40 年近く昔の話である。
学生の頃、なんとか安いレシーバとスピーカとレコードプレイヤー、カセットデッキを手に入れてレコードを聴いて楽しんでいた。エアチェックなども結構していたと思う。FM レコパルという雑誌が主な音楽情報元だった。
結構オーディオブームだったので、時々電気屋というかオーディオショップに足を運んだり、オーディオフェアなどにも行ったりして「いい音だなぁ~。暗々音欲しいなぁ~」などと指をくわえてみていた時代である。
で、少しはいい音を自宅でも楽しみたいと云うことで写真のナポレックス製のコンデンサヘッドフォンを購入した。値段的にはコンデンサヘッドフォンにしてはまあ安い部類であろう。

音の方だがやはりマグネティックタイプとは違い、自然で繊細である。オープンタイプだったので圧迫感も少なく、頭の中で音が響いてしまう感じも少ないと思う。思い出補正が入っていると思うので、話半分で聞いてもらえれば結構である。
買った店は第一家庭電器だったような。名前を間違えていたら済みません。オーケストラが「ジャジャジャジャーン!」と演奏し「第 5 じゃない!」と指揮者が叫んで止めて、おそらく第 1 交響曲(当時第 1 番は聴いたことがなかったので分からない)の演奏に移るという CM でおなじみだった。とっくの昔になくなっているようだが。
で、これを買ったもう一つの動機はオマケが付いていたのである。それがこれ。

発泡スチロールで出来たバイノーラルレコーディング用のダミーヘッドである。本格的はダミーヘッドはとんでもない値段がするようだが、これはコンデンサマクロフォンが付いて、ヘッドフォンのオマケにつけられる程度のものだったようだ。さらにオマケとしてバイノーラルレコーディングされたサンプル LP も付いていた。
サンプル LP は音楽も入っていたと思うが、二人の女性アナウンサーかタレントかがダミーヘッドの回りで動き回りながらおしゃべりしたり、耳元でささやいたり(結構リアル。ちょっと刺激が強いかも)などして効果をアピールするものであった。
では折角高級品ではないにせよ手に入れたダミーヘッドを使って色々遊んでみよう、となって友人と共に部屋の中で LP を再生し、ダミーヘッドをリスニングポジションにおいて、カセットデッキで録音を始めた。なお場所は普通の鉄筋住宅の狭い部屋なので本格的なリスニングルームではないのであしからず。
ところが録音中に夕食時になり母が「ごはん、支度できたわよ~」と声を掛けてきたので、中断。
食事後、部屋に戻ってさっきのを聴いてみようと二人ともヘッドフォンをして録音したものを再生し始めた。
「お、なかなか臨場感あるじゃん」「普通に聴くより広さを感じるね」などと言い合いながら聴いていたら、突然「ごはん、支度できたわよ~」の母の声。え、何?またご飯?違う?二人で目を丸くして一瞬振り向き顔を見合わせ、その後に大笑いである。そう、録音を中断する前の母の声が録音されていて、それが非常にリアルにしかもヘッドフォンをしている人から見て方向感、距離感を感じるように聞こえたので本当に声を掛けられたように聞こえたのだ。
サンプル LP も聴いていたとはいえ、さほどオーディオにこだわりがなく予備知識のなかった友人はかなり驚いたようだ。
効果のほどは確認されたが、楽しんだのは少しの間。わざわざ LP を再生してダミーヘッドを使って録音してヘッドフォンで聴く、などというライフスタイルは存在せず、件のダミーヘッドも発泡スチロール製だったのでだんだん砕けてきてお終いとなった。まだヘッドフォンステレオ:ウォークマンが発売される前だったので、需要もなかったのだろう。あってもわざわざ自宅リスニングルームで LP を再生してまったく雑音の入らない状態を維持しながらカセットに落とす、などということは至難の業だから使う人もいなかったと思う。
今だったらどうかな。メガネ型の小型カメラと耳のところにつけた小型マイクで何かの映像を収録してコンテンツ化し、ヘッドフォンとモニタ画面で再生すると自分がコンテンツの主人公のように感じるようなものができそうだし、すでにあるのかもしれない。
ちなみに当時も云われていたし自分の印象もそうだったが、バイノーラル音声は後方には方向感、距離感共に非常にリアルだが、前方の再現性が弱かった。頭の中でなっているという感じは薄らいでいるが、前方の距離感はもう一つだったと思う。
臨場感の再生という課題はオーディオにつきまとっているような気がして、一時は DSP を使って「カーネギーホールの響きを再現!」といった製品も出ていたようだが、そもそもスピーカが前方にしかないのでは無理なような気がする。かといって 5.1ch は映画などでの効果音としての使い方ばかりが目に付く。
一時期 4ch ヘッドフォンというのもあったようだ。ドルビーサラウンドシステムとの組み合わせで臨場感を味わえるようであるが、あまり一般化しなかったようである。バイノーラルレコーディングと 4ch ヘッドフォンの組み合わせでもう少し前方の臨場感を改善出来ないのかな、と思うのであるがどうなんだろう。昔と違ってデジタル処理でバイノーラル効果を作り出せそうな気がするのだが。
そしてこれらの話は「原音って何?」に行き着いたりするので面倒なことになる。
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学生の頃、なんとか安いレシーバとスピーカとレコードプレイヤー、カセットデッキを手に入れてレコードを聴いて楽しんでいた。エアチェックなども結構していたと思う。FM レコパルという雑誌が主な音楽情報元だった。
結構オーディオブームだったので、時々電気屋というかオーディオショップに足を運んだり、オーディオフェアなどにも行ったりして「いい音だなぁ~。暗々音欲しいなぁ~」などと指をくわえてみていた時代である。
で、少しはいい音を自宅でも楽しみたいと云うことで写真のナポレックス製のコンデンサヘッドフォンを購入した。値段的にはコンデンサヘッドフォンにしてはまあ安い部類であろう。

