前回は回路をループにしないで、オープンの状態で取ることでいわゆるオープンループ特性を確認してみました。コメントをするのを忘れましたが、全体の特性を表しているグラフの中でゲイン 0dB 以上、位相 0°という閉ループにした場合発振するであろう条件、正帰還を満たしている周波数は、870KHz 付近にありました。そのため回路をクローズすると発振するわけです。で、その特性の内 870KHz に関係なさそうな低域(100KHz 以下)は入力のコンデンサ C2、1MHz 以上の特性はトランジスタ増幅器の部分にある、ということがπ型フィルタを外してみたら分かりました。

では、もう一度全部つないで各点を測定してみます。
Vc の周波数特性を追加しました。
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お、Vc の周波数特性は何か面白い形をしていますね?
870KHz 付近で Vout と同じようにピークを持ちさらに 620KHz 付近で急激な落ち込みが発生しています。
前回測ったときは、この辺りはほぼフラットでした。何が変わったのでしょうか。

そもそもトランジスタのコレクタというものはどういう信号が現れるのか、前に一度ちょっと触れたことがあります。

やさしく考えるアナログ回路: トランスコンダクタンスアンプの動作
http://blogs.yahoo.co.jp/susanoo2001_hero/7172627.html

ここでトランジスタ回路のコレクタ端子は電流出力です。

と書きました。つまりトランジスタはベース電流を使ってコレクタ電流を制御している素子なのです。突如ここに電圧が現れるわけではありません。あくまでも電流が流れてくるので、なにがしかの抵抗 etc のようなインピーダンスを持つものを接続して電圧に変換しないといけません。あるいはそのまま電流として伝達するかです。
ちなみに真空管も FET もそれぞれアノード端子、ドレイン端子は電流出力です。グリッド、ゲート信号でその電流を制御しているわけです。ですので何かインピーダンスをつながないと電圧として取り出すことは出来ません。

ということで、コレクタ端子を電流源と見なして等価回路図を描いてみます。
交流しか扱わないので、R1 の接続先はグランドです。
イメージ 2
Vc Vout の周波数特性を見てみると、
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ということで、回路のコレクタ以降と同じようなものが得られました。
さて、回路が電流源で始まっていて分かりづらいので、電圧源の回路に変換します。
イメージ 4
電圧源の値は(電流源の値)x(並列抵抗値)となり、並列抵抗は電圧源への直列抵抗になります。

こうやってみると仮想コレクタ電圧は I1(= Ic) と R1 の積と云うことでいいのですが、真のコレクタ電圧は回路図中の R1 を通過した箇所 Vc ということになります。では仮想コレクタ電圧から Vout まではどういう回路かというと、 R1 と C1 で構成された一次 LPF と L2 と C2 で構成された二次 LPF が縦続接続されたもの、ということになります。ただし前の記事で述べたように、

パッシヴフィルタの二段接続

http://blogs.yahoo.co.jp/susanoo2001_hero/10839601.html

前段の LPF と後段の LPF が微妙に干渉して、前述のような Vc 特性になるわけです。
この「微妙に干渉」というのが怪しさ満点で、ちょっと戻って「L2 と C2 で構成された二次 LPF」というのも通常の教科書には書いていません。必ずどこかに抵抗が混ざります。怖い物見たさで計算、シミュレーションしてみて下さい。

ということで、微妙に干渉しながらも一次 LPF と二次 LPF の縦続接続されたらしきものというのは分かりました。特に二次 LPF はコイルとコンデンサで構成されているので、パッシブながら共振特性を示して特定の周波数で利得が上がりそうだ、というのも感覚的につかめると思います。位相特性はどうなっているかというと、

アクティヴフィルタを調べてみる
http://blogs.yahoo.co.jp/susanoo2001_hero/10383948.html

を見直していただきたいのですが、その飛び上がり周波数のところで位相は 90°遅れています。飛び上がり量が多ければ多いほど、ピンポイントになります。その特性を前段の一次 LPF との組み合わせで考えると微妙な干渉を考慮しても、飛び上がり周波数のところでトータル 180°遅れになる、というのが想像つくかと思います。

ならば、後段の二次 LPF が表す飛び上がり周波数はその共振点である、1 /(2π(L1 x C4)^0.5)) か?というわけではなく、そこで微妙な干渉が発生して、C4 ではなく C = C3 // C4 になるわけです。ちなみに Vc のところに発生している強烈なディップは C3 = C4 の時は、その値と L1 とで決まる共振周波数になります。違う場合は計算が大変そうなのでやめておきます。
本当にそうか確認したい方は、「パッシヴフィルタの二段接続」の最後の方の式、R = R1 = R2 の前の式に。R2 = sL1 として計算し直してみて下さい。ここでは省略します。ただ分母が s の三次式になるのでどの部分がそれを表しているのかはちょっとわかりにくいかも知れません。というか自分も自信ありません。

戻って、とにかくある周波数でピンポイントで位相遅れが 180°になるわけですから、これを反転増幅器であるトランジスタ回路込みで、Vout を信号源の代わりにもとの回路のようにつなぐとピンポイントで正帰還になり発振するようだ、という理解の仕方になると思います。
最初の自分のイメージでは共振回路でどこかの周波数が位相遅れ 180°になってそれで正帰還になる、と思っていたのですが、共振回路では遅れるのはピンポイントで 90°にしておいて、別のフィルタ特性で広く 90°遅らせてトータルでピンポイント 180°遅れを作る、しかもピークを持たせて正帰還にする、ということです。

このようにエミッタ接地型コルピッツ発振回路をさばいてみました。
いかがでしょうか。

LTspice:「マグロを三枚におろしたみたいだな」
画蔵:「それ褒めているのか、おちょくっているのか?」
LTspice:「オレもよく分からんww」


一石トランジスタ増幅回路の考え方の整理については機会があればやってみたいと思います。