昔の昔、テレビ、ラジオその他の電化製品の調子が悪い時は、叩く、蹴るのが基本などという都市伝説まがいの説があったりした。もちろん 100% NG 行為で、要は接触不良が発生しているときに一時的に振動などによってつながることはあり得るだろうし、実際に起きていたのかも知れないが、実態はより悪化させていることが多かったろう。特に発熱を伴うドライヤーとかトースターとかなどに対してはとんでもない話である。今は電化製品はみな精密機器なので、振動でも与えようものならトドメを刺すようなことなので、やる人はいないと思う。もちろんやってはいけません。

さて、今回はその叩くとまではいかないが、ちょっとつついてみたらトラブルの原因が分かったという話。

光ディスクドライブの中のスピンドルモータが時々エラーを起こすということでクレームになって私のところに調査依頼が来た。一旦は品質保証担当で再現試験をさせてみたが、一度出たきりであとはでないということで設計の方に依頼された、ということだ。
さて、ドライブ装置を目の前にしてスピンドルモータエラーが出るかどうかランニングさせてみたが、出てくれない。あるいはごく稀に出たかというところだったと思う。
スピンドルモータエラーとは何かというと、ディスクを回している 3 相 DC モータはクロックとモータが発生させている FG パルスを比較して同じ周波数になるように PLL という方式を使って制御してるのだが、その PLL のロックが突然はずれるというものだ。
FG パルスも PLL もこのブログの中で一部触れているので参考にしてもらえると分かりやすいかも知れないが、一応簡単に説明すると FG パルスというのはモータ自体が発生させている信号を二値化することで得られる。モータが発生している信号はこの時は 1 回転当たり 32 の正弦波である。なんでこんなにあるのかというと、モータの回路が搭載されている基板上でロータの外縁の向かい合うところに矩形パターンが 32 個一周回ってひいてあり、ロータ側は 32 個に分割された磁石がある(何かないかとパクってきたのが、下図。特許文書だが大胆すぎるか)。この組み合わせによって、パターンに電流が励起され 32 rpm の周波数の正弦波が現れる。この信号はパターン上に磁石からの磁束が横切ることによって発生するわけだが、横切る速度が速い = 回転数が高いほど振幅が大きくなる。よってこの信号を受けるオペアンプでは帰還抵抗に並列にコンデンサを入れて LPF を構成させて、回転数に関わらずほぼ一定の信号振幅が得られるようにしておく。
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FG パルスを得る方法は他にも色々あるが、この時はこの方式だったと云うことだ。

この信号と基準クロックとを比較して位相差、周波数差に応じてモータに与える電流を制御することで安定な回転を保っているわけだが、何かの理由でこの信号が乱れると位相差、周波数差が生じて回転がおかしい、ということを検出してしまう。

では何が起きているんだろうと云うことで、モータからの信号を LPF も兼ねて増幅しているオペアンプの出力をじっと見ていたら、一瞬その振幅が平常値より大きくなっているのが目に入った。そしてその時ドライブはモータエラーのステータスを発してきた。何?なぜ?
ということで基本に立ち返って(違う!)、ちょっとモータ基板をつついてみる。
お、一瞬振幅が増えるのが再現した。エラーにもなる。多分これだろうということだが、先ほど説明したようにオペアンプは LPF も兼ねて信号を増幅している。この回転数(900 rpm)ぐらいなら LPF で利得が下げられているはず、それがつつくことによって振幅が上がってしまうのだから、LPF が機能していない、つまりコンデンサ(上図の C)がおかしくなっているに違いないという推測ができた。
そのコンデンサ周辺をチェックしていったところ、コンデンサの電極が剥がれ掛かっていることが分かった。これで一応現象の説明はつく。実際にコンデンサを丁寧に外して見るとクラックらしき物が見えた。これを修正してレポートしてお仕事終了。

まだチップ部品とその実装技術、確認技術が確立していない時期だったので、こういうことは起こっても仕方がなかったと今となっては思う。だが、「何でそういう部品を使うような設計をしたんだ」とか上から云われたり、「検査しろいうなら検査ジグ作成費用を出して下さい」と部品屋(社内なのでこういうこともある)に開き直られたり(さすがに相手の営業はそれをなだめた)と一騒ぎであった。
自分の上司と品質保証の課長は「基板を叩いて(つついただけです!)現象を出すなどという画蔵の発想はさすがにアレだね」などと笑い合っていたらしい。

う~ん、精密機器なので振動を与えてはいけません、という話はどこへ行ったんだろう...。
少なくともつついても直りませんよ。間違いなく。

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