まず最初にお断りしておきますが、私はミリ波レーダを扱う会社で半年ほど前まで働いていたので、その会社独自の技術に関しては守秘義務があります。よって、ここで書くことはそれらに触れることは出来ず、一般的にレーダに関して云われていることをまとめる程度プラスその後に自分が思いついたことに限られてしまいます。迫力不足になるかも知れませんが、その辺りをご理解下さるようお願いします。

さて、そもそもミリ波レーダってどんな原理?というところから始めたいと思います。
ミリ波ですから、波長はミリ単位。電磁波ですから真空中、通常の空気中を伝播することが出来てその速度はほぼ光速。
となると、(周波数)=(速度)/(波長)ですから、波長が 1mm なら 300GHz、10mm なら 30GHz ということでその辺りの周波数帯と思ってもらえれば良いです。レーダとして具体的に実用化しているのは 23GHz76GHz ぐらいのものです。

ではマイクロ波とは?というとよく電子レンジが英語では Microwave oven と云って 2.4GHz ぐらいの周波数を使っていると思いました。
・・・・・・・。え? 2.4GHz って波長がミリよりも長くね?マイクロ波なら 300GHz 以上ではないとそう言わないのでは?
ええ、そうなんです。なぜか電子レンジは数 GHz 帯の電磁波を使っているのにマイクロ波なのです。なんでこんな変なことになっているのでしょうか。
一説によると、マイクロとはミクロとも呼んだりしますが要は小さい物を指す代名詞として使われてしまっていたので、波長が短い=マイクロ波ということになって、単位のμとは別物になってしまったようです。マクロ経済に対してミクロ経済と云ってみたり、ミクロの世界などと云って、その延長で波長が短いものということなんでしょうね。ちなみに光の中で波長が長い方に属する赤色は 800nm = 0.8um ですから、文字通りマイクロ波というと遠赤外線の領域でしょうか。電子レンジも遠赤外線で暖めておいしい、などといううたい文句あったようななかったような。気のせいでしょう...。

話を戻して、ミリ波の中でも 23GHz や 76GHz 近傍が使われているのはわけがあるようで、曰く「天候などの影響を受けにくい」、「空気中で減衰しにくい」、「プラスチック(車のボディーとかバンパー)を透過させやすい」などと云われています。どこからか聞きかじっただけで出典が示せないのが残念ですが、何か良い特徴があることは間違いないと思います。

周波数のことはさておいて、なにがしかの電磁波を発生させてアンテナを通じて放射させ、それを反射する物が放射された範囲にあれば電磁波は戻ってくるわけです。光と同様電磁波も有限の速度を持っていますので、戻ってきた電磁波を受信して放射したタイミングとの遅れ時間を測定すれば、電磁波が伝播していた距離が分かり、反射物とアンテナの距離はその半分ということになります。

ということで、一発パルスを発生させてアンテナで放射し、次の図の緑矢印のようにそのパルスが戻ってくるまでの時間を測定すればいいわけです。
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ですが、受信アンテナに入ってきた信号は本当にこちらが送信したパルスが返ってきたかどうかの判断はちょっと難しくて...。
矩形パルスを首尾良く発生させてアンテナから出力させたとしても、百鬼夜行魑魅魍魎うごめく空間からそのパルスの反射信号を識別するのはそうとう難しそうです。だいたい、矩形パルスと云っても短くなればなるほどインパルスに近づくわけですから含んでいる周波数成分は非常に高帯域な信号になります。ですので、送信する側も大変なら受信する側も大変です。すべての周波数を有効と見なさなくてはいけませんから、テレビやラジオ、携帯電話などから受ける信号も無視して良いかどうか判断できません。それに遠くまで行って返ってくるとかなり電磁波は減衰します、というか広がってしまって受信アンテナに戻ってくる距離に応じてどんどん下がります。

では出力を上げよう、という直線的な発想では今度は、周囲に捲き散らかすエネルギー量も多くなって他の機器に悪影響を与えます。法律にも引っかかってしまいます。

そこで良さげな周波数を選んで、これまた短い時間それなりの強さの(怒られない程度の)電磁波を発生させてターゲットに反射させ、受信アンテナが受信した信号からその周波数成分だけを抜き出して、遅れ時間を測定すれというのはどうでしょうか。
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特定の周波数を分別するのにデジタル技術でなんとかしようというわけです。

一見良さそうなのですが、問題は発生させている時間でして、たとえば 10m 離れているものを検出しようと思ったら、往復で 20m 電磁波が伝播することになり、その時間はというと約 67ns ということで、それより短い発生時間にしなくてはいけないということになり、これはこれでエネルギーとしても小さく、S / N も悪そうです。
これでは実用的ではない、ということである頭のいい人が FMCW という方法を考え出しました。
次回はこれの解説をしてみようと思います。

ちなみに車載レーダに関して、古いですが以下の記事を見つけましたので、興味がある方はご覧になって下さい。

「ぶつからない自動車」を支える車載ミリ波レーダー、満を持して量産化へ
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/091000064/091600002/