下図はディジタル技術検定 3 級第 52 回の (3) である。
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表のような定格を持つトランジスタを動作させた場合、実際にどんな制約を得るかということを考える。
ちなみに実際のトランジスタでは絶対最大定格はこんな風になっている。
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最大定格はいずれか一つでも超えたら壊れる、動作が異常になるという意味なので、ここでは Vce に 15V を与えたときにコレクタ電流をいくらまで流して良いかということだが、表から Ic の最大値は 150mA だからこれでいいのかと思いきや、選択肢にない!もちろん 150mA は間違いなので、選択肢にない分親切な問題といえる。が、図ぐらいは欲しいなと思う。
ということで下図を見て欲しい。
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Vce が 15V なので、常時トランジスタのエミッタ-コレクタ間には電圧が印加されている。この状態でベース電流を制御すると Ic が流れ出すわけだがトランジスタとしては Vce x Ic のパワーを消費して熱になっていることが分かる。パワー自体の発生は主にエミッタ-コレクタであるが、Pc というのはこの消費電力の最大許容値を表している。カタログではコレクタ損失と等価である。
ということで、Vce が 15V で Pc の最大許容値が 450mA だから、Ic は Icmax = 450mW / 15V ということで 30mA となる。

この問題についても実設計でどう考えるのか見てみたい。
図は前述のトランジスタ 2SC1815 を使ったスイッチング回路である。5V(正確である必要はない)振幅のパルスを使って、50V という電圧を ON / OFF しようというものだ。レベルシフト型インバータである。2SC1815 は問題に出てくるトランジスタよりはコレクタ損失が 400mW と少し低いから、さらにコレクタ電流を抑えなくてはいけないというのは想像つく。
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が、スイッチング動作というのはトランジスタにとっては、ON と OFF の区間だけ見るとそんなに負担の掛かる使い方ではない。つまりエミッタ-コレクタ間電圧が高いと云うことは、トランジスタがオフになっているということで電流は流れていない。よってコレクタ電流は気にする必要はなく、コレクタ損失はほぼゼロである。逆にコレクタ電流が限界まで流れていると云うことはトランジスタのエミッタ-コレクタ間電圧もほぼゼロになっているため、やはりコレクタ損失はゼロに近い。ただしその検討だけでは不十分で、トランジスタが ON / OFF するときはトランジスタの飽和領域と遮断領域を行き来すると云うことだが、途中の能動領域をどうしても通過しなくてはいけない。それによってわずかな時間だがエミッタ-コレクタ間電圧が高く、コレクタ電流も流れているという時間が存在する。
回路図をシミュレーションした結果が以下である。
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Ic は 0 と 150mA フルスイング、Vc も 0 と 50V と電流とは逆相でフルスイング。ところが一番下はトランジスタでの消費電力だが、切り替えの度に 2W 近くまで上がる。これが切り替え動作における無駄な消費電力となる。絶対最大定格というのは一瞬たりとも越えてはいけない規格なので(一瞬って何?というツッコミはなし)、このトランジスタは壊れても不思議はないということになる。ここでは約 50ns という最大定格 400mW を越える時間幅が存在する。
さらにここでは入力パルスの立ち上がりは速かったが、ゆっくり変化しようものならそれだけ最大定格越えする時間が長くなる。また最初のいくつかのパルスは耐えても、トランジスタ自身が温度が上がってしまうため劣化が加速することになる。
パワートランジスタなどでは、ある特定の条件(パルス幅や放熱板の面積)を指定して、最大定格の参考値を載せてあることもある。これは機会があれば解説したい。
いずれにせよ、スイッチング動作ではその定数上で起こりうる最大電流と最大電圧が同時に起こることを想定して、さらにマージンを持たせるようにする必要がある。

リニア動作ではどうか。
下図はちょっと極端な例であるが、エミッタに抵抗を入れた場合である。この時の DC 特性を測定してみるとグラフのようになる。
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IC は最大電流を越えず、Vce も最大電圧を越えていないが、特定の入力条件でトランジスタが 600mW 近い消費電力になっている。
この場合 R3 - Q1 - R4 で消費しうる最大電力は Vce が 0 の時で 15V ^2 / (50 + 50) = 2.25W になる。トランジスタだけでそこまで電力を消費する状態にはならないが、入力電圧が 4.5V ぐらいの時には定格を越えてしまうのである。

おおよその目安だが、常温動作で設計したときコレクタ損失は最大定格の半分ぐらいにしておくと安心である。

この問題はただ計算するだけなら最初に考えたとおりだが、実際に応用しようとすると結構色々な示唆に富んでいるので、回路設計をしていこうという技術者は身につけておきたい。


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