今までの解説でなんか自分にはあまり関係なさそうな話のように感じていて、題目の「複素正弦波」「オイラーの公式」というものの応用性が分からなかったのだが、どうもその理由として自分の扱っていた製品が光ディスクドライブであって、単一周波数とその位相や周辺周波数との関わり合いについてほとんど議論を必要としなかったことに因るようだ。
自分の扱っていたアナログデータの信号処理と云えば、ある程度の帯域を必要としていて位相特性=群遅延時間など全体としてどうなっているのかとか、サーボだったらそれこそ DC から考えなくてはいけないのである周波数だけを特別扱いして議論する必要がなかったのである。
ところが今はレーダー関連の仕事をしていて電磁波の干渉や波としての屈折した結果どうなる、などを検討するときはほぼ単一周波数で議論をする。それを計算するときに複素正弦波での表現やオイラーの公式は重宝することに気が付いた。
LTspice「学生時代、何していたんだよ」
画蔵「一応勉強していたようだが...。実家にノートが残っていた」
現在の仕事に関する話なので細かいことを書くわけにはいかないが、たとえば次のような図が示すように、ビルのアンテナから発せられた電波がある家のアンテナに到達することを想定してみる。俗に言うマルチパスというやつである。

これはみなさんがよくご存知の話その通りで、直接伝わる d という成分と地面の反射を経由して伝わる d1 + d2 という成分の時間差によって、受信場所では時間遅れの信号が混ざってテレビの場合だとゴーストという現象につながっていたという話だ。
テレビのような放送波なら信号自体が刻一刻と変化していたため、信号の強弱の変化がどうこうよりも放送内容が見づらくなる、という形で見えていたが、レーダの場合はほぼ単一周波数を送ってそこからの反射量を見るので、気になり方がちょっと違う。
早い話が受信点での二つの伝搬距離の差によって生じる位相差による干渉である。
二つの同一周波数の位相差による干渉が引き起こす最終的な振幅変動が問題になるのだが、二つの周波数の振幅が同じならさほど難しくはない。高校で習った三角関数の加法定理などを使えば、力業で解ける。
が、振幅差があるとかなり計算が面倒くさくなる。もちろんやって出来ないことはない。
そこで複素正弦波とオイラーの公式を用いてサクッとやってしまおうと云うことである。
元々の送信波 T(t) を振幅 1 として次のように表現する。

これが直接受信側に到達する信号 M(t)として、適当な減衰 A を伴ってこのようになったとする。

また地面経由で受信側に到達する信号 S(t) として、これも適当な減衰 B を伴ってこのようになったとする。

ここで φ は双方の信号が到達時に持っている位相差で次の式で表される。

λ は使っている電波の波長だが、これは空気中の電波の速度 c(光とほぼ同じで 3 x 10^8)と電波の周波数 f で決まる。
よって受信点での信号 R(t)は、M(t) と S(t) との加算で表されるので、以下次のような計算で解くことが出来る。

なるほどオイラーの公式は偉大です。
LTspice「今頃...」
最終的に欲しいのは R(t) の振幅なので、これは式の結果が複素平面上でのベクトル表現になっていることを利用して、

ということになる。
今回は同一周波数の干渉について利用してみたが、多少の周波数偏差を持つ信号同士の干渉結果などにも使えるんでしょうね。AM 変調や FM 変調についての Wiki では見当たらなかったが。
ちなみに「技術メモ」書庫も前々回にベクトルの積を苦労して解いていたが、この公式を使うとこんな感じになる。

よく見ると全く同じことをやっているわけだが、指数関数表記を用いることで計算が簡単になるというわけである。
数十年技術者やっていて今更感半端ないですが、もし学習中の方でこの手の話は敷居が高そう、と感じている人に参考になれば幸いです。
自分の扱っていたアナログデータの信号処理と云えば、ある程度の帯域を必要としていて位相特性=群遅延時間など全体としてどうなっているのかとか、サーボだったらそれこそ DC から考えなくてはいけないのである周波数だけを特別扱いして議論する必要がなかったのである。
ところが今はレーダー関連の仕事をしていて電磁波の干渉や波としての屈折した結果どうなる、などを検討するときはほぼ単一周波数で議論をする。それを計算するときに複素正弦波での表現やオイラーの公式は重宝することに気が付いた。
LTspice「学生時代、何していたんだよ」
画蔵「一応勉強していたようだが...。実家にノートが残っていた」
現在の仕事に関する話なので細かいことを書くわけにはいかないが、たとえば次のような図が示すように、ビルのアンテナから発せられた電波がある家のアンテナに到達することを想定してみる。俗に言うマルチパスというやつである。

これはみなさんがよくご存知の話その通りで、直接伝わる d という成分と地面の反射を経由して伝わる d1 + d2 という成分の時間差によって、受信場所では時間遅れの信号が混ざってテレビの場合だとゴーストという現象につながっていたという話だ。
テレビのような放送波なら信号自体が刻一刻と変化していたため、信号の強弱の変化がどうこうよりも放送内容が見づらくなる、という形で見えていたが、レーダの場合はほぼ単一周波数を送ってそこからの反射量を見るので、気になり方がちょっと違う。
早い話が受信点での二つの伝搬距離の差によって生じる位相差による干渉である。
二つの同一周波数の位相差による干渉が引き起こす最終的な振幅変動が問題になるのだが、二つの周波数の振幅が同じならさほど難しくはない。高校で習った三角関数の加法定理などを使えば、力業で解ける。
が、振幅差があるとかなり計算が面倒くさくなる。もちろんやって出来ないことはない。
そこで複素正弦波とオイラーの公式を用いてサクッとやってしまおうと云うことである。
元々の送信波 T(t) を振幅 1 として次のように表現する。

これが直接受信側に到達する信号 M(t)として、適当な減衰 A を伴ってこのようになったとする。

また地面経由で受信側に到達する信号 S(t) として、これも適当な減衰 B を伴ってこのようになったとする。

ここで φ は双方の信号が到達時に持っている位相差で次の式で表される。

λ は使っている電波の波長だが、これは空気中の電波の速度 c(光とほぼ同じで 3 x 10^8)と電波の周波数 f で決まる。
よって受信点での信号 R(t)は、M(t) と S(t) との加算で表されるので、以下次のような計算で解くことが出来る。

なるほどオイラーの公式は偉大です。
LTspice「今頃...」
最終的に欲しいのは R(t) の振幅なので、これは式の結果が複素平面上でのベクトル表現になっていることを利用して、

ということになる。
今回は同一周波数の干渉について利用してみたが、多少の周波数偏差を持つ信号同士の干渉結果などにも使えるんでしょうね。AM 変調や FM 変調についての Wiki では見当たらなかったが。
ちなみに「技術メモ」書庫も前々回にベクトルの積を苦労して解いていたが、この公式を使うとこんな感じになる。

よく見ると全く同じことをやっているわけだが、指数関数表記を用いることで計算が簡単になるというわけである。
数十年技術者やっていて今更感半端ないですが、もし学習中の方でこの手の話は敷居が高そう、と感じている人に参考になれば幸いです。