今までのトランジスタ増幅回路では、増幅率がおおよそ(コレクタ抵抗 / エミッタ抵抗)で決まりました。もちろん信号の先頭からコンデンサが入っていますので、DC カットされていますし、トランジスタの性能や実装で高周波領域は制限されてしまいます。ですが、だいたい 100Hz ~ 数100KHz では設計的に管理された増幅率といえます。またある程度管理しておかないと信号振幅が大きくなった場合に歪みが大きくなったりすることがあるのは今まで紹介したとおりです。

しかし、多くのところで紹介されているエミッタ接地型増幅器はエミッタ抵抗に並列にコンデンサが入っているケースが多いと思います。ということはある程度の周波数より高くなるとエミッタ抵抗よりもコンデンサのインピーダンスが下がってくるので、利得が上がるということになります。で、今回のような 100Hz ~ 数100KHz 範囲でほぼ同一利得でもっと大きな利得が取れるように大きめの値のコンデンサを入れておきます。

回路図はこうなっています。全体の周波数特性を比較したいので負荷抵抗として 100KΩ 入れておきました。
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C3 = CE を 0.01p(ないのと同じと想定)と 100uF の二つで比較してみました。
波形はこうです。
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1KHz でずいぶん差がありますね。10 倍ぐらい利得が上がります。

周波数特性を見てみます。低い周波数の方が気になるので、そちらを多く表示しています。
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なかなか位相のスケール表示が云うこと聞いてくれなくて見づらいですが、1Hz ~ 100Hz ぐらいのところで位相が進んでいます。それがどうした、という感じではあるのですが、個人的には好きではありません。ほとんど感覚的な問題です。それと利得が管理できないのも気になります。hFE が違うトランジスタを持ってくれば、当然のように利得は変わります。
ただ、全く否定的に考えているわけではなくて、R1、R2、R3、R4 で動作ポイントを決めておいて(信号の中心電位を決めておいて)、入力信号が非常に低いのでとにかく利得を取って次段以降に伝えたい、という用途には良いのではないでしょうか。次段以降で利得を制御するような回路があれば、そこで合わせればいいわけです。どうしてもある程度は管理したいのであれば、C3 に直列に抵抗を入れておくと云うことも出来ます。
ただ一つだけ注意しておくことは、この規模の回路に周波数特性を変化させてしまうコンデンサが 3つも入っているのですから、その数値の影響をよく見ておく必要があります。それとどうしても群遅延特性は乱れるので、パルスへの応答はオーバーシュートを持ったり、遅れが生じたりします。
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ということで用途によってどんな特性を優先するか、譲れない特性は何かは変わるので気に留めておいた方がよい、ということになります。特に位相特性はこの増幅器だけなら問題を起こすとは思えませんが、次段以降でさらに増幅したり実装が悪くて非常に低い周波数がリークしたりすると、超低域で暴れ出す恐れがあるかも知れないと云うことです。