最近元同僚が定年を迎えたり、早期退職して新しい職に付いたりする連絡があったりして、もうそんな年齢なんだよな、などと思ってしまう。

今回は直接そういう人たちとは関係ないが、そんなことをきっかけに思い出した話である。どちらかというと思い出し笑いに近いかも知れないが。

自分が光ディスクドライブの光学ヘッド事業に携わってきた頃、部品事業ということで顧客はドライブメーカを始め DVD が搭載されたカーナビメーカなどもあった。当該カーナビメーカを A 社とする。
さて A 社への供給については、聞いた話だと車載ということで使用環境条件なども厳しいのでお断りするはずだった。ところが相手側の設計陣から「セット側で使いこなしを何とかするから供給して下さい」ということで取引しましょうという流れだったようである(あくまでも伝え聞いた話である)。
ところがいざ部品(光学ヘッド)を供給して搭載してみると温度環境が厳しく、センサーの出力がずれたりして出荷できなくなったり、歩留まりが悪化したりして問題になった。
そうなると A 社の品質部門、調達部門などが大挙して押しかけてきて「どうしてくれるんだ!」となる。こちらも色々反論はするのだが、こういう場合は顧客側の方が強い。
前述のように元々設計に無理がある中での採用なので、こちらとしては切ってもらっても構わないぐらいの状況なのだが会社間の関係というのはこれまた色々アヤがあってそうも行かない。結局こちらの設計者が一方的に責められることになる。こちらの品質部門、製造部門も知らん顔していたわけではないが、現実に答えが出せない(後述のように権限もない)のでそういうことになる。

そこで A 社のセット設計陣とももう一度相談しましょうと云うことになって、A 社からはセット設計者で部品の受け入れ評価も担当していた E さんや品質部門の方々も含めて、こちらの営業や製造技術、設計者で打ち合わせを行った。今となっては最初の話を蒸し返しても仕方がない、ということで出来るだけ前向きに対策を考えようということだったが、E さんも A 社の立場を背負っているからうかつなことはいえなくて、もじもじしてしまう。
そこで私は云った。「今回の問題は御社とこちらの設計のまずさが招いてしまったことで、結果的に双方の製造や品質部門に迷惑を掛けているんですよね」
つられて E さん「そうです」
これだけである。が、この瞬間に「A 社」対「T 社」という構図の問題が、「双方の製造 / 品質部門」対「双方の設計部門」という構図に転換されたのである。
雰囲気が伝わるだろうか。
あとでこちらの営業部長や品質担当窓口の人から「よく言ってくれました!」とか「すかっとしました」とか賛辞をもらったが、それを紹介してドヤ顔するのが主旨ではない。

製造歩留まりや品質問題は工程管理や作業管理で解決するのであれば、当該部門が色々な手法を屈指して問題に当たれば良いが、このケースは設計の根本に問題があるので、そういった部門で解決は不可能なのである。設計者が出した図面や指示書はそれらの部門では一語一句たりとも書き換えることが許されないので、その図面、内容に問題があれば設計者しか解決できないのだ。タイトルとの関係はここにある。
余談になるが、自分は品質部門にこそ最強のエンジニアがいるべきであって、何か品質問題が発生したときにはどこまでさかのぼって解決するかを瞬時に判断する能力が必要だと思っている。自分たちで解決できる問題を設計部門に振ってはいけないし、出来ない問題をいつまでも抱えてはいけない。その切り分けのためのスキルと知識が品質部門には必要なのである。

さて、問題の構図が変わったことで一方的にこちら側が責められることはなくなり、相手の設計部門と知恵を出しながら改善していく環境が整った。相手の品質部門、調達部門もまずは A 社内で設計者も含めてもんでからその都度対応策をこちらと考えるという流れになったので、こちらも改善に集中できるようになった。
残念ながらこの問題、結局きれいに解決することは出来ずその都度対応にならざるを得なかったのだが、事業としては双方それなりに継続したのでそれはそれで良かったのだろうと思うことにする。

ちなみに営業部長の M 氏、いつもの Y 上司(当時室長)にこの件を報告したところ「あいつ(私)はそれなりに数多くの修羅場をくぐってきたからそういうことがいえるんだ」とのたまわったとのこと。え、数多くの修羅場をくぐってきた?!それってそれだけ多くの問題を引き起こして来たっていいたいわけ?まあそうなんだろうな。反論できない...。


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