今まで紹介してきたトランジスタ増幅器ですが、エミッタ抵抗入りエミッタ接地回路ということで、電圧増幅率は(コレクタ抵抗 / エミッタ抵抗)で決まります。実際はその比よりも小さくなりますが。
では、実際に絶対値としてはどう選べば良いのでしょうか。今回はその辺りを調べてみることにします。

回路はこれです。
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Coef というパラメータを変化させて、R1、R2、R3、R4 を同時に振ってみて、コレクタ電流の中心値が約 2.5mA、800uA250uA80uA ぐらいになるようにして動作させてみます。歪みとかも調べるので振幅は少し小さめにしてみました。
波形はこうなりました。
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コレクタでの信号の中心電位が 2.5V にならないかと狙っては見ましたが、そうもいかずちょっとずれてしまいました。

この波形だけ見ればこの程度の範囲ならコレクタ電流に関係なく、ベースの分圧抵抗を丁寧にコントロールすれば目的は達成できそうです。

高調波歪みを見てみます。電流最大と最小で比較してみました。
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二次高調波のところだけでしたか数値の比較はしていませんが、最大と最小で約 5dB の差があります。電流が少ない方が歪みは多そうです。ただ LTspice の正弦波電圧源は搭載されている FFT ですでにもっと高次の高調波が測定されてしまいますので、ノイズを含んだ総合特性ということでは比較しづらいかも知れません。

LTspice:「・・・」

そうはいっても二次高調波信号源のところでは、入力信号のところでは高調波は発生していないので今回の測定結果は多少は当てになるとは思います。

さて周波数特性ですが、こうなりました。
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一般的に云われているようにコレクタ電流が多い方が、帯域は広くなります
こうなってしまうカラクリは、いくつか挙げられるのですが(コレクタ-ベース)間の容量の影響が大きいと考えて良いでしょう。つまりコレクタからベースにコンデンサを通じて電圧がフィードバックされている、ということです。これがコレクタ電流によって変化していて、電流が大きい方が容量が小さい(あくまでも活性領域で)と思いますが、データシートには載っていません。
ただ伝達周波数はこのようなグラフが載っていました。
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これを見ると確かに今回評価した範囲では、電流が大きい方が伝達周波数は高いので結果とデータシートの方向は合っているかと思います。なお伝達周波数は別名カットオフ周波数と云われていて、hfe が 1 になる周波数のことを云います。たとえば hfe が 100 で、カットオフ周波数が 100MHz ならばそのトランジスタは、1MHz ぐらいまでしか hfe = 100 の性能が出ない、ということです。電流利得をさほど取らない回路なら影響は少ないですが、たくさん取ろうとすると影響が出だす、ということです。
ではその電流利得ってなんだよ、どう設計監理するんだよ、ということになるんですけども、ちょっと自分もわかりきっていない部分があるので、今回の動作状態を示して逃げることにします。
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今回評価した範囲では、低い周波数での hfe は同じになっていますね。で、データシート通り電流をたくさん流す方が帯域は広いということです。

これらの現象(帯域、歪み)などをもう少し詳しく突っ込んでやるには素のトランジスタ特性の調査からはじめなくてはいけないのですが、研究テーマ(とはいってももう行われている)に近くなってしまうので、あくまでも応用にこだわるこのブログではここまでとしたいと思います。

なお、もっと電流を流せばもっと性能が出ると思うかも知れませんが、適当なところでサチりますので欲張らないようにして下さい。むしろ発熱の影響で不安定になったりします。