オーディオシステムに興味を持っている人なら少なくともスピーカの口径は大きい方が低音が良く出る、迫力のある音が楽しめる、というのは当然のことだと思っているだろうし、実際に体験済みだと思う。で、音を聴くとはなんぞやというと、基本、音は耳で聞いているのだが、もちろん体で感じる部分もあって重低音などは体を空気が押して来る感じがあるし、たとえばコンサートホールで聴く演奏会音などは会場全体から体に響く音を感じているのだと思う。
通常のリビングでオーディオを楽しもうとすると以上のような理由からスピーカは大きなものを準備したくなるし、サブウーファも欲しくなるしと低音の再生欲求はますばかりである。ひところリスニングチェアとかいう体に直接音を響かせるような商品もあったような気がする。
体で感じる部分はちょっとおいておいて、耳で聴くというのはどういうことなんだろうかと調べてみると結構難解なようだ。
まず、音量=音圧ということから始めると、音はどうやら圧力らしい。鼓膜~神経への伝達がどういうカラクリで音を感じているのかは良くは知らないが、気圧の違いで耳が圧迫されていると感じるのだから、力によって鼓膜に変位を与えることでなにがしかの感覚をもつのは間違いないようである。鼓膜自体は質量が小さいので、バネマス系であっても共振周波数はかなり高いに違いない。ということは、力=変位=音量、と考えて良さそうだ。
バネマスというのは下図のようなバネとダッシュポットに接続された質点を含む系のことをいう。

さて、スピーカの話だが下のような周波数特性のグラフをカタログなどで見かけると思う。

横軸は周波数だから良いとして、縦軸はなんだ?まあ音量だろう、ということになるのだが、改めてスピーカの機構的な特性を考えるとあれ?と思う人もいるのではないだろうか。
スピーカの構造は下のようになっている。(引用元:http://diy-sound.net/archives/28)

つまり、振動板自体はマグネットとコイルで構成されているローレンツ力を応用したいわばボイスコイルモータで駆動されているようなもので、このままでは駆動した瞬間に真っ直ぐ前へ(後ろへ)飛んで行ってしまうし、重力の影響で下へ落ちてしまうし、ということでダンパーで支えた結果、アクチュエータのようなバネマス系となって大ざっぱに以下のような特性になる。

ここでは共振周波数を 70Hz としたが、上のスピーカの特性と比較するとなんだか変である。実はこのグラフは縦軸が変位であって、スピーカの特性の方は音量=音圧である。音圧と云うからには力であり、加速度に比例する。つまりこのグラフを二階微分して縦軸を加速度にしないといけない。これが次のグラフ。