音の方だがやはりマグネティックタイプとは違い、自然で繊細である。オープンタイプだったので圧迫感も少なく、頭の中で音が響いてしまう感じも少ないと思う。思い出補正が入っていると思うので、話半分で聞いてもらえれば結構である。
買った店は第一家庭電器だったような。名前を間違えていたら済みません。オーケストラが「ジャジャジャジャーン!」と演奏し「第 5 じゃない!」と指揮者が叫んで止めて、おそらく第 1 交響曲(当時第 1 番は聴いたことがなかったので分からない)の演奏に移るという CM でおなじみだった。とっくの昔になくなっているようだが。
で、これを買ったもう一つの動機はオマケが付いていたのである。それがこれ。

発泡スチロールで出来たバイノーラルレコーディング用のダミーヘッドである。本格的はダミーヘッドはとんでもない値段がするようだが、これはコンデンサマクロフォンが付いて、ヘッドフォンのオマケにつけられる程度のものだったようだ。さらにオマケとしてバイノーラルレコーディングされたサンプル LP も付いていた。
サンプル LP は音楽も入っていたと思うが、二人の女性アナウンサーかタレントかがダミーヘッドの回りで動き回りながらおしゃべりしたり、耳元でささやいたり(結構リアル。ちょっと刺激が強いかも)などして効果をアピールするものであった。
では折角高級品ではないにせよ手に入れたダミーヘッドを使って色々遊んでみよう、となって友人と共に部屋の中で LP を再生し、ダミーヘッドをリスニングポジションにおいて、カセットデッキで録音を始めた。なお場所は普通の鉄筋住宅の狭い部屋なので本格的なリスニングルームではないのであしからず。
ところが録音中に夕食時になり母が「ごはん、支度できたわよ~」と声を掛けてきたので、中断。
食事後、部屋に戻ってさっきのを聴いてみようと二人ともヘッドフォンをして録音したものを再生し始めた。
「お、なかなか臨場感あるじゃん」「普通に聴くより広さを感じるね」などと言い合いながら聴いていたら、突然「ごはん、支度できたわよ~」の母の声。え、何?またご飯?違う?二人で目を丸くして一瞬振り向き顔を見合わせ、その後に大笑いである。そう、録音を中断する前の母の声が録音されていて、それが非常にリアルにしかもヘッドフォンをしている人から見て方向感、距離感を感じるように聞こえたので本当に声を掛けられたように聞こえたのだ。
サンプル LP も聴いていたとはいえ、さほどオーディオにこだわりがなく予備知識のなかった友人はかなり驚いたようだ。
効果のほどは確認されたが、楽しんだのは少しの間。わざわざ LP を再生してダミーヘッドを使って録音してヘッドフォンで聴く、などというライフスタイルは存在せず、件のダミーヘッドも発泡スチロール製だったのでだんだん砕けてきてお終いとなった。まだヘッドフォンステレオ:ウォークマンが発売される前だったので、需要もなかったのだろう。あってもわざわざ自宅リスニングルームで LP を再生してまったく雑音の入らない状態を維持しながらカセットに落とす、などということは至難の業だから使う人もいなかったと思う。
今だったらどうかな。メガネ型の小型カメラと耳のところにつけた小型マイクで何かの映像を収録してコンテンツ化し、ヘッドフォンとモニタ画面で再生すると自分がコンテンツの主人公のように感じるようなものができそうだし、すでにあるのかもしれない。
ちなみに当時も云われていたし自分の印象もそうだったが、バイノーラル音声は後方には方向感、距離感共に非常にリアルだが、前方の再現性が弱かった。頭の中でなっているという感じは薄らいでいるが、前方の距離感はもう一つだったと思う。
臨場感の再生という課題はオーディオにつきまとっているような気がして、一時は DSP を使って「カーネギーホールの響きを再現!」といった製品も出ていたようだが、そもそもスピーカが前方にしかないのでは無理なような気がする。かといって 5.1ch は映画などでの効果音としての使い方ばかりが目に付く。
一時期 4ch ヘッドフォンというのもあったようだ。ドルビーサラウンドシステムとの組み合わせで臨場感を味わえるようであるが、あまり一般化しなかったようである。バイノーラルレコーディングと 4ch ヘッドフォンの組み合わせでもう少し前方の臨場感を改善出来ないのかな、と思うのであるがどうなんだろう。昔と違ってデジタル処理でバイノーラル効果を作り出せそうな気がするのだが。
そしてこれらの話は「原音って何?」に行き着いたりするので面倒なことになる。

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