなるので、ケーブルの太さの影響は少なくなる。ケーブルが細いと等価的に r が大きくなると云えるが、R が十分に大きければ影響はないということである。
といってもケーブル自体の構造や回りの絶縁体の性質などで電流の流れになにがしかのクセを持つらしい、ということはあっても不思議はないのである程度の投資も無駄ではないとは思う。そのうち測定などしてみようと思う。

パワーアンプとスピーカの接続だが、前に説明したようにパワーアンプの出力インピーダンスは限りなくゼロに近い。従ってインピーダンスマッチングという概念すらない。アンプのカタログを見てみると分かるように、4Ωのスピーカを接続した場合と 8Ωのスピーカを接続した場合で最大出力が異なっている。つまり電源も含めて回路がどんな負荷でも必要な電圧を端子に出すことが出来て、スピーカではその電圧に従って電流を流して電力を出すことができる、というわけだ。まあ可聴帯域では理想電圧源に近いと云っていいだろう。
ただプリアンプなどの接続と異なるのは、とにかく流れる電流が大きいのでスピーカケーブルの特性の影響を受けやすいというのは当然あり得る。ケーブルは理想導線ではないので、理想導線との差分が伝達歪みにつながるといえるだろう。今もあるのか知らないが、モノラルのパワーアンプが発売されていて左右それぞれのスピーカの近くにパワーアンプを置き、プリアンプからのケーブルが長くなってもいいからスピーカケーブルを限りなく短くするというコンセプトがあった。
インピーダンスマッチングとは直接関係ないが、フロントエンド、バックエンドのようなデリケートなものとの接続に主に気を配り、電気回路同士の接続は比較的管理しやすいので、理にかなった構成とは云える。

ここまでの話は通常のリスニングルームの範囲の話である。電気回路同士の接続とはいえ、可聴帯域の範囲とはいえケーブルが長くなると別の問題が発生し、インピーダンスマッチングの必要性が生じてくることがある。これは次の機会に考えてみたい。

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