これでスピーカの特性に似てきた。つまりスピーカ自体は流れている電流に対してアクチュエータ=バネマスと同じような特性で変位している。それに対して室内の空気を経由して、耳に対して圧力=加速度の変化を与えて音として感知させてくれていることになりそうだ。バネマスなので共振周波数というのがあり、それ以下の周波数では減衰することになる。なので低音を出したければ、スピーカの機構部分の共振周波数を下げれば良い。つまりバネ力を下げて質量を重くすると共振点が下がるので、口径を大きくするとコーンが同じ素材ならなら自動的に重くなって低音が出るようになる、ということだ。同時に口径が大きい方が少しの変位の変化で圧力の変化が生じるので、低音を出しやすいということにもなる。コーンを重くすれば共振周波数は下がるので口径が小さくても低音は出るようになるが、同じ加速度の変化を得るのに大きな変位が必要になるので、より大きな電力を投入しなくてはいけなくなる。部屋が狭ければ共振点が低い小型スピーカを選べば、それなりに低音が楽しめるが、ちょっと部屋が広くなると大きな口径でないと力不足になると考えて良い。
ちなみに上記のバネマス特性はわざと共振周波数のところで利得を持たせているが、これはローレンツ力の発生が電流によるものなので、それを素直にバネマス系への駆動電力にするとよほどダンピングが効いていない限り、ピークを持つ。このままだとそれこそ「ぼよ~ん」という響きになる。ところが良くしたもので、バネマス系の機構に対してコイルで駆動すると共振周波数のところでインピーダンスが高くなる。グラフの「IMPEDANCE」のラインを見て欲しい。70Hz ぐらいのところで値が大きくなっている。これは同じ振幅でスピーカに電圧を与えるとこの付近の周波数では電流が流れにくくなる=感度が落ちる、ということになって、ピークが抑えられることになる。従ってスピーカの周波数特性のような低い周波数に向かってなだらかに減衰するような特性になる。
良くスピーカとアンプのインピーダンスマッチングが必要、という文言を見かけるが、これは真空管アンプ時代のなごりであり、トランスを経由した電流駆動に近い真空管アンプだとそういうことになるが、トランジスタアンプの場合は深い負帰還を掛けて出力インピーダンスを限りなくゼロに近づけているのでインピーダンスマッチングという概念はない。この限りなくゼロに近い出力インピーダンスとスピーカの公称インピーダンス(たいていは共振周波数から少し高い周波数のところのもっとも低い値)との比をダンピングファクタと呼んでいる。この値が大きいほど共振点のインピーダンスの影響を受けてここでの電流が下がり、結果として低音の持ち上がりが抑えられる。逆の見方をするとダンピングファクタが低いアンプを使えば、共振点のところでの感度が相対的に上がるので音圧が上がったように感じると思われる。この辺りのカラクリをちゃんと説明しようとすると大変なことになりそうで、私自身も正確に説明出来る自信はないので興味を持たれた方は調べてみて下さい。ここでの内容が導入知識になれば幸いです。
以上の理屈だと共振点付近の響きをもっと出したいなら、スピーカに直列に抵抗を入れてダンピングファクタをわざと下げるという手もなくはないだろう。入れるとすれば数Ωだが当然エネルギーロスは増えるのでその分アンプのボリュームを上げることになる。手頃なアンプとスピーカがあったらやってみようと思う。ただし抵抗のワット数はそれなりに確保しておかないと、熱くなるので気をつけなくてはいけない。
結論として低音を出すには共振周波数の低いスピーカを選ぶ必要がある、それは部屋の広さに応じてそれなりの口径を選ばなくてはいけない、ということだが、ではヘッドフォン、インナーフォンの振動板は軽くて小さく共振周波数は高いはずなのにどうして低音が出るのか、という疑問が生じる。それらの答えは真面目に考えると複雑のようだが、簡単に言うと耳に近いから、である。先ほどの説明のように音量=音圧=加速度なので、スピーカの場合はコーンの動きが加速度に変わって部屋全体の音圧にも影響を与えながら耳に到達するが、ヘッドフォン、イヤフォンの場合は小さく閉じた空間なので振動板の変位の変化がそのまま鼓膜に加わる圧力の変化となり、低音も良く聞こえるということのようだ。加えてヘッドフォン、イヤフォンのボディの振動も直接頭へ加わるので、より良く聞こえるということになる。これもオープン型と密閉型では様子が異なるが、その特性も含めて全体の特性を設計していると云うことだろう。密閉型ヘッドフォンで低音がもこもこしていると感じたら、ちょっと耳から外すとヌケの良い音になったりするのでこの辺りの説明も理解出来るだろう。
ちょっと自分の専門から離れた話に終始してしまったので、間違い、思い込みがたくさんあると思います。
色々やさしく突っ込んでいただけると幸いです。
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通常のリビングでオーディオを楽しもうとすると以上のような理由からスピーカは大きなものを準備したくなるし、サブウーファも欲しくなるしと低音の再生欲求はますばかりである。ひところリスニングチェアとかいう体に直接音を響かせるような商品もあったような気がする。
体で感じる部分はちょっとおいておいて、耳で聴くというのはどういうことなんだろうかと調べてみると結構難解なようだ。
まず、音量=音圧ということから始めると、音はどうやら圧力らしい。鼓膜~神経への伝達がどういうカラクリで音を感じているのかは良くは知らないが、気圧の違いで耳が圧迫されていると感じるのだから、力によって鼓膜に変位を与えることでなにがしかの感覚をもつのは間違いないようである。鼓膜自体は質量が小さいので、バネマス系であっても共振周波数はかなり高いに違いない。ということは、力=変位=音量、と考えて良さそうだ。
バネマスというのは下図のようなバネとダッシュポットに接続された質点を含む系のことをいう。

さて、スピーカの話だが下のような周波数特性のグラフをカタログなどで見かけると思う。

横軸は周波数だから良いとして、縦軸はなんだ?まあ音量だろう、ということになるのだが、改めてスピーカの機構的な特性を考えるとあれ?と思う人もいるのではないだろうか。
スピーカの構造は下のようになっている。(引用元:http://diy-sound.net/archives/28)

つまり、振動板自体はマグネットとコイルで構成されているローレンツ力を応用したいわばボイスコイルモータで駆動されているようなもので、このままでは駆動した瞬間に真っ直ぐ前へ(後ろへ)飛んで行ってしまうし、重力の影響で下へ落ちてしまうし、ということでダンパーで支えた結果、アクチュエータのようなバネマス系となって大ざっぱに以下のような特性になる。

ここでは共振周波数を 70Hz としたが、上のスピーカの特性と比較するとなんだか変である。実はこのグラフは縦軸が変位であって、スピーカの特性の方は音量=音圧である。音圧と云うからには力であり、加速度に比例する。つまりこのグラフを二階微分して縦軸を加速度にしないといけない。これが次のグラフ。

これでスピーカの特性に似てきた。つまりスピーカ自体は流れている電流に対してアクチュエータ=バネマスと同じような特性で変位している。それに対して室内の空気を経由して、耳に対して圧力=加速度の変化を与えて音として感知させてくれていることになりそうだ。バネマスなので共振周波数というのがあり、それ以下の周波数では減衰することになる。なので低音を出したければ、スピーカの機構部分の共振周波数を下げれば良い。つまりバネ力を下げて質量を重くすると共振点が下がるので、口径を大きくするとコーンが同じ素材ならなら自動的に重くなって低音が出るようになる、ということだ。同時に口径が大きい方が少しの変位の変化で圧力の変化が生じるので、低音を出しやすいということにもなる。コーンを重くすれば共振周波数は下がるので口径が小さくても低音は出るようになるが、同じ加速度の変化を得るのに大きな変位が必要になるので、より大きな電力を投入しなくてはいけなくなる。部屋が狭ければ共振点が低い小型スピーカを選べば、それなりに低音が楽しめるが、ちょっと部屋が広くなると大きな口径でないと力不足になると考えて良い。
ちなみに上記のバネマス特性はわざと共振周波数のところで利得を持たせているが、これはローレンツ力の発生が電流によるものなので、それを素直にバネマス系への駆動電力にするとよほどダンピングが効いていない限り、ピークを持つ。このままだとそれこそ「ぼよ~ん」という響きになる。ところが良くしたもので、バネマス系の機構に対してコイルで駆動すると共振周波数のところでインピーダンスが高くなる。グラフの「IMPEDANCE」のラインを見て欲しい。70Hz ぐらいのところで値が大きくなっている。これは同じ振幅でスピーカに電圧を与えるとこの付近の周波数では電流が流れにくくなる=感度が落ちる、ということになって、ピークが抑えられることになる。従ってスピーカの周波数特性のような低い周波数に向かってなだらかに減衰するような特性になる。
良くスピーカとアンプのインピーダンスマッチングが必要、という文言を見かけるが、これは真空管アンプ時代のなごりであり、トランスを経由した電流駆動に近い真空管アンプだとそういうことになるが、トランジスタアンプの場合は深い負帰還を掛けて出力インピーダンスを限りなくゼロに近づけているのでインピーダンスマッチングという概念はない。この限りなくゼロに近い出力インピーダンスとスピーカの公称インピーダンス(たいていは共振周波数から少し高い周波数のところのもっとも低い値)との比をダンピングファクタと呼んでいる。この値が大きいほど共振点のインピーダンスの影響を受けてここでの電流が下がり、結果として低音の持ち上がりが抑えられる。逆の見方をするとダンピングファクタが低いアンプを使えば、共振点のところでの感度が相対的に上がるので音圧が上がったように感じると思われる。この辺りのカラクリをちゃんと説明しようとすると大変なことになりそうで、私自身も正確に説明出来る自信はないので興味を持たれた方は調べてみて下さい。ここでの内容が導入知識になれば幸いです。
以上の理屈だと共振点付近の響きをもっと出したいなら、スピーカに直列に抵抗を入れてダンピングファクタをわざと下げるという手もなくはないだろう。入れるとすれば数Ωだが当然エネルギーロスは増えるのでその分アンプのボリュームを上げることになる。手頃なアンプとスピーカがあったらやってみようと思う。ただし抵抗のワット数はそれなりに確保しておかないと、熱くなるので気をつけなくてはいけない。
結論として低音を出すには共振周波数の低いスピーカを選ぶ必要がある、それは部屋の広さに応じてそれなりの口径を選ばなくてはいけない、ということだが、ではヘッドフォン、インナーフォンの振動板は軽くて小さく共振周波数は高いはずなのにどうして低音が出るのか、という疑問が生じる。それらの答えは真面目に考えると複雑のようだが、簡単に言うと耳に近いから、である。先ほどの説明のように音量=音圧=加速度なので、スピーカの場合はコーンの動きが加速度に変わって部屋全体の音圧にも影響を与えながら耳に到達するが、ヘッドフォン、イヤフォンの場合は小さく閉じた空間なので振動板の変位の変化がそのまま鼓膜に加わる圧力の変化となり、低音も良く聞こえるということのようだ。加えてヘッドフォン、イヤフォンのボディの振動も直接頭へ加わるので、より良く聞こえるということになる。これもオープン型と密閉型では様子が異なるが、その特性も含めて全体の特性を設計していると云うことだろう。密閉型ヘッドフォンで低音がもこもこしていると感じたら、ちょっと耳から外すとヌケの良い音になったりするのでこの辺りの説明も理解出来るだろう。
ちょっと自分の専門から離れた話に終始してしまったので、間違い、思い込みがたくさんあると思います。
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